それから、何日かが過ぎた。
特別なことは、何も起きていない。
学校に行って、帰ってきて、宿題をして、スマホを見て。
昨日と今日の違いなんて、ほとんど分からないくらい、同じような時間が続いている。
——はずなのに。
気づけば、ベランダに出る回数が増えていた。
最初は、本当にただの偶然だったと思う。
洗濯物を干すついでに外に出て、少しだけ風に当たって、それで満足して戻る。
それだけのこと。
でも、いつからか。
“ついで”じゃなくなっていた。
夕方。
カーテンの隙間から差し込む光が、少しだけオレンジ色に変わっている。
まだ外に出る必要はない時間。
洗濯物も、今日はもう取り込んである。
それなのに、なんとなく立ち上がる。
理由を探せば、いくらでも見つかりそうなのに、どれも少し違う気がする。
ただ、外の空気を吸いたいとか。
ちょっとだけ気分転換したいとか。
そんな、曖昧な言い訳を頭の中で並べながら、窓に手をかける。
開けると、ひんやりした空気が流れ込んできた。
一歩、外に出る。
何をするわけでもなく、ただそこに立つ。
視線は、自然と横に流れる。
隣のベランダ。
仕切り一枚分の距離。
相変わらず、静かで、変わった様子はない。
でも。
——もしかしたら。
そんな考えが、頭のどこかにある。
そのまま、少しだけ待つ。
数分。
それだけで、特に何も起きない日もある。
風の音だけがして、遠くの生活音がかすかに聞こえて。
それで終わり。
「……なんだ」
小さくつぶやいて、少しだけ肩の力を抜く。
何を期待していたのか、自分でもよく分からない。
別の日。
同じように、夕方。
また理由もなくベランダに出る。
今度は、ほんの少しだけ長く立っている。
スマホを持ってきて、画面を眺めるふりをしながら、耳は外の音に向いている。
——聞こえるかもしれない。
そう思っている自分に、途中で気づく。
その瞬間、少しだけ居心地が悪くなる。
まるで、何かを待っているみたいで。
しかも、それが何なのか分かっているのに、知らないふりをしているみたいで。
聞こえてきた歌声のことを、思い出す。
あのときの、夕方の空気。
やわらかい声。
あの一回だけで終わりなのか、それともまた聞けるのか。
確かめたい、というほど強い気持ちじゃない。
でも、もし聞こえたら。
きっと、また立ち止まる。
(……別に、待ってるわけじゃないし)
誰に聞かせるでもなく、
心の中で小さく言い訳する。
その言葉が、あまり意味を持たないことも分かっている。
結局、その日も何も聞こえなかった。
少しだけ長く外にいただけで、あとは何も変わらない。
部屋に戻って、窓を閉める。
外の空気が遮られて、さっきまでの感覚も少しずつ薄れていく。
ベッドに座って、ふと考える。
どうして、あんなふうに外に出たんだろう。
特に理由なんてなかったはずなのに。
思い浮かぶのは、ひとつだけ。
隣から聞こえてきた、あの歌声。
あれ以来、何も聞こえていない。
それでも。
また聞こえるかもしれない、と思っている自分がいる。
気づけば。
ベランダに出る理由が、少しだけ変わっていた。
ベランダ越し、ほんの数メートル。
その距離の向こう側に、何かを期待している。
そんな自分を、まだうまく言葉にはできなかった。
しばらくこんなんが続くかも…。
つまらんくても許して、これが物語なんだ……
大丈夫、絶対面白くなるから…((知らんけど
♡60
(現在…♡38 あと…♡22)












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!