まだ陽が完全に昇りきらない、薄い金色の光が学園全体を包み込む朝。
長屋の一室で、あなたは布団の中から顔を出した。
昨夜は寝つきが悪く、何度も寝返りを打ったせいで頭が重い。
瞼の裏に残る眠気を振り払い、上体を起こすと、喉の奥がひりつくように痛むのを感じた。
声を漏らしただけで、乾いた熱が喉に絡みつく。
身体もじんわりと火照っている。
手の甲を額にあてると、少し温かいような気がする。
微熱。
その二文字が頭をかすめたが、すぐに首を横に振った。
多少の熱ぐらい、我慢できる。
今日は委員会の準備もあるし、休むわけにはいかない。
支度を整えようと立ち上がると、足元がわずかにふらついた。
着替えながら、鏡代わりの磨かれた金属の皿に映る自分の顔を見る。
血の気が少し引いていて、頬の色が薄い。
それでも髪を整え、結び紐をきゅっと結んで、何事もないように外に出た。
長屋を一歩出ると、早朝特有のひんやりとした空気が頬を撫でる。
井戸端で朝の支度をしていると、あやめとお鈴が部屋の中から眠そうにあくびをしながら出てくる。
2人はいつも通り声をかけてくれる。あなたは微笑み返す。
声を出すたび、喉が小さく悲鳴をあげるが、それを悟られぬよう、笑顔は崩さない。
石畳を歩く足音が、朝の静けさに軽く響く。
行き交うみんなはそれぞれ動いている。
胸の奥で、ほんの少し息苦しさを感じながらも、あなたは歩調を崩さなかった。
やがて教室が見えてくる。
教室の前には、同じ委員会の後輩たちが集まっていて、何やら笑い合っている。
すぐに後輩たちの元気な声が飛んできた。
すると、あなたもつられて思わず
と、返す。
声はかすれていたが、後輩たちは特に気にする様子もない。
笑顔を浮かべるたび、頬の筋肉が少しだるい。
それでも、ここで弱った様子を見せるわけにはいかない。
その思いが、足取りを前へと進めさせる。
胸の奥に、早くも小さな鈍痛が広がっていた。
けれど、それに気づくのは、まだ庄ちゃんだけだった。
午前の授業が終わり、昼の鐘が鳴り終えるころ、委員会の準備時間がやってきた。
委員会室に入ると、窓はすでに開け放たれており、秋の風が遠慮なく吹き込んでくる。
空気は澄んでいるが、日陰から入り込む風は冷たく、肌を刺すようだ。
あなたは、部屋の隅に積まれた資料箱の前にしゃがみ込み、中身を一つずつ確認していく。
紙束の間に指を差し入れた瞬間、ひやりとした感触が爪先から腕へと伝わる。
ーー寒い。
そう感じながらも、口には出さない。
両手を胸の前で擦り合わせ、指先に少しでも温もりを取り戻そうとしながら、作業を続けた。
後輩の声に、いつも通りの調子で答える。
ただ、返事の後に息を吐くと、吐息が冷たさと共に喉を刺激し、かすかな咳が込み上げた。
幸い、後輩たちは笑顔で作業を続けていて、異変には気づかない。
窓際では二人の後輩が、掲示板に貼る紙を押さえながら冗談を言い合っている。
そんな軽口が飛び交い、部屋には和やかな雰囲気が満ちている。
あなたは笑顔を作りながら、机の上に広げた書類を整理する。
その手は、まだ小さく震えていた。
外では廊下を行き交う生徒たちの足音が響く。
その中に、ゆったりとした足取りで歩く影があった。
庄ちゃんだ。
何気なく委員会室の方へ視線を向けた彼の目が、一瞬で真剣な色に変わる。
窓から吹き込む風に、あなたの髪がさらりと揺れる。
その下の頬は白く、唇の色も薄い。
笑っているように見えるが、その目元にはわずかな疲れが滲んでいる。
庄ちゃんの胸の奥に、嫌な予感が走った。
後輩たちは気づかない。
だが、庄ちゃんだけは一目でわかった。
ーーこれは、ただの疲れじゃない。
彼は一度廊下の壁に手をつき、深く息を吸ってから、静かに委員会室へ足を踏み入れた。
あなたは机に積まれた紙束を両腕に抱え、部屋の反対側にある棚へ運ぼうとした。
だが、その途中で
ふと、指先に力が入らなくなる。
紙の角が手のひらから滑り落ち、が床にぱらぱらと散らばった。
慌ててしゃがみ込み、笑顔を作りながら紙を拾う。
しかし、その笑顔の下では、唇の端がわずかに引きつっていた。
しゃがんだまま小さく息を吸うと、それだけで胸がわずかに上下し、呼吸が荒いのが自分でもわかる。
ーーやっぱり少し息苦しいな.......。
後輩たちは優しく、
と、一気に駆け寄ってきて、一緒に紙を拾い集める。
そう言って首を振り、再び笑って見せた。
後輩たちはすぐに作業へ戻っていったが、その背中を見送りながら、あなたは心の中で
と、安堵していた。
そのときーー。
委員会室の扉が、ほとんど音もなく開いた。
足音も控えめに、庄ちゃんが中へ入ってくる。
後輩たちが気づいて軽く会釈するが、庄ちゃんはほとんど反応せず、まっすぐにあなたの方へ歩いてきた。
あなたは散らばった紙を抱えたまま、ふと顔を上げる。
次の瞬間、庄ちゃんが腰をかがめ、自分と同じ目線に視線を落としてきた。
近くで見るその表情は、穏やかではあるが、目の奥には明らかな心配が宿っている。
低く、しかしはっきりとした声。
その問いかけに、あなたは一瞬言葉を詰まらせる。
けれどすぐに、慌てて笑みを作った。
紙を抱え直し、視線を横に逸らす。
しかし庄ちゃんの視線は、その横顔を逃さず捉え続けた。
まるで、『嘘をついても無駄だよ』と言わんばかりに。
沈黙が、ほんの数秒だけ落ちた。
その数秒が、あなたには妙に長く感じられる。
庄ちゃんは深く息を吐き、ゆっくりとしたロ調で言葉を重ねた。
イラッ……
その言葉は責める響きではなく、心配と優しさを含んでいた。
それでも、あなたの胸には小さなざわめきが広がる。
ーーなんで、庄ちゃんはいつもこんなに気づくんだろう。
お説教の前触れを感じ取りながら、あなたは小さく肩をすくめた。
庄ちゃんは、あなたが逸らした視線を追わず、そのまま静かに紙束を取り上げた。
両腕から重さがなくなった瞬間、あなたは少しほっとしてしまったが、それを表には出さないよう唇を結ぶ。
柔らかな声なのに、逆らいづらい響きがある。
庄ちゃんは、あなたの後ろにある長椅子を顎で示した。
あなたはほんの一瞬だけためらったが、仕方なく腰を下ろす。
座った途端、体の芯からふわりと力が抜け、思わず膝の上で手を組んだ。
自分でも驚くほど、声は軽く出た。
それは本当のことでもあり、半分はごまかしでもある。
だが、庄ちゃんは眉をわずかに寄せ、首を横に振った。
ゆっくりと、しかし逃げ場のない言葉が重ねられる。
あなたは唇を尖らせ、視線を膝に落とした。
庄ちゃんはそれ以上強くは言わず、少し間を置いてから続けた。
そう言われて、反論しようとしても言葉が見つからない。
庄ちゃんの声は低く穏やかで、耳に心地よく響くのに、不思議と胸の奥がきゅっと締まる。
ふと顔を上げると、庄ちゃんの目が真っ直ぐにこちらを見ていた。
その視線には怒りも呆れもなく、ただ心配と優しさが滲んでいる。
ーーああ、やっぱり、逃げられないや。
その『帰るよ』が、妙にあたたかくて、逆らう言葉が喉で止まった。
あなたが口を開きかけた瞬間、庄ちゃんは立ち上がり、委員会室の入口近くにいる後輩たちへ声をかけた。
その言葉に、後輩たちは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに明るく『はい!』と返事をする。
彼らは何も知らない。あなたが風邪気味なことにも気付いていないから、いつものように軽い調子で答えるのだ。
その無邪気な反応に、あなたはかすかに肩をすくめて苦笑した。
でも、そこに
庄ちゃんがあなたの言葉を遮って答える。
庄ちゃんは再びあなたの前に戻り、膝を少し曲げて視線を合わせた。
その問いかけは責める調子ではなく、本当に心配している響きだった。
強がってそう答えると、庄ちゃんは小さくため息をつき、口だけで笑った。
その言葉に押されるように、あなたは椅子から立ち上がる。
庄ちゃんは、自然な動作であなたの背中に手を添えた。
その手の温もりが、寒さで冷えていた体にじわっと広がっていく。
廊下へ出ると、外から吹き込む冷たい風がまた肌を刺した。
あなたは無意識に身を縮める。
すると庄ちゃんが歩幅を落とし、さりげなく自分の体をあなたの風下に立たせた。
ーーこういうところ、ずるいくらい優しいんだから。
廊下へ出る前、庄ちゃんは後輩たちにもう一度だけ視線を向け、軽く笑って言った。
元気よく返す後輩たち。彼らはいつもと変わらぬ調子で、私の異変にまったく気づいていない。
ーーなんだかそれが、少しだけ悔しいような、安心するような。
そんな複雑な気持ちのまま、あなたは庄ちゃんと並んで廊下へ足を踏み出した。
委員会室の引き戸が、音を立てずに閉まり、
廊下に出ると、途端に静けさが降りてくる。
さっきまでの賑やかな声は薄く、遠くに聞こえるだけだ。
外から吹き込む冷たい風が、木枠の窓をわずかに揺らす。
あなたは、視線を床に落としたまま歩き出そうとする。
とらえた。
しかし、隣を歩く庄ちゃんが、その腕を軽くとらえた。
柔らかな声なのに、その響きには逃げ道がなかった。
あなたは、口を尖らせながら小さく笑い、腕を引こうとする。
けれど庄ちゃんは力を入れるわけでもなく、その手を離さない。
むしる、軽く支えるように添えてくる。
彼の視線が横から覗き込み、あなたは慌てて反対側に顔を向けた。
その仕草すら、逃げ足の遅い証拠のように感じられて、心臓が落ち着かない。
短く、けれど重く響く声。
廊下の薄暗がりの中で、庄ちゃんの目はどこまでも真剣だった。
あなたは言い返そうと口を開くが、その前にふっと息をつかれた。
そう言って、添えた手をそっと腰へと移す。
わずかな距離を保ちながらも、支えているのが分かる距離感。
あなたはその温かさに、逆らう気持ちが少しずつ薄れていくのを感じていた。
外に出ると、空は薄く曇っていて、昼の光もやや冷たい色をしていた。
吐く息が白く揺れ、あなたは思わず肩をすくめる。
庄ちゃんは、その様子を見て、歩幅を半歩分ゆるめた。
淡々とした返事に、あなたは小さく唇を尖らせたが、何も言い返せない。
数歩進むごとに、庄ちゃんの手が腰のあたりで軽く支えてくる。
決して強くはないけれど、その支えがなかったら、足取りがもう少し危うくなっていたかもしれない。
短く言い切られて、あなたはふっと笑ってしまう。
その言葉が、思ったよりもまっすぐで、あなたはうつむいた。
足元の石畳を見つめながら歩くと、時々ふらついて石に足先が当たる。
そのたびに庄ちゃんは手を強めに添え、
そして長屋の入り口まで辿り着いたとき、あなたは小さく息をついた。
庄ちゃんは戸口を片手で押さえ、もう片方の手であなたの背を軽く促した。
畳の上に足を踏み入れると、外よりもわずかに空気が柔らかい。
あなたはそのまま自分の部屋へ向かい、畳に膝をついた。
庄ちゃんは後ろ手で戸を閉めると、何も言わずに部屋を見回し、水差しを見つけて杯に水を注ぐ。
差し出された水を、あなたは少しためらいながらも受け取った。
口をつけると、冷たさが喉を通っていく感覚に少し安堵する。
だが同時に、喉の奥のひりつきが鮮明になって、眉を寄せた。
庄ちゃんの声は穏やかだが、どこか呆れが混じっている。
あなたは杯を置き、そっと視線を逸らした。
すぐに返された言葉に、あなたは小さく肩をすくめる。
庄ちゃんは畳に腰を下ろし、あなたと向かい合った。
膝を軽く開き、その間に肘を置いて少し前傾になる。
その目は、優しいのに逃げ場を与えない。
あなたは畳の目をじっと見つめながら、小さくつぶやく。
間髪入れずに返ってきた言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなった。
庄ちゃんと向かい合ったまま、あなたはまた小さく息をついた。
それは疲れを吐き出すためのものではなく、無意識に呼吸を整えようとするような、少し浅く乱れた息だった。
そのあと、喉の奥でかすかな咳が漏れる。
慌てて口元を押さえる仕草が、かえって具合の悪さを隠しきれていなかった。
庄ちゃんは黙って様子を見ていたが、視線だけがじっと彼女を捉えている。
また咳が続く。ひゅっと息を吸い込むたび、喉がつかえているのか少し苦しそうだ。
水をもう一口飲ませようと庄ちゃんが杯を手渡すと、あなたは素直に受け取って飲んだ。
けれど、飲み終えた瞬間に小さく肩を震わせ、胸に手を当てる。
庄ちゃんは低く息を吐き、膝を寄せてさらに距離を縮めた。
あなたはなんとか笑ってごまかそうとするが、その笑みはほんの一瞬で消える。
喉の奥が痛むたび、目元がわずかに歪み、呼吸が浅くなる。
額にはうっすらと汗が浮かび、髪の生え際が少し湿っていた。
庄ちゃんはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
庄ちゃんの声は穏やかなのに、芯のある響きがあった。
怒鳴るわけでもない。
けれど、このまま黙ってやり過ごせる空気じゃない。
あなたは視線を机の上に落としたまま、小さく肩をすくめた。
庄ちゃんの返事はすぐに返ってきた。落ち着いた口調だけれど、迷いがない。
庄ちゃんはゆっくりと腰をかがめ、あなたの目線まで降りてくる。
真正面から見つめられると、逃げ場がなくて、あなたはつい瞬きを早くした。
淡々とした声なのに、そこに滲むのは呆れよりも圧倒的な心配だった。
謝った声はかすれていて、庄ちゃんはため息をひとつ落とした。
そのまま、彼はそっとあなたの手を包み込む。
冷たい指先に触れた瞬間、その温度の低さに眉を寄せた。
庄ちゃんはそう言って、あなたの額にそっと手をあてた。
庄ちゃんはふっと微笑んだ。
優しいけれど、そこに確かな諭しがある笑み。
言葉が詰まると、庄ちゃんはすぐに見抜いたように首を傾げた。
あなたは観念して、小さく
と呟いた。
庄ちゃんはその頭をそっと撫で、低く言う。
そう言って、庄ちゃんは立ち上がり、水を汲みに行く。
戻ってきたときには湯呑みを持っていて、『少しずつ飲んで』と渡してくれた。
その仕草が、胸の奥をじんわり温める。
どうも、三浦です🎶
ちょっと、長くなりすぎちゃった😭💧
7500文字❗️すごいね😻🎶
長くなりすぎちゃったので、次回また続きから入ると思われます😭💧💧いやもしかしたら気分が変わって違うの書くかもしれないけど。。。

投稿が0時に間に合わなかった理由が💧
ちょうどいいね🩷が99だったので、100になってから
投稿しよう❗️と寝る前に意気込んでいたら、
起きたら101になってました^_^💧
あと、遅れた理由がもう一個あって💧
小説のネタ本当になさすぎて考え込んでたら
こんな時間になってました😭😭
ネタ本当にないから、遠慮なしにドシドシコメント待ってまス‼️😻😻😻
頑張って三浦が身を削ってかきます‼️
コメント欲しいし、交換宣伝もしたいし、っていう三浦💧 ちょっと、欲張りスギ❓💧
では、ここで三浦の裏話を2つ😔
今日見た夢の内容が、ぷりしょで色んな人に
コメントを沢山もらって私の小説が超有名になる
っていう夢を見ました😻🎶💕
あと、庄ちゃんが『もちろん』のこと、『もろちん』
って言い間違えする夢を見ました🎶
【キャラ崩壊】
""おわり""












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!