柳瀬くんがわたしを見て、驚いたような顔をする。
笑って指摘すると、柳瀬くんが「そっか」と恥ずかしそうに頬を掻く。
曖昧に濁す柳瀬くんが絢人にどんな決意表明をしたのか少し気になる。柳瀬くんの顔を無言でジッと見つめていると、彼が眉尻を下げて笑った。
いつになく真剣な顔付きで絢人に手を合わせていた柳瀬くんは、いったい何の報告をしたのだろう。
良い報告だといいけど……。
困った顔で笑う柳瀬くんに、ほんの少し胸が騒ぐ。
わたしと柳瀬くんはふたりで並んで絢人の墓石と向き合って頭を下げた。
絢人に、次の約束を残して。
◇
絢人のお墓の前を離れると、わたしたちは寺の駐車場に戻って柳瀬くんの車に乗り込んだ。
ナビで近隣の飲食店を検索し始めた柳瀬くんにそう答えて、わたしは助手席の窓から外に視線を向けた。
駐車場に植えられたまだ秋色の色付く前の紅葉の葉が僅かに風に揺れている。
絢人のお墓参りにはもう何度も来ているけれど、墓石の前で手を合わせているときよりも、お参りを終えてお寺を去るときが淋しい。
ぼんやりしていると、柳瀬くんがふいに話しかけてきた。はっと我に返ったわたしに、柳瀬くんがナビで検索したレストラン情報を見せてくる。
ゆるりと口角をあげると、柳瀬くんが眉尻を下げて微笑む。その瞳がほんの一瞬、切なげに揺れたような気がしてドキッとした。
一瞬見た切なげな表情はわたしの見間違いだったのか、柳瀬くんが柳瀬くんが車のエンジンをかける。
それから、車に乗る直前で脱いでいたスーツのジャケットの内ポケットから小さな箱を出すと、フロントガラスのほうを向いたままわたしにそれを差し出してきた。
柳瀬くんに渡されたのは、オレンジ色のリボンがかかった茶色の小さなギフトボックス。
不思議に思って首を傾げたとき、シートベルトをつけてハンドルを握った柳瀬くんがゆっくりと車を発進させた。
戸惑い気味に訊ねると、柳瀬くんが前を向いたまま、緊張した面持ちで頷く。
柳瀬くんから渡されたものは、わたしも名前を聞いたことのあるジュエリーブランドのギフトボックスだ。オレンジ色のリボンにも茶色の箱の端にも、そのブランドの名前が印字されている。
誕生日でもないのにプレゼント——?
それも、絢人の命日に——?
ドキドキしながら、オレンジ色のリボンの結び目をほどく。
茶色の箱のフタを開けると、中からもうひとつ箱が出てきて。さらにそのフタを開けると、シルバーの指輪が出てきた。
指輪のリングの部分には小さな石がいくつかあしらわれていて、どう見ても高価なものだと思う。
顔をあげて話しかけると、柳瀬くんが進行方向を見つめたままハンドルをぎゅっと握りしめた。
柳瀬くんは言いわけするみたいそう言ったけど、この指輪が絢人からの10年越しのプレゼントじゃないことくらいわたしにもわかる。
絢人がいなくなってから柳瀬くんはわたしの一番近くにいてくれたけど、この5年間、わたし達は付き合っていたわけではないし、彼から告白を受けたこともない。
柳瀬くんはわたしと絢人のへの同情でそばにいてくれているのだと思っていたから、突然の指輪のプレゼントに驚いた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!