先輩方と合流した後、食堂に案内された母さんが、そう言いながら深々と頭を下げる。灯部先輩は、「うひゃ〜!」と悶えながら母さんに詰め寄った。
いつも比較的落ち着き払っている麗ちゃんでも、流石にこの展開は予想していなかったようで、めちゃくちゃ取り乱して、早口で母さんがどんな人かを説明しだした。
よほど褒めちぎられて嬉しいのか、母さんはえっへんと言わんばかりの嬉しそうな様子で出されたハーブティーをすする。
ふと、「あれ?」とまた母さんに対して違和感を感じる。
「エマ」という学園長の名を聞いた途端、母さんの表情が少し曇ったような気がした。前に聞いたことがある。Y学園の学園長と母さんは、中学が同じY学園で学園生活を共に過ごした同級生であり、ヒロイン役でのライバルであり(今でも意味がわからない)、親友だと。親友が作った紅茶なのに、なんでそんな表情をするんだろう。
いつもとは似ても似つかない冷静な声で敬語を使ったチョコボー会長にも別の意味で違和感を覚える。それはそれでギャップ凄すぎて推せる…!
母さんがいきなり話題を変えたかと思うと、意味不明な言葉を放つ。俺は首を傾げた。
すると、ドアの奥から、階段を何かがギシギシと降りてくる音がした。当然、今まで部屋で寝ていた鬼頭副会長が降りてきたのだ。
ゆったりとリビングのドアが開けられる。そこには、膝くらいまである長い髪をボサボサにして、目をパチパチさせて眠そうにしながら入ってきた鬼頭副会長がいた。
まだ寝ぼけているのか、とてとてと歩幅を小さくしてふらつきながら歩いている。
すると、ソファに座っていた母さんが、鬼頭副会長を見るなり「あっ!」と嬉しそうに言う。
母さんが鬼頭副会長に向かって手を大きくブンブン振る。それにやっと気づいた鬼頭副会長が、驚きの表情を少し浮かべた後、目をゴシゴシとこすって再度母さんを見た。
二人と一匹で盛り上がって談笑しているのを俺達はしばらく呆然と見ていたが、遂に我に帰った麗ちゃんがツッコむ。
次いで麗ちゃんのツッコミで我に返った灯部先輩が鬼頭副会長とあなたに迫ってつらつらと言葉を並べていく。
ワチャワチャバッタンバッタンと俺達が騒いでいる横で、チョコボー会長がティーポットを持って母さんの隣にやってくる。
あのチョコボー会長が敬語を使っているあたり、やはりうちの母はかなり凄い人らしい。
それはそれとして…。
あまりの衝撃に耐えられずに俺と灯部先輩が血を吐きながらバターンと後ろに倒れる。
すると、母さんがフフッと笑い出した。
そして、生徒会のメンバーに向かって姿勢を正した後、ペコリと頭を下げた。
そして、麗ちゃんが顔を上げた母さんと目を見合わせる。
また母さんが笑う。そして、俺の隣に来てポンポンと背中を叩いた。
俺と母さんは、互いにニカッと笑った。
母さんが「学園長に用がまだあるから」と去っていき、皆で昼食のハンバーガーを食べていた時に鬼頭副会長はそう言った。あまりの不意打ちに、一瞬俺はきょとんとする。
参ったな。やっぱりあの違和感は気のせいだったのだろうか。だが、今はそれどころではない。明日は関西Y学園に行く日だ。バッチリ戦えるようにたくさん食っとかないと!
もう一方の春雨チーズ餃子ハンバーガーをシャクッと一口。くぅ〜!流石灯部先輩。今日の料理も格別に美味かった。
それから数十分後、学園長室にて。
コンコンコン。ドアノックが3回、学園長室に響く。
金髪のその女性は、飲んでいたハーブティーをコトリと皿の上に置き、「どうぞ。」とドアの奥にいるであろう人に声をかけた。学園長室に1つしか設置されていない両開きの襖がガラリと開く。
フブキの顔を見た途端、学園長はパアッと明るく笑った。
フブキが、ふと学園長専用の机の隅にある花瓶に目をやる。そこには、白い花瓶に1輪だけ生けられたカンパニュラがあった。
フブキが温かくも心配そうな眼差しで学園長を見つめる。
学園長がニコリと微笑む。
ストンと学園長室の襖を閉めて部屋から出る。そして、さっきのエマの顔が、フブキの頭に蘇る。
そして、肩掛けカバンからスマホを取り出し、どこかに電話をかけ始める。



















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。