第2話

こわい夜の向こう側。
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2026/03/11 08:30 更新



その異変に最初に気付いたのは、玲琉だった。


玲琉
ゆうくん、ちむ、あつい




空が橙色に染まり始めた、夕方。

誇柄はドラムスティックを握ったまま、ぼんやりしていた。
結侑
こえくん?
結侑が額に手を当てた瞬間、顔色が変わる。


結侑
……熱い。


体温計で正確な体温を測ると、
表示されたのは、『39.6』の数字。

鼓多が目を丸くする。
鼓多
え、やばくない、?
結侑
すぐ病院行こう。







夜間外来で診てもらい、インフルでもコロナでもない、ただの強い風邪だろうと診断された。

薬を受け取り、急いで帰宅。

その頃はまだ、誇柄は甘える余裕があった。
誇柄
ゆうくん、だっこぉ……、
結侑
うん。一緒にいようか
結侑は迷わず、誇柄を自分の布団に寝かしつけた。


深夜。

最初の異変は、うなされ声だった。
誇柄
……やだ…っ

すぐ隣で添い寝していた結侑は、すぐ目を覚ます。
結侑
こえくん?

誇柄の呼吸が荒い。
汗で前髪が張り付いている。
誇柄
ゆうくん、いかないで、
結侑
大丈夫。ここにいるよ
結侑は、誇柄の小さな手を優しく包み込んだ。
けれど、その手がびくりと大きく跳ねた。

目は開いているのに、焦点があっていないことに気付く。
誇柄
ちがう、ちぁう……!こぁいっ…!

結侑の背筋が冷える。
結侑
(熱せん妄……)
高熱による意識混濁。
誇柄のような小さな子供には珍しくないこと。
けれど、いくら知識があっても、
兄としては別だ。
結侑
こえくん、ゆうさんだよ。
誇柄
………やだぁっ!!



突然誇柄は体を起こし、勢いよく布団を跳ね除ける。

その声で、全員が目を覚ました。
鼓多
なに?!
鼓多が飛び起きる。
絇仁も顔を青くして、立ち尽くす。

誇柄は怯えた目で、天井を見ていた。
誇柄
おばけいる……っ!
れる、あぶない……っ!
玲琉が泣きそうな目で、誇柄に近寄る。
玲琉
ちむっ…れるここ、!
結侑は、誇柄を強く抱きしめた。
結侑
大丈夫。夢だよ。熱のせい
誇柄
ゆ、くん、どこっ
結侑
ここ。ここにいるよ。
誇柄の手が、空を掴む。
鼓多が、優しくその手を握った。
鼓多
俺もいるよ
絇仁も、反対の手を握る。
絇仁
僕もいる
玲琉が布団の中にもぐり込む。
玲琉
れるも





誇柄の呼吸はまだ早い。
でも、少しずつ手の震えが落ち着いていく。

誇柄
……ゆう、くん……?
結侑と誇柄の目が、ゆっくりと合った。
結侑
うん。
誇柄
…こわかった
涙が滲んだ瞳を見ると、結侑の胸の奥がきゅっと締まる。
結侑
もう大丈夫だよ、
優しい声に、誇柄はようやく泣いた。
声を上げて、わんわんと。

誇柄が眠った後も、結侑はずっと起きていた。

氷枕を替え、汗をタオルで拭き、何度も何度も熱を測る。

41度まで熱が上がったとき、
一瞬、表情が変わった。
結侑
(もし、なにかあったら。)
想像を、強く引き離す。
その背中を見て、絇仁が小さく話しかけた。
絇仁
ゆさん
結侑
どうしたの?
くにおはそろそろ寝ないとだよ
絇仁
ゆさん、泣きそうな顔してる

結侑は一瞬、言葉を失った。
結侑
……してないよ、
鼓多
してるよ
鼓多が、隣に座る。
鼓多
ゆうくん、一人で抱えすぎ。
玲琉が布団から顔を出す。
玲琉
ゆうくん、だいじょうぶ…?


結侑は、初めて少しだけ弱い声を出した。

結侑
こえくんが、家族が怖い思いするの、嫌なんだ
それは、兄ではなく、
ただの二十四歳の本音。

鼓多が微笑む。
鼓多
そりゃ、嫌だよね
絇仁が頷く。
絇仁
ゆさんだけの役目じゃない
小さな玲琉も言う。
玲琉
ゆうくん、ひとりじゃない

結侑は、静かに目を閉じた。



ああ。
守る側だと思っていたのに。

守られている。






翌朝、誇柄の熱は38度まで下がっていた。

誇柄が目を覚ます。
誇柄
……ゆうくん
結侑
おはよう
誇柄
…いっぱい、いたぁ…?
結侑
うん。みんないたよ
誇柄は、ゆっくり笑った。
誇柄
こわくなかった
その言葉に、全員の緊張が解ける。

鼓多が微笑んで大きく伸びをする。
絇仁は赤い目の下を拭う。
玲琉は誇柄にくっついたまま、まだ眠っている。

結侑は、いつもと同じように優しく微笑んだ。
結侑
みんないると、強いね
誇柄がにっこり笑って言った。
誇柄
ちむ、ゆうくん守る!



その言葉に、結侑はついに笑顔のまま、
涙をこぼした。

結侑
うん。
ありがとう。
ありがとねっ!

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