(前回の最後、アイコン変えました)
凜side
絶句する私の耳朶に届いたのは、
纏う雰囲気と同じく仄暗い、感情のこもっていない声。
数学の問に答えるような淡々とした様子で、続ける。
次の言葉との間に少し、間が空いた。
何かをためらっているような、少し感情のこもった空白。
いつもの私ならその隙に反論していたはず。
なのに、できなかった。
私の口は、まるで瞬間接着剤でも付けられたかのように
閉ざされたまま、動かない。
それはきっと、ひまりの言葉のせい。
…もう後悔しないって、決めたはずなのに。
なのにどうして、私の身体は動かない?
…いや、答えは既に出ている。
きっと、
ひまりの言葉が、声が、雰囲気が。
訴えかけてくるからだ。
「何故気づかなかったんだ」と、「苦しい」と。
そして、その台詞からすると…
何か抱えていたんじゃないか。
疑惑から確信に変わった問いを、ひまりの声が遮る。
その声はおぞましくて、苦しそうで。
先ほどまでと違って怖いくらいに感情的だった。
苦しさが増す。
絞り出すような、泣き出しそうな声。
その声が発した言葉は、
私が予想もしていなかったことだった。
理解できなかった。
私が変わったことを、このキャラでいることを
一番快く思っていなかったのは、ひまりだったのに。
そのひまりが、変わりたかった?
今の、明るいキャラを捨てて?
さっきまでとは一転、トーンダウンしたひまりが呟く。
その言葉は、私の心を大きくえぐった。
一番私が気にしていることだ。
私のことを桃菓が悔やんでいることくらい誰でも分かる。
でも私は、それを放置した。
このままじゃ駄目だと、必死だったから。
何もできなかった、とも言う。
私が変わってから和解するまでの何年もの間、
桃菓はきっと耐えてきた。
何故、桃菓が耐えれたのか?
それはひまりがいたから。
ひまりがいたから、桃菓は耐えれた。そして分かり合えた。
じゃあ、ひまりは?
ひまりは、どうなる?
何年もの間桃菓を支えて、自分の本性隠して。
周りは良かっただろう。全て解決したはずだ。
それなら、ひまりの心は?
ずっと支え、隠し、我慢してきた彼女はどうなる。
…いや、
___その結果が、今、ここにあるのだろう。
ふと、城での出来事を思い出した。
あの時の彼女は、どんな表情をしていた?
…そうだ、笑っていた。
シャノワールの言葉に、笑っていた。
その時私は、どう思ったんだっけ?
…あぁ、そうだった。
恐ろしかったんだ。
いつも明るく笑ってて、すぐ遅刻するけど
みんなを明るく照らす、太陽のようなひまり。
シャノワールに恐ろしい笑みで笑いかけた、
怖いくらいに冷たい、冷ややかなひまり。
本当のひまりは、
_______どっちなのだろう?
きっと、それは。
私には、分からない。
ただ、分かるのは、1つだけ。
ひまりは、誰よりも幼馴染を思っていたということ。
黙りこくる私に、ひまりは、絶叫した。
その振る舞いはひまりらしくなくて、
でも、どこか板についていて。
ただただ私は。
その叫びを、聞くことしかできなかった。
叫び終えたひまりは、
はっと我に返ったように目を見開いた。
私の震える声をはじき飛ばして、
ひまりが横たわっていたベッドから飛び降りる。
そして上靴も履かず、
靴下のまま保健室を飛び出していった。
残された私は、彼女の名を呼ぶことしかできなかった。
そして、
数分後、夕暮れの街に轟音が轟いた。
(※現在ミルクティーはリレーで男子化しています)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!