そのまま、少しもみことと話さないまま、二年生になった
けれども、学校生活では特に何一つ苦労しなかった
友達もいるし、部活だってちゃんとやってたし、
授業中に馬鹿やって怒られることだって
正直、なんやかんや楽しんでいた
そう、
学校生活では、本当に何一つ苦労しなかった
家が、更にクソになっただけで
毎日毎日聞こえる怒号は、日を追って
どんどんどんどん悪化していった
たまに食器などの割れ物が割れる音も聞こえるようになり
ふとドアを開けると、俺の部屋の前まで破片が飛んでいる
更に大きな物が叩きつけられる音まで聞こえた
ここまでして、警察沙汰にならないわけがない
何度も何度も何度も家に警察はやってきた
けれどもそれは注意に留まるだけで
何にも、根本的に対処はされなかった
もう、全部諦めていた
たまたま聞こえた、「離婚」というワードも、
自分が思った以上にすんなり受け入れられた
なんなら、もう離婚してくれ、とまで
俺は思ってしまっていた
もう、こんな地獄はうんざりで
幸せな家族になることなんて、
とっくのとうに諦めていた
……そう、諦めて、いた
……あの、声が耳に入るまでは
何も、理解できなかった
何も、何一つ、
理解なんて、したくなかった
離婚は、してほしかった
そうしたら、この地獄みたいな日々は終わるんだから
離婚すれば、どちらかの親と一緒に、
今度こそ、幸せになれると、思い込んでいた
……でも、それは、思い込みにすぎないことを、
俺は今、知ってしまった
もうどれぐらいの時間が経っていたんだろう
一睡もすることなく、朝を迎えていた
ゆっくりと、扉を開けると
そこには母さんの姿があった
母さんは、笑みを浮かべていた
笑みを浮かべて、俺に話しかけた
でも、俺はそれに笑顔で返せたのか
自分でもわからなかった
通知音が鳴ってスマホを見れば、
父さんから珍しくメッセージが来ていた
そのメッセージを見て、何度か読んで
そのメッセージに何かを感じて
ガンッ、という鈍い音が耳に入って
スマホを投げつけたことに気がついた
俺以外誰もいないリビング
そこで俺は、思いっきり叫んだ
何も信じられなかった
家族とか、愛とか、全部
信じられるはずが、なかった
昨日の出来事は、夢なんかじゃない
現実に、間違いなかった
なのに、今朝の出来事で
夢だったんじゃないか、と思いたくなる
でも、そんな甘い未来があるなんて
俺はもう、思うことは出来なかった
自然に、出てきてしまった笑みの意味などわからず、
ただ、俺はその場に崩れ落ちて、
ただ、笑いながら涙を流した
笑わないと、もうこれ以降一生、笑えない気がした
今日の俺は日直やから、ホームルーム前に
先生に頼まれた教科書を教室まで運んでいた
普通の教科書じゃなくて、授業で使う問題集で
本篇でさえ二百ページを超えるのに、
回答は三百ページ近くあるバケモノみたいな量
さすがにそんな五百ページものある問題集
クラス全員分というのは随分重くて、
少しよろめきながら廊下を進んでいた
その時だった
後ろから、聞き慣れた声が聞こえて
同時に、強い衝撃が俺の体に伝わった
俺の姿勢が崩れて、転ぶと同時に
目の前に運んでいた問題集が散らばる
転んだ時打ち付けた箇所の痛みに耐えながら、
俺はゆっくりと後ろを振り向くと
やっぱり普段クラスで問題児のあの子がいた
確かに、俺は赤点ギリギリやし、
それに比べてこの子は、成績優秀やし、
俺を馬鹿っていうのもわかるんやけど……
笑いながらその子は教室へ戻っていく
この子は校則も守らないし、普段から怒られとる
でも、毎日毎日俺に話しかけてくれる子
言葉のセンスはちょっと問題やし、びっくりもするけど
俺はこの子のこういう個性なんかな、とか思ってるから
いうて気にしとらんのが現状
俺は、散らばっちゃった問題集を集めて、
なんとか持ち上げてから、教室まで運び込んだ
そのまま机に戻ろうとすると、
さっきの子と、他ニ、三人が
俺の机に集まっているのが見えて
俺がそこを覗き込めば、いつもの光景があった
焦りながらせかせかと準備を始める彼らを見て
俺は少し笑いつつ、俺の机の上の文字を見る
馬鹿、阿呆、間抜け、のろま、クソ野郎、とかいう、
目に見える喧嘩で使いそうな暴言が沢山あったけれど、
ぐちゃぐちゃで何を書いてるのか分からないものもあった
彼らみんなこういうの好きよなぁ、
なんて思いながら、俺はそれを消しゴムで消していた
俺のよく見る男子の普段の関わり方は、
互いへのイジりイジられで、
それを両者笑いながらやっているから、
みんなこうやって仲良くやってるんやな〜とか、
そんなことを思っていうて気にしとらんかった
イジられることは、それだけ好かれてるってことやろ?
それなら、俺はそれを喜ばんといけんはず
だから、嫌だ、と感じる自分が変なのだと
イジメだと思ってしまう自分が最低なのだと
溢れそうになった涙を咄嗟に拭って、言い聞かせた
自分は、好かれている
みんなに、好かれているんよ
イジられるのは、彼らにとって普通のこと
ゲームするとか、鬼ごっこするとか、そういう
普通に遊ぶのと、同等のことなんやから
やから、俺は、嬉しそうにせんと____
帰りたい、早く
お父さんと、お母さんのいる家
二人が関わってくれる筈はないけれど
二人はきっと、俺を愛してくれるから、と
そう思いながら、ホームルーム開始のチャイムを待っていた
……この時点で、もしかしたら俺は
学校で関わってくれている彼らが、
俺のことを愛していないことに
どこかで気がついてたんやろな
俺の口からは、それしか出なかった
机の上にある、大量の消しカスを見て
少し、自分がそんな消しカスみたいに思えて
それが馬鹿らしく感じてしまった
あのまま家に篭っているのも嫌で
俺は持ち物を何の用意もすることなく、
ただ制服とスマホと鞄だけで学校へ向かった
真っ直ぐと向かった自教室に無言で入る
ちょっと騒がしい教室が、どこか自分の心を
宥めてくれている感じがして、安心した
机に着くと、いつメンの奴らが話しかけてくる
昨日今日でいうてテンションが上がらないけど
なんとかいつも通りを装って挨拶だけした
でも、そいつらが持ってる単語帳を見て、
嫌な予感が頭をよぎった
そう、小テストの存在
うちの学校は週三回、漢字、計算、英単語の小テストが
朝のホームルームの時間に行われる
ちなみに、一番ヤバいのが英単語
合格点下回ったら地獄の再テストがある
俺がそんな発言をすると、そいつらはめっちゃ驚いてた
まぁ、俺普段優等生……ではないけれど
勉強してコイツら嘲笑ってるもんな
昨日今日のことで、勉強なんて
何も考えられなかったから、そういうもんか
なんて、そいつらの内一人がくれた単語帳を開いて
範囲の百単語をザッと見て軽く絶望する
こういう時に限って気持ち悪いぐらい長い英単語が
出るのは本当になんでなんだろうな……
アイツらのことが頭から離れなかったけど
地獄の再テストのことを思い出して、
それに恐怖を感じながら全力で暗記を始めた
意外とすんなり暗記することが出来て、
満点を取れた俺にアイツらが集ってくる
俺だって正直びっくりはした、
あの地獄の再テストはやりたくない
っていう気持ちが勝ったのかもしれない
それに、普段から意外と真面目にやってきたから
元々覚えていた単語もある程度あったしな
でも、それを思うと、やっぱり疑問が浮かんできてしまう
俺は、優秀だと言われる成績は毎回取っていたし
運動も、部活でエースやってるぐらいには長けている
確かに、少し手先は不器用だったけれども、
それでもある程度出来る事は多かった
……でも、俺は、
何も出来ない、能無し……
両親の望む子になれなかった理由が、
俺には何も、わからなかった
あと、何が出来ていたら
両親は、俺のことを喜んだんだろうか
唐突に、そう言われた俺の頭はフリーズした
いつものアイツらから出る言葉じゃなかった
大丈夫、なんて、んな急に____
その言葉に、思わず目を見開いた
あぁ、取り繕えてなかったんだと
すぐに気がついて、納得してしまった
……いや、この状況で取り繕えない
俺は、そんな優秀な人間じゃないから
少し、この時思ったんよな
コイツらに話せば、何かが変わるんじゃって
少し、俺は救われるんじゃって
そこから、全部アイツらに話した
家であった事を、全て曝け出した
アイツらは、無言で聞いてくれた
ただただ、俺の目を見て、聞いてくれた
そして、俺が全て話し終わった時、
アイツらは、ゆっくりと口を開いた
日本語を話してる、
その事実だけは、明確にわかった
でも、それとは裏腹に、脳はその言葉を受け付けなかった
受け付けてはいないから、はっきりと理解は出来なくて
なのに、自分の中で何かが崩れた音がした
明確に、崩れて、粉々になって
大切なモノが、なくなったのだけはわかった
そのまま、目の前で去っていくアイツらを見ても
俺は、その場から動く事なんて出来なくて
誰も居ない教室、授業開始のチャイムを聞いて
そっと、鞄を持って学校を静かに後にした
辿り着いたのは、かつての秘密基地
すちが飛び降りてから、滅多に来ることのなかった
秘密基地の小さな建物に寄りかかって、座り込んだ
下を向いて見つめた地面は、
歪んで、湿っぽく色を変えた
この日から、俺は家にも、学校にも居場所を無くして、
ひたすら秘密基地の前で入り浸るようになった
家に帰って、すぐ声を出すものの、
今日は二人とも仕事関係で居ないことを思い出す
今回は二人にとっては随分大事な会議らしくて、
これで上手くいけば……みたいなことを言ってたのは
俺の耳にも自然に入っていた
そのままリビングに行って、荷物をそこら辺に置いて
俺はソファにそのまま倒れ込んだ
二人に何か話しても、無反応なのはわかっとる
二人が、最近俺にちょっと無関心なのも、わかっとる
でも、二人が俺と暮らしてくれとるって事実だけは
俺のことを愛してくれていると思わせてくれて
俺は、それだけで今までは十分やった
……でも、最近は何かが違う
最近は、なんていうか、真っ直ぐな愛が欲しい
恋愛とかじゃなくて、なんというか……
大切な、家族愛とか、そういう類に近いもの
回りくどい、こういうものだけだと、
最近は学校でのこともあって
なんか、ダメになっちゃう気がするんよ
それが、どういうことなのか
正直、まだ俺もわかってないんやけど……
それだけは、ダメっていうのはわかっとった
だから、俺はそれを望んで、欲した
だから、ずっと、二人のことを待っていた
お母さんの声で、俺は目を覚ました
ゆっくりと目を擦ると、奥の時計が見えて
時刻はもう既に、二十三時を指していた
お母さんは、未だにポワポワしてる俺を見て
少しだけおかしそうに、でも優しく笑った
すると、奥の方からお父さんの姿も見えた
たった、それだけのやり取り
でも、それだけでも何か、満たされた感じがした
俺は、こういう家族の時間を望んでいた
たわいのない会話をする、そんな家族
この世界の多くの人にとっては
普通のことなんかもしれんけど、
俺にとっては、それが特別なことで
何よりも好きな瞬間だった
そう、ふと思えて
それだけで、自分が幸せに感じられた
俺は、この瞬間が大好きだった
____そう、大好きだった、のに
その次の瞬間、お母さんがそう言った
俺は、何もわかんなかった
お父さんが、口を開いて説明を始めた
少し戸惑いはあったけど、
二人の夢、って聞いて納得する自分がいた
二人とも、この夢の為に今まで頑張ってたんやし、
俺は応援してあげないとな、って心から思えたんよ
やから、近くで見ていたいって思ったし
二人のサポートもしたい、とも思えたんよ
そう、この言葉を聞くまでは……な
信じられなかった
目の前の二人が、本当に人間なのかを疑った
……いや、人間か、というより
本当に、親なのかを疑った、という方が正しい
言わなくても、わかると思う
中学二年生の子供を家に置いたまま、
海外に三年も滞在する大人が普通なわけ、ないから
お金とか、そういう問題じゃない
根本的に、二人が狂ってる事に、気がついた
嫌だって、言おうとしたけれど
狂ってる二人に、ついていきたいとも思えなくて
ただ、それだけ言って、
無理矢理、口角を上げた
二人は、幸せそうに笑った
次の日には、二人はアメリカへ飛び立った
家には、俺の物以外何もなくて
本当に、俺一人になったんやな、って実感した
でも、俺は料理や家事も出来たから、
生活に困る事はない、って思ってたんよ
……でも、学校に向かう為に家を出る瞬間
俺の口からは、言葉が静かに溢れた
二人は、俺に、興味がなかった
無関心で、無反応で、仕事のことばっかり
でも、愛してくれてるから、って思ってきたのに
今回の、昨日の件で、
愛なんて、なかったことに気がついてしまった
思えば、学校でも、そうだ
毎日毎日受ける、イジリも
あれは、本当に俺を、好いてくれてるから?
それとも、もしかして
俺のことを、嫌ってる……から……?
イジメて、いる……?
何も、わからない
何も、信じられない
何も、信じたくない
何も、わかりたくなんてない
ただ、俺は、普通の家族になりたくて
ただ、俺は、普通の友達が欲しくて
ただ、俺は、
普通の子に、なりたかった、だけなのに____
その瞬間、
俺の身体から、一気に力が抜けた
身体が、動かん
どんどん、力が抜けて
身体が、ふわふわ、する
空を、飛んでるみたいで
でも、声が出なくて
セカイと俺の間にカーテンがあるみたいで、
全てから、隔離されているような、感覚
知らない、未知の感覚と
なぜか閉じれない意識に
明確な、恐怖を感じながら、
その場から、その日一日は動けなかった
この日、俺は過度なストレスが原因で
突然「離人症」を発症してしまった
筆者のAmaneです、
二ヶ月近く放置して申し訳ございませんでした
昨日の夜10:00から焦って7300字以上書きました
大目に見て欲しいです本当にごめんなさい
これから、投稿ペースがどうなるのか
実は今週末高校内部入試の自分には
正直全く検討も尽きませんが……
(勉強したくても、勉強してる人や勉強道具見るだけで
吐き気や痛みや目眩が出るから本当に焦ってる)
絶対、全部投稿するので
気長にお待ちいただけると幸いです












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!