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第1話

五つの笑顔、ひとつの家。
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2026/03/10 11:31 更新

柔らかい朝日が差し込む、星導家のリビング。
キッチンに立っているのは、長男の結侑(ゆう)。
まだ二十四歳とは思えないほど手際よく、五人分の朝食を用意している。

結侑
くにお、そろそろ起きられそう?
優しい声が、廊下に溶ける。
絇仁
ゆさん……もうちょっと…、
布団の中で丸まる三男の絇仁(くに)に、結侑はくすりと笑った。

結侑
こったんはもう出る時間だよ?
鼓多
え⁉︎うそ⁉︎

ドタドタと階段を降りてきたのは次男の鼓多(こた)。
寝癖のままでも絵になる容姿なのに、ワイシャツは裏表を逆に着ている。
結侑
こったん、それ裏表逆かも。
鼓多
え⁉︎あ、…ほんとだ……なんで?

本人は本気で不思議そうだ。

その様子に、絇仁がくすっと笑う。
絇仁
こた、今日も天然
鼓多
天然ってなに?
結侑
こったんのことだよ
結侑は穏やかに言いながら、味噌汁をよそった。


ーーこの家には、両親はいない。
事情を深く語ることはないけれど、結侑は長男として、四人の大切な弟を守ると決めている。
中学校の養護教諭として働きながら、家計をやりくりし、
誰よりも早く起きて、
誰よりも遅く眠りにつく。
それでも、顔に疲れは見せない。
誇柄
ゆうくん!

甲高い声と共に、五男の誇柄が駆け寄る。
後ろから玲琉も半分寝ながら、よたよたと歩いてくる。
玲琉
ちむ、はやい……
結侑
おはよう、今日も朝弱いねぇ
鼓多も笑いながら二人の頭を撫でる。
結侑
こったん、手洗ってからご飯にしてね〜
結侑の穏やかな注意に、「あ!」と素直に洗面所に向かう鼓多。









そんな、何気ない朝。








けれど、その日、絇仁は少しだけ元気がなかった。



結侑の勤務する中学校。
保健室のベッドに座る絇仁は、窓の外をぼんやりと眺めていた。

結侑
くにお

柔らかな声。
振り向くと、白衣姿の兄がいる。
結侑
今日もここで過ごそっか
絇仁
……うん、

絇仁は、教室に入れない日が続いている。
理由は、ほんの少しの不安と、ほんの少しの怖さ。
感受性が強い分、周囲の視線や空気に疲れてしまうのだ。

結侑は、無理に背中を押さない。
結侑
ここに居ても、ちゃんと前に進んでるよ
そう言って、いつも頭を撫でる。
絇仁
ゆさんみたいになれるかなぁ
結侑
なれるよ。くにおは優しいから

その言葉だけで、絇仁の目は少し潤んだ。









夕方。
結侑が洗濯物を取り込んでいた時、鼓多はダンス・ボーカル部の練習から汗だくで帰宅した。
鼓多
ゆうくんただいま!
結侑
おかえり〜
絇仁
こたおかえりっ!
玲琉
おかえり!
誇柄
おかぇりっ!
鼓多
ただいまっ!
絇仁が真っ先に飛びつき、双子も負けじと鼓多に駆け寄る。
結侑はまた穏やかに微笑んで、その様子を見守っていた。

絇仁
こた、今日も告白された?
鼓多
ん〜?なんか分かんないけどさぁ、女子とめっちゃ目合うんだよね〜
本人は、本気で気付かない。
絇仁
こた、モテてる〜っ
鼓多
くにおもかっこいいよ?
鼓多が真顔で返すと、絇仁は恥ずかしそうに顔を背けた。
誇柄はそれを見て、「こったん、ずるい。」とぷくっと頬を膨らませる。

笑いが絶えないリビングであった。


弟たちが眠ったあと、
結侑は家計簿を閉じ、静かに息をつく。

責任は重い。
未来への不安がないわけじゃない。
それでもーー

結侑
自分がいるから、きっと大丈夫。

誰に聞かせるわけでもなく、呟く。

そのとき、廊下から小さな足音がした。




誇柄
ゆうくん……、





誇柄だった。
結侑
どうしたの?
誇柄
なんか、さみしい

結侑は微笑み、膝の上に抱き上げる。
結侑
そっかぁ、今日は特別ね


そのまま玲琉も起きてきて、結局三人で布団に入る。

きっと翌朝、結侑は寝不足を感じる。
けれど、朝食を囲む弟たちの笑顔を見ると、疲れは不思議と消えるのだった。


この家は完璧じゃない。
時には喧嘩もするし、涙もある。
でもーー


「おはよう!」
「いってきます!」
「ただいま!」


その声が、ちゃんと響く。
それだけで、星導家は今日もあたたかい。
そして、結侑は今日も優しく笑う。

「大丈夫。
 みんな、ちゃんと幸せになるよ」

五人で紡ぐ、少し不器用で、とびきり愛おしい物語は、これからも綴られていく。

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