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伽 羅 崩 壊 、
口 調 迷 子
ヨ コ ハ マ の 夕 暮 れ は 、
い つ だ っ て ポ ― ト マ フ ィ ア の
血 の 色 を 連 想さ せ る 。
探 偵 社 の 任 務 帰 り 。
太 宰 治 は 、
地 下 鉄 の ガ タ ゴ ト と 揺 れ る
車 両 の 中 で 、
一 人 大 き な 溜 息 を つ い て い た 。
吊 り 革 に 掴 ま り な が ら 、
何 時 も の 様 に 包 帯 に 包 ま れ た 手 で
ス マ ― ト フ ォ ン を 弄 る 。
画 面 の 隅 に 表 示 さ れ た
電 波 の ア イ コ ン は 、
ア ン テ ナ が 3 本 、
し っ か り と 立 っ て い た 。
車 内 は 、
夕 方 の 帰 宅 ラ ッ シ ュ が
一 段 落 し た 時 間 帯 の 、
独 特 の 気 怠 い 空 気 に 包 ま れ て い る 。
太 宰 の 他 に は 、 数 人 の 乗 客 。
新 聞 を 広 げ る サ ラ リ ― マ ン 。
ス マ ホ に 没 頭 す る 女 子 学 生 。
買 い 出 し 帰 り ら し き 、
荷 物 を 抱 え た お じ さ ん 。
太 宰 は ふ と 、
窓 硝 子 に 目 を 向 け た 。
地 下 の 暗 闇 を 走 る 電 車 の 窓 は 、
鏡 の 様 に 車 内 を 映 し 出 し て い る 。
―― そ の 、窓 に 映 っ た 景 色 に 、
微 か な 違 和 感 が あ っ た 。
太 宰 は 目 を 細 め る 。
窓 の 反 射 に 映 る 乗 客 達 の 顔 が 、
な ん だ か ほ ん の 少 し だ け 歪 ん で 、
の っ ぺ り と し て い る 様 に 見 え た の だ 。
ま る で 、目 や 口 の パ ― ツ が 、
そ こ に あ る べ き で は な い
位 置 に あ る 様 な 。
し か し 、
太 宰 が ス マ ― ト フ ォ ン か ら 顔 を 上 げ 、
直 接 シ ― ト に 座 る
乗 客 達 を 肉 眼 で 見 る と 、
其 処 に は 極 め て
普 通 の 人 間 の 顔 が あ っ た 。
サ ラ リ ― マ ン は
疲 れ た 顔 で 新 聞 を 読 ん で い る し 、
お じ さ ん は 眠 そ う に 目 を 閉 じ て い る 。
太 宰 は 小 さ く 苦 笑 し 、
軽 く 首 を 振 っ て
そ の 違 和 感 を 頭 か ら 追 い 出 し た 。
だ が 、
彼 が 気 づ い て い な い 事 が も う 一 つ 。
太 宰 の 視 線 が
ス マ ― ト フ ォ ン に 戻 っ た そ の 瞬 間 。
車 内 の 天 井 に 設 置 さ れ た
電 子 電 光 掲 示 板 の 案 内 表 示 が 、
一 瞬 だ け 真 っ 赤 な 文 字 で 、
奇 怪 な 文 字 列 を 羅 列 し た 。
『 次 は 0 番 出 口 . 0 番 出 口 . 』
バ チ バ チ ッ 、 と
静 電 気 の 様 な 音 が し て 、
文 字 は 直 ぐ に
「 次 は 、 ヨ コ ハ マ . 」
と い う 通 常 の 緑 色 の 表 示 に 戻 る 。
太 宰 は 画 面 に 集 中 し て お り 、
そ の 一 瞬 の 赤 色 の 点 滅 に は
全 く 気 づ か な か っ た 。
プ シ ュ ――― 、と
間 の 抜 け た 音 を 立 て て 、
電 車 が 目 的 の 駅 に 停 車 す る 。
太 宰 は 軽 い 足 取 り で 、
開 い た ド ア か ら ホ ― ム へ と
一 歩 を 踏 み 出 し た 。
ヒ エ ッ 、と 肌 を 刺 す 様 な 、
妙 に 冷 た い 空 気 が 太 宰 の 頬 を 撫 で る 。
カ ツ ン 、と
革 靴 が コ ン ク リ ― ト の 床 を 叩 く 音 が 、
静 か な 駅 内 に
必 要 以 上 に 大 き く 響 き 渡 っ た 。
太 宰 が ホ ― ム に 降 り 立 っ た 直 後 、
背 後 で 静 か に 電 車 の ド ア が 閉 ま る 。
ガ タ ゴ ト と 音 を 立 て て 去 っ て い く
電 車 の テ ― ル ラ ン プ を 見 送 り な が ら 、
太 宰 は 、
よ う や く「 決 定 的 な 異 常 」に
気 が つ い た 。
静 ま り 返 っ た ホ ― ム 。
つ い 先 程 ま で 、
自 分 と 一 緒 に 何 人 も の 乗 客 が
こ の 駅 で 降 り た 筈 だ っ た 。
な の に 。右 を 見 て も 、左 を 見 て も 。
広 い ホ ― ム の 何 処 を 見 渡 し て も 、
自 分 以 外 の 人 間 が 、
文 字 通 り「 一 人 も 」
存 在 し て い な か っ た 。
ま る で 、
世 界 に 自 分 だ け が
取 り 残 さ れ てし ま っ た か の 様 な 、
不 気 味 な 静 寂 。
た だ 一 つ 、
地 上 へ と 続 く 階 段 の 向 こ う か ら 、
冷 た い 風 が ひ ゅ う ひ ゅ う と
吹 き 抜 け て く る だ け だ っ た 。
太宰はスマートフォンの画面を見る。
さ っ き ま で 立 っ て い た 筈 の
電 波 の ア イ コ ン は 、
い つ の 間 に か ──
『 圏 外 』 の 二 文 字 に 変 わ っ て い た 。
…… ᴛᴏ ʙᴇ ᴄᴏɴᴛɪɴᴜᴇᴅ













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!