俺も紫耀じゃなきゃ意味がないくらいに、好きだと思う。
このまま、紫耀の言葉に頷けたら。
素直になれたら。
それでも、怖いのは、守ってきた何かが壊れてしまうんじゃないか。
一歩踏み込んでしまったら、もう取り戻せないものがあるのではないか、と不安になってしまうからだ。
「ホントに戻れなくなっちゃうよ……」
紫耀の手の平が温かくて、優しくて、キレイな目は俺をきちんと見ていて。
「戻らないよ。
一緒に、二人でこれから、作るんだよ…」
その力強い言葉は、新しい道を作り上げている紫耀だからこそ、嘘がなくて、キラキラして見えた。
……俺は?
寂しくて、慎ちゃんに縋ってしまうぐらい、弱くて、誰かのせいにしないと、ひとりで立てなくなってしまうほど、狡くて。
そういう自分を認めたくなくて、もがけばもがくほど、認めるしかなくて。
こんな俺に気がついたら、紫耀は離れていくんじゃないか。
不安なのは、紫耀にじゃなくて、自分に。
「俺、紫耀が思ってるようなヤツじゃない、よ…。」
本当の俺を知ったら、幻滅するよ、と続けると、紫耀は可笑しそうに笑った。
「俺だって、海人が思ってるようなヤツじゃないかもよ?」
「でも、俺、そういうの全部、海人と乗り越えたい」
俺の頬を両手で挟むと、まっすぐに俺を見て、そう続けた。
「どんな海人のことも、好きだよ。」
鼻と鼻がくっつくほど、紫耀が近くにいる。
「海人は?」
「………好きだよ」
息が唇にかかるほど近くて、誤魔化しても全て伝わってしまうほどで。
「どんな紫耀も、好きだよ…」
そっと紫耀の目をみると、嬉しそうで、すごく幸せそうで、その目を見れただけで、もう他に何もいらなかったことに気がついた。
触れ合うほど近かった唇は、当たり前のように重なって。
優しいキスがどんどん深くなっていって、気持ちが伝わってくる。
「もうさ、好き以外要らないくらい、好きなんだよ…」
唇が離れて、紫耀が少し苦しそうに、呟いた。
ゆっくりと抱きしめられて、背中にまわる腕は、どんどん強くなって、俺の肩が濡れていくのが分かった。
「もう、それだけで良くない……?」
泣きながら、俺を抱きしめる紫耀に、俺はかける言葉が見つからなくて。
苦しいのは自分だけだと思ってた。
紫耀は、とっくに前を見て、俺の事なんか過去にしているのだと思っていた。
俺が怖くて不安で、どうしても進めなかった事が、こんなにも紫耀を苦しめてしまっていた、なんて、想像もしていなくて。
俺が思うより、ちゃんと俺を想っていてくれてたんだと、実感して、嬉しいのに苦しくて。
俺にも、紫耀の側にいることが、何かできる事があるのかもしれない、と思える。
そうありたい。
強くなりたい。
そう思わせてくれる存在に出会えた奇跡に、ただ感謝する。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。