空に作った道を歩いて、マフィアビルの屋上に降り立つ。
爽やかな風が吹き抜ける柵のない屋上は、気持ちが良いけれどほんのちょっと怖い。
入口から入るより上から下りた方が圧倒的に早く森さんの居る執務室に着くから、私はしょっちゅう此処に来る。それでもやっぱり、異能があっても下を覗けないくらい怖いんだから落下の恐怖は凄まじい。中途半端に下が見えるから余計怖いんだよ。
殆ど顔パスで警備を抜けて、もう少し警備をしっかりした方が良いんじゃないかと思いながら執務室の重い扉を開ける。
ぐっと親指を立ててみせる。
その後中原君の方を向いて──少しだけ驚いた。
髪をくしゃっとした二つ結びにされている。
エリス嬢にやられたんだろうなぁ。そこそこ長いからやり易かったんだろうね。
勿論放置しますとも。だってそっちの方が面白いもん。
必死に抗議している中原君には聞こえてないみたいだけど、あたしにはちゃんと聞こえてるよ? ……まあ、嬉しいから良いけれども。
中原君と立てた計画はこうだ。
まず、彼は自由への憧れ……のようなものは無いこともないが、仲間を守りたいという気持ちに縛られている。
あたしは彼をマフィアに引き入れたくて、なおかつ彼の仲間全員くらいなら守れる力を持っている。
利害は一致した訳だ。
羊には脅した風に見せかけたが、実際は完全なる合意の上。出来るだけ恨まれないようにと、嘘を吐いただけ。優しい嘘と云えなくもないだろうと思いたい。
あたしは彼に自由と居場所と仲間の安全をあげる。彼はあたしに、「可能性」をくれる。無限大の、明るい未来の可能性を。
あーっ、驚いてる驚いてる!! 良い表情してるわぁ……あたし、意外と凄い人なんだから!











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!