第84話

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2026/01/31 14:29 更新
西畑side





明らかに様子がおかしかった謙杜を急いでその場から連れ出して、少し離れた空き部屋に連れていった。





謙杜はひどく呼吸が乱れていて、部屋に入った瞬間がくりと膝から崩れ落ちそうになる。




俺は慌てて支えて、しゃがんだまま抱き止めるような形になった。




長尾「はぁ、っ、は…っ、ん、はぁっ、」

西畑「けんと〜、俺の声聞こえる?ゆっくり深呼吸してみよか、すぅー、はぁーって。真似してみ?」

長尾「…っ、は、はぁ…、ふぅ…、っ、」

西畑「そうそう、上手にできてるよ」




なにがあってこうなってしまったんかはわからんけど、





小さく震える冷たい手や、ゆらゆらと揺れる瞳が、何かに怯えているように見えて。





西畑「…大丈夫、大丈夫やで謙杜。俺がおるからな」




少しでも安心できるように、ずっと背中をさすっていた。








西畑「…ちょっと落ち着いてきた?」

長尾「……ん、はい、」

西畑「よしよし、びっくりしたなぁ…頑張ったね」




やっと呼吸が落ち着いてきて、それでもまだぼんやりしている謙杜。




…まだインライはやってるっぽいけど、今日は戻さん方がええな。あっちはあっちで、流星や丈くんあたりが上手くやってくれてるはず。




謙杜はまだ俺に寄りかかったままで、なんか頼られてるような気がして少し嬉しくなった。




…急に過呼吸なんて起こしちゃって、なにかしんどいことあったんかなぁって心配になるけど、




すぐに話せなくてもいい。謙杜が言いたいって思ったタイミングで話してくれたら、それで。




…今日はちょっと、無理そうかな。




そう思ったけど、謙杜はうつむいたまま小さい声で呟いた。





長尾「…もう、つかれた」




あまりにも小さな、弱々しい声。
いつもの謙杜とはかけ離れたその声に、胸が詰まるような思いがした。


 


それでも一生懸命話してくれたのは、最近のこと。





寝る前によく過呼吸を起こしてしまうようになったり、そのせいででよく寝られなかったり。話を聞く限り、おそらく原因は過度な期待やプレッシャー、やと思う。





そんなことになってたなんて正直予想もしてなくて、少しだけ驚いた。






長尾「…がんばらなきゃって、思うのに、うまくできなくて、」

西畑「うん」

長尾「期待はずれって思われるの、こわくて、期待されるのもこわくなって、」

西畑「…うん、」

長尾「…っ、こんなんじゃ、俺のことなんて、誰も…っ、」





震える声で話す謙杜が、あまりにも苦しそうで。




こんな思いを1人でずっと抱えてたんかな、なんて思って、思わず強く抱きしめた。





西畑「なあ、謙杜。聞いてくれる?」

長尾「…ん、」

西畑「俺はね、頑張れなくても、上手くできなくても、失敗しても、どんな謙杜でも好き。そのままの謙杜が大好きやよ」

長尾「…そのままの……?」

西畑「うん。疲れちゃったら、たまには休んでもええんよ。大丈夫、謙杜がいつも一生懸命がんばってるのは、みーんなわかってるから」





…俺も昔、周りの期待に応えなきゃってがむしゃらに頑張っていたときがあったから、謙杜の気持ちがよくわかる。




けど疲れたときは少しくらい休んでも、力を抜いても、




どんな自分でも受け入れてくれる人や場所があるってこと。




それをわかってほしかったし、どうにか伝えたかった。





俺の言葉を聞いて、謙杜はぱちぱちと目を瞬かせた。





長尾「…うまくできひんくても、ええの?」

西畑「ええよ〜、逆に全部完璧にやろうとしてたら、体持たんくなっちゃうで?」

長尾「……あ、」

西畑「…ん?どうしたん?」

長尾「…や、前みっちーにもそんなこと言われたなーって思って…」

西畑「みっちーに?」

長尾「…ん、そんな完璧にやらなくてもええんちゃう、みたいな…」






それを聞いて、点と点がつながったような感じがした。






西畑(…ああ、そういうことか)





俺は今日まで、謙杜が悩んでることも抱えてるものも、正直全く気がつけなかった。





…けど、みっちーはきづいとったんやね。





西畑「なあ謙杜、ええこと教えてあげるわ」

長尾「…?」

西畑「…実はな、さっき俺に『長尾がしんどそうで』って教えてくれたのは、みっちーなんよ」





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