柔らかい朝日が差し込む、星導家のリビング。
キッチンに立っているのは、長男の結侑(ゆう)。
まだ二十四歳とは思えないほど手際よく、五人分の朝食を用意している。
優しい声が、廊下に溶ける。
布団の中で丸まる三男の絇仁(くに)に、結侑はくすりと笑った。
ドタドタと階段を降りてきたのは次男の鼓多(こた)。
寝癖のままでも絵になる容姿なのに、ワイシャツは裏表を逆に着ている。
本人は本気で不思議そうだ。
その様子に、絇仁がくすっと笑う。
結侑は穏やかに言いながら、味噌汁をよそった。
ーーこの家には、両親はいない。
事情を深く語ることはないけれど、結侑は長男として、四人の大切な弟を守ると決めている。
中学校の養護教諭として働きながら、家計をやりくりし、
誰よりも早く起きて、
誰よりも遅く眠りにつく。
それでも、顔に疲れは見せない。
甲高い声と共に、五男の誇柄が駆け寄る。
後ろから玲琉も半分寝ながら、よたよたと歩いてくる。
鼓多も笑いながら二人の頭を撫でる。
結侑の穏やかな注意に、「あ!」と素直に洗面所に向かう鼓多。
そんな、何気ない朝。
けれど、その日、絇仁は少しだけ元気がなかった。
結侑の勤務する中学校。
保健室のベッドに座る絇仁は、窓の外をぼんやりと眺めていた。
柔らかな声。
振り向くと、白衣姿の兄がいる。
絇仁は、教室に入れない日が続いている。
理由は、ほんの少しの不安と、ほんの少しの怖さ。
感受性が強い分、周囲の視線や空気に疲れてしまうのだ。
結侑は、無理に背中を押さない。
そう言って、いつも頭を撫でる。
その言葉だけで、絇仁の目は少し潤んだ。
夕方。
結侑が洗濯物を取り込んでいた時、鼓多はダンス・ボーカル部の練習から汗だくで帰宅した。
絇仁が真っ先に飛びつき、双子も負けじと鼓多に駆け寄る。
結侑はまた穏やかに微笑んで、その様子を見守っていた。
本人は、本気で気付かない。
鼓多が真顔で返すと、絇仁は恥ずかしそうに顔を背けた。
誇柄はそれを見て、「こったん、ずるい。」とぷくっと頬を膨らませる。
笑いが絶えないリビングであった。
弟たちが眠ったあと、
結侑は家計簿を閉じ、静かに息をつく。
責任は重い。
未来への不安がないわけじゃない。
それでもーー
誰に聞かせるわけでもなく、呟く。
そのとき、廊下から小さな足音がした。
誇柄だった。
結侑は微笑み、膝の上に抱き上げる。
そのまま玲琉も起きてきて、結局三人で布団に入る。
きっと翌朝、結侑は寝不足を感じる。
けれど、朝食を囲む弟たちの笑顔を見ると、疲れは不思議と消えるのだった。
この家は完璧じゃない。
時には喧嘩もするし、涙もある。
でもーー
「おはよう!」
「いってきます!」
「ただいま!」
その声が、ちゃんと響く。
それだけで、星導家は今日もあたたかい。
そして、結侑は今日も優しく笑う。
「大丈夫。
みんな、ちゃんと幸せになるよ」
五人で紡ぐ、少し不器用で、とびきり愛おしい物語は、これからも綴られていく。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。