「こいしちゃん!ごめん、おまたせ!」
「遅いよー、もう」
前回に決めた約束の時間より、遅くやってきたあなたを見て、眉を下げる。
「何か、ここがどこにあったか場所を忘れちゃってて……」
周りが鬱蒼とした森で囲まれているこの空き地。
普通なら迷っても仕方のない場所だけど、昔からここで遊んでいるのに、忘れるなんてことあるかな?
まあいいや。
「実は、伝えたいことがあってね!」
パッと華やぐあなたの表情。早く次の言葉を紡ぎたいと開かれる口。
「ついに、自分の小説が出ることになったんだ!」
「ええっ。よかったねー!」
数年前のあの日、私が手伝ったおかげなんだからね。と、心の中で得意気に呟く。
しかし、あなたは申し訳なさそうに声のトーンを落として言う。
「それで、新人として注目されるために、大作を書き上げないといけなくて……当分ここには来れないかもしれない」
「そっかぁ」
おそらく私の誕生日までには完成すると思う。と語るあなた
「じゃあ、約束しよ。その小説ができたら、一番に私に見せてね」
「分かった。一番はこいしちゃんに見せに行くね」
周りを照らす程の満面の笑みで、あなたは快活に返事をしてくれる。
いつからだっけ。いつも約束をする時は私があなたを見下ろしていたのに、今では自分が見上げる側なの。
心は無くしたはずなのに、こんな気分になったのは久しぶり。
自身の第三の目の目蓋が、震えた気がした。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!