翌朝、学校のの教室は朝の陽光が差し込み、早くから登校した生徒たちの声で活気づいていた。
教室に入ると、いつもの友人たちが手を振って迎えてくれる。
彼らの前では、俺は由緒正しき”村田家の令息”ではなく、ただの「村田祐基」。
周囲に家柄を隠して通うこの学園は、俺にとって唯一、普通の高校生でいられる息抜きの場所でもある。
今日はなんの授業があるんだっけ。
準備したのに忘れてしまうのはいつものことだし、忘れ物をするのも珍しくない。
…たまぁに怒られるけど。
そして、席から少し離れた窓際の席。
俺がいつも見てしまう彼が座っている場所。
普段から人を近づけさせないような雰囲気を持ってるからか、誰かが「草川」呼び以外で呼んでいるのは聞いたことがない。
突っ込んできたシューヤに慌てて弁解する俺を見て、リョウガが伊達眼鏡を上げながら「おいお前ら、俺の顔をオチに使うな」と呆れている。
その賑やかな輪を、タカシが楽しそうに眺めていた。
そんな中、ふらりと教室の後ろのドアから入ってきたカイが、真っ直ぐに窓際の彼の席へと歩いていく。
タクヤとカイは何故か仲がいいイメージ。
なんでかは知らないけど。
賑やかな一日がすごく楽しい。
ここにタクヤも入ってくれたらな、そう思わない日はないのに。
俺から誘うことは今日もできそうにない。
NOside
カイがニヤリと笑って隣の席の椅子を引く。
周りから見れば、ただの仲の良い同級生の光景。
けれど、カイの口から小声で発せられた次の言葉は、完全に『タクヤ』に向けられたものだった。
視線を教科書から動かさない。動かしたらきっとカイはすぐ探りにかかる。
そして見事に当ててみせるだろう、彼の本心を。
きっとそれを恐れたタクヤは顔を上げることはできない。
突然話をそらすようにカイが言ったひと言。
周りの生徒たちの声にかき消されそうな中、2人の間に静かに落とされた。
カイの鋭い指摘に、タクヤの端正な横顔が微かに歪む。
その通りだった。
みんなが自分を「草川」と呼ぶたび、自分はユーキと対等な「友達」ではないと思い知らされる。
そして同時に、屋敷でユーキが自分のことを「タクヤ」と呼んでくれる瞬間の特別さが、甘い毒のように胸を突き刺すのだ。
カイはそれだけ言うと、自分の席へと戻っていった。
遠くの席で、楽しそうに笑いながらも、時折不安そうにこちらに視線を送ってくるユーキ。
タクヤは、その視線に気づかないフリをして、ただ静かに教科書の文字を追う。
それでも、内容はさっぱり入ることはなかった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。