第25話

24th DOOR.
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2025/12/02 18:57 更新
         イハン's  DOOR


ジヌ (マネージャー)
無理だよ?


僕はスマホを持ったまま、
ショックで口をあんぐりとあけた。


あのあと僕は、明日のスケジュールが
午前中で終わることを確認して、
マネージャーに水族館に行くお許しを得るために
説得していた。



だけど、結果は撃沈だった。


頭の中のシャチが、片方のヒレを“バイバイ”と振って
海の沖の方へと泳いで行ってしまった。



あぁ……シャチさん……行かないで……。

イハン
で、でも、明日の午後はフリーですよね?
なんでですか?
イハン
ここから車で一時間って近いですよ?


マネージャーの腕を掴んで揺さぶる。

ジヌ (マネージャー)
いや、さすがに一人で行かせられるわけないだろ。
イハン
でもぼく、ちゃんとタクシーで行きます。
さすがに電車に乗ったりしないですよ?
ジヌ (マネージャー)
そういう問題じゃないんだよ……


マネヒョンが「はあー」と大袈裟にため息をついた。

ジヌ (マネージャー)
一人で行ったらお前に何かあったとき困るだろ
イハン
じゃあメンバーも一緒に行きます


僕がそう言うと、マネヒョンが口を開く前に
「えーいやだよ」「つまんない」
と後ろの方から複数のヤジが飛んできた。

ジヌ (マネージャー)
……だそうです。おしまい。
イハン
いやだ!いきたい!
だってシャチがいるんですよ!?
イハン
みんなもシャチ見たことないでしょ?
韓国にはいないんだよ?


そう言って後ろのメンバーたちを振り返る。

リウ
シャチって怖くない?食べられそう
テサン
……ヒョンが小さいから?
リウ
は?水槽に投げ込むよ?


……メンバーは誰一人として
シャチに興味がないらしい。


僕がうなだれていると、
マネヒョンが僕の肩を叩いた。

ジヌ (マネージャー)
気持ちはわかるけどさ。
海外で一人行動はマジで危ないから


諭されるみたいにそう言われて
僕はより一層うなだれる。

イハン
じゃあ誰か一緒ならいいってことですか……


不貞腐れながらももう少し粘ってみる。



だって、シャチだよ?

簡単には諦めきれない。

ジヌ (マネージャー)
その「誰か」がいればいいけどな
イハン
マネヒョンは?
ジヌ (マネージャー)
俺はお前たちのスケジュールの確認と打ち合わせですー。残念でしたー。
こうやって裏でスタッフが働いてるから、お前らが遊べるんだぞ?まったく。


……ぐうの音もでない正論。

ジヌ (マネージャー)
まあ、明日暇そうなやつ一人知ってるけどな〜
イハン
えっ……!?


掴んでいたマネヒョンの腕をぎゅっと握る。

イハン
誰ですか!?


マネヒョンが意味ありげにニヤッとわらった。






ジヌ (マネージャー)
お前たちのいとしの、ヌ・ナ♡



イハン



マネヒョンの腕を掴んだまま、今度は固まる。


ジェヒョン
えー!じゃあ俺も行く!


ヒョンの声に我に返った僕は、
慌てて振り返って軽くヒョンを睨む。

イハン
さっき「いや」って言ってましたよね?
ジェヒョン
やっぱり「どこに行くか」じゃなくて
「誰と行くか」だろ〜


そんな調子のいいことを言うジェヒョニヒョンを
無視してマネヒョンが続ける。

ジヌ (マネージャー)
自分であなたに連絡とってお願いしな。
ジヌ (マネージャー)
あなたがいいって言えば行っていいよ
イハン
ほんとですか!?


僕は踊り出しそうなくらい嬉しいのをこらえて
さっそくスマホを取り出した。


トークアプリを開いて、
ヌナの夕日でオレンジに染まった海のアイコンを
タップする。




トーク履歴にはあの日、僕が送った


「さっきの男、誰ですか?」

『え?ヨンジュンのこと?』

「あぁ、ヨンジュン先輩だったんですね」

『そうそう、久しぶりに会社で会ったんだ〜。
 みんなはもう移動した?』

「はい、もう到着して撮影も始まってます」

『そっか、間に合ってよかったね☺️
 また今度話聞かせてね。ファイティン!』


そんなやりとりが残っている。




マネヒョンからヌナとヨンジュニヒョンの話を
聞いた後に届いた、ヌナからの
『え?ヨンジュンのこと?』というメッセージ。


それにどう反応するかをめちゃくちゃ悩んだ挙句、
「あー、そうだったんだ〜」みたいな
当たり障りのない返信を送った時の
居心地の悪さを思い出した。



だけど僕は、あの時の気まずさもぎこちなさも、
全てを書き換えるみたいに文字を入力する。




「おつかれさまです。明日の午後って空いてますか?」




それだけを送った後に「しまった」と思った。


前に何かで“誘う時は何に誘っているのか”を
明確に書かないと答えにくい、と見たことがあった。



「空いてる?」だけ聞かれて会ったら、
実は引っ越しの手伝いだった。


もしそうだとわかっていたら断っていたのに……
みたいなやつ。





だから僕は、ヌナの既読がつく前に
急いで文章を付け足した。




「大阪から一時間のところにある水族館に
 一緒に行きませんか?」

「その水族館にはシャチがいるんです。
 だから見に行きたくて」




僕はそう送った後、トークルームを離れられずに
既読マークがつくのをじっと待った。


すぐに既読がつくとは限らないのは
わかっているけれど、
今はただ、そんな気分だった。

ウナク
ずるい!
ウナク
そんなの、デートじゃん!


最近はずっと拗ねていたウナクも、
海外スケジュールの非日常感のおかげで
すっかり通常運転に戻ったみたいだ。

テサン
ほんとだよ、俺らも一緒に行こうぜ
ジヌ (マネージャー)
ダメだって。大人数は目立つだろ
リウ
でもヒョン、男女二人で水族館なんて
行っていいんですか?
ジェヒョン
何か始まっちゃうかも


当事者の僕を置いてけぼりで進んでいくそんな会話に、
マネヒョンが笑った。

ジヌ (マネージャー)
ほんっとお前ら青いな〜
ジヌ (マネージャー)
こんなお子ちゃまの“お遊びデート”なんかで
あなたのこと落とせると思ってんの?
ジヌ (マネージャー)
あいつ、水族館に行っても魚より
人の服を見てると思うよ


そう言って爆笑するマネヒョンにメンバーが
「それもそうか」と納得している。





……なんか傷ついた。






そのとき、僕が立て続けに送った3通のメッセージに、
同時に既読マークがついた。



そしてすぐに



『明日の午後は私もオフ!水族館行きたい!』

『ところでシャチってサメ?』




と返事が来た。





ヌナ……シャチはサメじゃないよ……?


どちらかというとイルカだよ……。

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