第5話

𝓨𝓸𝓷 声を待つようになる
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2026/05/09 02:42 更新
それから、何日かが過ぎた。

特別なことは、何も起きていない。

学校に行って、帰ってきて、宿題をして、スマホを見て。

昨日と今日の違いなんて、ほとんど分からないくらい、同じような時間が続いている。

——はずなのに。

気づけば、ベランダに出る回数が増えていた。

最初は、本当にただの偶然だったと思う。

洗濯物を干すついでに外に出て、少しだけ風に当たって、それで満足して戻る。

それだけのこと。

でも、いつからか。

“ついで”じゃなくなっていた。




夕方。

カーテンの隙間から差し込む光が、少しだけオレンジ色に変わっている。

まだ外に出る必要はない時間。

洗濯物も、今日はもう取り込んである。

それなのに、なんとなく立ち上がる。

理由を探せば、いくらでも見つかりそうなのに、どれも少し違う気がする。

ただ、外の空気を吸いたいとか。

ちょっとだけ気分転換したいとか。

そんな、曖昧な言い訳を頭の中で並べながら、窓に手をかける。

開けると、ひんやりした空気が流れ込んできた。

一歩、外に出る。

何をするわけでもなく、ただそこに立つ。

視線は、自然と横に流れる。

隣のベランダ。

仕切り一枚分の距離。

相変わらず、静かで、変わった様子はない。

でも。

——もしかしたら。

そんな考えが、頭のどこかにある。



そのまま、少しだけ待つ。

数分。

それだけで、特に何も起きない日もある。

風の音だけがして、遠くの生活音がかすかに聞こえて。

それで終わり。

「……なんだ」

小さくつぶやいて、少しだけ肩の力を抜く。

何を期待していたのか、自分でもよく分からない。


別の日。

同じように、夕方。

また理由もなくベランダに出る。

今度は、ほんの少しだけ長く立っている。

スマホを持ってきて、画面を眺めるふりをしながら、耳は外の音に向いている。

——聞こえるかもしれない。

そう思っている自分に、途中で気づく。

その瞬間、少しだけ居心地が悪くなる。

まるで、何かを待っているみたいで。

しかも、それが何なのか分かっているのに、知らないふりをしているみたいで。



聞こえてきた歌声のことを、思い出す。

あのときの、夕方の空気。

やわらかい声。

あの一回だけで終わりなのか、それともまた聞けるのか。

確かめたい、というほど強い気持ちじゃない。

でも、もし聞こえたら。

きっと、また立ち止まる。



(……別に、待ってるわけじゃないし)

誰に聞かせるでもなく、
心の中で小さく言い訳する。

その言葉が、あまり意味を持たないことも分かっている。



結局、その日も何も聞こえなかった。

少しだけ長く外にいただけで、あとは何も変わらない。

部屋に戻って、窓を閉める。

外の空気が遮られて、さっきまでの感覚も少しずつ薄れていく。



ベッドに座って、ふと考える。

どうして、あんなふうに外に出たんだろう。

特に理由なんてなかったはずなのに。



思い浮かぶのは、ひとつだけ。

隣から聞こえてきた、あの歌声。


あれ以来、何も聞こえていない。

それでも。

また聞こえるかもしれない、と思っている自分がいる。



気づけば。

ベランダに出る理由が、少しだけ変わっていた。




ベランダ越し、ほんの数メートル。

その距離の向こう側に、何かを期待している。

そんな自分を、まだうまく言葉にはできなかった。
しばらくこんなんが続くかも…。
つまらんくても許して、これが物語なんだ……
大丈夫、絶対面白くなるから…((知らんけど



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