ひまりside
理子の、お父さんが、凜を…
告げられた言葉は、私の予想を超えていて、
信じたくなくて、どこまでも残酷だった。
頭に血が上ると同時に血の気が失せるような、
不思議な感覚がする。
頭の中で色んなことがぐるぐる回る。
フラッシュバックするように、様々な場面が頭を駆け巡る。
桃菓と凜と公園で一緒に遊んだ、その時の笑顔。
私がいたずらした時の、2人のちょっと怒った顔。
たまに喧嘩して、仲直りした時のほっとした泣き顔。
そして、
初めて凜が心を隠した時の、桃菓の傷ついた顔。
あの時、私は、
どう、思ったんだっけ?
はっと、思考がクリアになる。
記憶の断片が、頭から消え失せる。
そして私の目の前には、
苦しげに顔を歪める、理子の顔。
だんだんと思考が追いついてきて、
手が震える。
私は、いつの間にか、理子の胸ぐらをつかんでいた。
桃菓side
呆然とした声を上げて、
ひまりちゃんは力が抜けたように手を離した。
つかまれていた理子ちゃんは、少しだけ喉をおさえると、
またすぐに手を元に戻して私達を見据えた。
そう光のない瞳で言うと、理子ちゃんは語りだした。
ひまりちゃんのまとめに、理子ちゃんは頷く。
その表情は無に等しく、でもかすかに辛そうだった。
だから、と続けた理子ちゃんは、
深く、頭を下げた。
彼女の名を呼びながら、ちらりと凜ちゃんを見る。
謝罪を受けた、凜ちゃんは___
心底おかしくてならないというように
首をかしげて、かすかに微笑んでいた。
うろたえながらも反論しようとする理子ちゃんを、
凜ちゃんは容赦なく追い詰めていく。
力強い声でばっさり言い切った凜ちゃんは、
かすかに、優しげな表情で笑った。
はっと、理子ちゃんが顔を上げた。
優しげに笑ったままの凜ちゃんの瞳には、
力強い光が、宿っている。
凜ちゃんは浮かべていた笑みを引っ込めて、
優しい言葉を、力強く言い放った。
その言葉を最後に、静寂が戻ってきた。
次に、口を開いたのは、
私だ。
そこから和やかなムードが、私達を包み始める。
みんなが笑っている。
だから私は、いや、私達は気づかなかった。
ひまりちゃんの瞳が、仄暗い光を帯びていたことに__
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。