あれ…
僕は今、何を………
っ確か、マオが僕に…殺し、て、って…言っ…………
て………
──────信じられない。
僕はなんで今、マオの首を絞めようとしてる……?
マオの咳ではっと我に返り、首から手を離す。
…そうだ……僕は、思ってしまったんだ。
『殺して欲しいなら、殺してあげてもいいのに』
もう駄目だ。今まで押さえ込み続けてたけれど、僕はおかしくなってしまったんだ。
「殺して欲しい」なんて言われて、首を絞めかけてしまうぐらいには。
こんな僕のそばに、もうマオを置いておくことはできない。
僕がベッドから降りて暫し呆然としていると、程なくしてマオは起きた。
そんな彼女の声に、意味もなく体が固まってしまう。
マオはそれを聞くと途端に不安そうな顔になってゆっくりと頷き、先ず顔を洗わせて欲しいと部屋から出ていった。
彼女が戻ってきて座るのを待って、僕は口を開く。
本当の理由は伝えず、それらしい理由を並べて彼女を自分から離そうとする。
───旅費がない。親を待たないといけない。
全部嘘だ。マオを説得するための。
マオを僕から離すための。
旅費も本当は十分あるし、親は僕がどこで何をしてようと気にしてない。
だから、本当ならマオと一緒に逃げられる。けど。
…自分でやってて、なんて卑劣なんだろうと思う。
でも、本当のことを言って嫌われるくらいなら綺麗な思い出のまま離れて欲しいじゃないか………
マオの心配そうな顔に心が痛む。
ごめんね、そんな顔をさせてしまって。
でも、もう二人ではいられないんだ。
僕がこれ以上おかしくなる前に離れないと、本当に何をするか分からない。
今度こそ本当に……………
マオを不安にさせるのも分かってる。
本当は僕だってマオともっと一緒にいたかった。
けど、もう離れなくちゃいけない時なんだ。
また一つ、嘘を重ねた。
「約束」か…
もちろん、僕は笑って彼女にこう言う。
本当は約束なんてできないけれど、マオが安心できるならそれでいい。
終ぞ果たされないであろうその約束を胸に、僕は彼女を見送った。
彼女が行く先は、海と大陸を超えた小さい国。
まだ安全と言われる国だ。
…これで、マオを守れるのかな。
絶対に安全な場所なんてもう地球上にはない。でも、少なくとも僕の家より安全なはずだ。
──────よかった、と。そう思った。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!