春高後。
静かになった体育館。
いつもと同じはずの場所なのに、少しだけ広く感じる。
——三年がいない。
「……」
五色工はボールを見つめる。
その重さは変わらないのに、意味が変わっていた。
「五色」
声。
振り向く。
其処には…牛島若利。
卒業前、最後に顔を出した日だった。
「はい」
自然と背筋が伸びる。
「お前がエースだ」
短い言葉。
でも、重い。
前の人生でも言われたこと。
だけど——
今回は違う。
その意味を、理解している。
「はい」
迷いはなかった。
牛島は少しだけ頷く。
「お前ならやれる」
そして去っていく。
引き止めない。
もう、背中を追うだけじゃないから。
体育館に残る五色。
ボールを拾う。
(今度は——)
ゆっくり息を吸う。
「全員、集合!!」
その声に、後輩たちが集まる。
驚いた顔。
少しだけ不安そうな目。
五色は笑う。
「勝つぞ」
シンプルな言葉。
でも、それでいい。
(繋ぐんじゃない)
(更新する)
ボールが上がる。
新しい白鳥沢のリズムが、動き出す。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!