それからというもの、彼はほぼ毎日僕の夢に出てきた。
彼が出てくる夢は、妙にリアルで瞼裏に焼き付くような夢。
内容は、いつもほぼ同じ。
僕に、「身を委ねて」と手を広げる彼を僕が拒絶して、彼は残念そうに俯いて消えてゆく。
────ただ一つ違っているのは、彼の見た目だけ。
日が経つごとに、彼の姿ははっきりと見えてきているのだ。
最初はただののっぺりした黒い影だったのに、今では体の先端の黒が抜けてきている。
でも透けてしまったり、たまに黒く戻ったりするのでまだ不安定なのだろう。
そして彼の姿は、不安定に移り変わりながらも徐々に僕へと近づいていった。
「彼」の姿がはっきりしていくにつれ、だんだんと僕の殺人衝動の頻度と程度は大きくなっていった。
「腕」が見えるようになった時には、首を絞めようとして。
「足」が見えるようになった時には、崖から蹴り落とそうとして。
「胴」も見えはじめた頃には、体当たりのような力任せの攻撃も増えていって。
────「彼」の姿がはっきりしていくにつれて、抑えがたい衝動が湧き上がってくるようになった。
僕の手が。足が。体が。心が。本能的に動いてしまう。
「殺して欲しい」
そう願われただけなのに、本当に殺そうとしてしまう。
本当はみんな分かってるはずなんだ。こんなこと間違ってる、って。
誰かに殺されて命を落とすなんて、幸せじゃない。って。
────声を大にして叫びたかった。
おかしいのは僕じゃない、と。みんながおかしくなってしまったんだ、と。
頭から水をぶっかけて、頬を叩いて、一人一人正気に戻してやりたかった。
「誰かのために死ぬ」「自分が死んだら幸せになれる」
そんなふざけた思考を吹き飛ばして、生に貪欲な本来の姿に引き戻してやりたいと思った。
………こんなに簡単に命を捨てる考え方は、美しくもなんともない。
「潔い」と称賛されたって、「これで楽になれる」って思ったって結局自己完結だ。
そんな自己満だらけの死が何になる。
死は、己との対話じゃないのか。
死の少し前からゆっくりと回り始める走馬灯に思いを馳せ、辛いことを妬み、幸せをもう一度噛み締めて静かに天寿を全うするのが人間の本来の死のあり方なのではないのか。
ぐるぐる考えすぎたせいで分からなくなってきてしまった。
僕に訪れるこの衝動は、僕を疲弊させるには十分すぎた。
衝動を止めようとして躍起になっていると、僕の気分はどんどん沈んでいく。
────気がつけば僕は、鬱になりかけてしまっていた。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。