第64話

戦闘再開
132
2022/06/06 12:19
マサカの爆弾に巻き込まれ、重体を負ったが全員命を落とすことは無かった。

戦を始めて早々、追い詰められてしまったが…【マサカ】の悪影響は私達のみならず 向こうにもあったそうだ。
その為、お互いに早速攻め始めようともせず、睨み合う時が過ぎていく。


日が彼方へ沈んでいくこの時間、電報を聞いたトルナム国からの援軍も来て…怪我を負った人達も次々と目を覚ました。



私は、塔の上で見張りをしているルナの元へ向かった。



ルナは、塔の上からずっとシオンのいるラザーラ国軍の方を見張っていた。
夕風が、そっと彼女の髪の毛を撫でていく。
イビル
……ルナさん、全員意識を取り戻しました。
ルナ 《近護騎士》
…あぁ、そう。良かった…
ルナ 《近護騎士》
じゃ、日が沈んだら計画通りに戦闘再開ね。
ルナは、安堵の息を漏らして日が沈む方へ顔を向けた。


こんなにゆっくりしてて大丈夫なのか。って?


大丈夫。シキは、シオン側も大勢の怪我を負い…すぐに戦を再開出来ないことを推測出来ていた。
しかも、シオンがまた仕掛けてくるなら…日が暮れた夜の時だという推測も。

ラザーラ国 宮殿は、広くて前よりもややこしい造りへと変わっていた。イビルでさえも分からなくなるぐらい元を歪んで築いてあった。



きっと、シオンは分かっていたのだろう。



イビルが自分を倒しに来るのなら、ここだ。___って事。

だから、イビルでさえも分からなくなるぐらい作り直し…新たな建物も加えた。
それに気づいたシキは、攻め方を変えた。
向こうが夜から攻めてくるのなら、私達は日が沈んだら直ぐに立ち向かえるように用意しておこう。____と。
イビル
…なんか、シキ達に頼ってばかりで申し訳ないです。
冷静に次の手段へと判断し出したシキを思い出しては、自分が不甲斐なく思えた。

顔に出ていたのだろうか、ルナは自分の隣にポンポンと手を叩き…『座って。』と私に手招きをした。

私は、頷いて ルナの隣に座った。
イビル
まさか、私が目覚める前から次の手段へと取り組んでいただなんて。
そう、シキは私よりも先に意識を取り戻し…シオンの考えに秒で追いついた。

そして、シキの能力で化け物と取り引きをして…この宮殿の仕組みを得た。それをシキ、グレイ、ルナは 全て頭に叩き入れたらしい。

シキのおかげで、私達は今シオンが何処にいるのか…いつ、何処から攻めてくるのか把握済みだ。
ルナ 《近護騎士》
…私達は、そんなことがあろうかと日々…記憶力を鍛えているから間取り図ぐらい余裕。
ルナ 《近護騎士》
ふふ、そんぐらいやるわ。
ルナ 《近護騎士》
16歳でここまでやってきた貴方に、中途半端な気持ちで接する訳が無いわよ。
ふふ。とルナは柔らかく微笑んだ。
ジアン
…わぉ、イビルもここに居たんだね。
後ろから声がし、振り返ったら湯気が漂うコップを持ったジアンがいた。
ジアン
ここは冷えるだろうと思って、ルナに温かいお茶を持ってきたよ。
ルナ 《近護騎士》
ジアン様、ありがとう御座います。
ジアン
…昼間の爆発で、ラザーラ国には大騒ぎだよ。
ジアン
…何故か伝説の王女が帰って来たという噂も流れているみたい。
イビル
…そう、ちゃんと知らせてくれたのね。
持ち物検査の時に、皆に告げるよう命令した護衛のことを思い出した。…ちゃんとやり遂げてくれたみたいで良かった。

___ならば、後は私が間に合うように頑張るだけだ。
ルナ 《近護騎士》
……頑張りましょ。
温かいお茶を飲み終えたルナが、そう呟いた。
ルナ 《近護騎士》
その後、体力も精神的にもきつい戦が本格的に始まるけれど…女同士 頑張りましょね。
ジアン
いひひ!そーだね!頑張ろ〜!
ジアンは、陽気に笑って立とうとするルナに手を貸した。
ジアンの手を借りて立ち上がったルナと3人で、私達はゆっくりと沈んでいく太陽を見届けてから塔の下へと降りた。
____________


シキが、化け物を通して得た情報で間取り図を描いていた。

空は、薄暗くなり…向こうの街並みに光が灯る頃 眼帯をしたシキは立ち上がって時計を見た。
トルナム国王 シキ
___今は、19時10分……
トルナム国王 シキ
日の出は、____4時13分です。
日の出まで、あと9時間________。

その間、睡眠も取れず…ずっと戦い続けることになるのかもしれない。
イビルは、短剣を強く握って顔を上げた。
アッシュ
____来たぜ。
聴覚が優れているアッシュが、そう呟いた瞬間 私達は塔から外へ出た。

シキからくれたラザーラ国 宮殿の間取り図は大雑把にこんな風になっていた。
玉座の間は、先程の爆弾【マサカ】のせいで潰れて通れない状態になっている。

私たちが今いるのは、下の方の見張り塔だ。ラザーラ国軍は、その反対側の監視塔にいるとの情報だ。

確かに、今その方向から兵隊がウロウロと見えてきた。
イビル
_____庭園。
シオンが居るのは、庭園。

厄介だ、そこに行くには中庭、監視塔と繋がるサロンに応接間までも通らないといけない。

まるで、簡単には来れないように仕掛けているようだった。
トルナム国王 シキ
シオンは、本当に…完璧に出来上がった悪者のようです。
イビル
……え。
トルナム国王 シキ
シオンの周りには、彼を妬み…死を望む亡霊が数え切れない程います。僕が吃驚するぐらい。
トルナム国王 シキ
初めて彼を見た時は、自分の目を疑いました。
トルナム国王 シキ
……先程の情報は、全て彼らから教えて貰ったものです。
私は、そう言うシキの顔を見てみた。シキは、何とも言えない顔で監視塔の方を見つめていた。
グレイ 【近衛隊長】
___戦闘用意完了です!!
駆け寄ってきたグレイの声で、シキは頷いた。
トルナム国王 シキ
只今より、戦闘再開する!!
シキの一声で、トルナム国軍は 声を上げてラザーラ国軍のいる監視塔へ向かって踏み出した。

爆弾の影響で怪我をし、痛む包帯の腕を触れながらも私は、その軍中へと混じり込んだ。
見上げた空にはもう…真っ黒な夜空が広がっていて、少しずつ明かりをついていく外灯と共に私達は、走った。
先頭を走るアッシュ、ロン、グレイの方から早速武器を当て合う音が中庭に響いた_______。
そして、恐怖を抱えながらも剣を握り…私の方へ叫びながら襲いかかってくる護衛が視野に入った。




私は、ゆっくり目を閉じて短剣の鞘を抜いた______。






プリ小説オーディオドラマ