次の日の放課後。
部活に向かう人たちで廊下がざわつく中、
私たち装飾係は教室に残っていた。
机を後ろに下げて、
床には色画用紙やガムテープ、
ペン、はさみが広がっている。
文化祭のポスター案と、教室の飾り付けのイメージ図。
思っていた以上にやることが多い。
18号が色画用紙を持ち上げる。
作業が始まると、みんな自然と役割が分かれていった。
18号は文字を書くのが上手くて、看板担当。
まちこりーたは細かい切り貼りが意外と得意で、
飾り作りに回る。
私は全体を見ながら配置を考える係になっていた。
そして、りぃちょはというと。
高い位置の装飾や机の移動を軽々と引き受けていた。
りいちょが言い返して、教室に笑いが起きた。
その空気がなんだか楽しくて、
私も自然と笑っていた。
りいちょに呼ばれて、私は慌ててガムテープを取る。
差し出した瞬間、指先が軽く触れた。
ほんの一瞬。
それだけなのに、びっくりするほど熱が走る。
私は思わず手を引っ込めた。
りいちょは特に気にした様子もなく、
テープを受け取って上の飾りを固定し始める。
でも私は、
さっき触れた指先ばかり気になってしまって、
しばらくその場に立ち尽くしていた。
まちこの声で我に帰る
恥ずかしくて、
私は作業に逃げるように画用紙を手に取った。
しばらくして、廊下の方から男の子たちの声がした。
ニキだった。
その後ろにキャメロンと、しろせんせーもいる。
キャメロンが教室の中を覗き込んで、
壁の飾りを見上げる。
しろせんせーも腕を組んで頷いていた。
18号が冷静に突っ込むと、また小さく笑いが起きる。
りいちょは脚立代わりに椅子に上がったまま、
上の飾りをテープで固定していた。
でも、そんな軽口の応酬もいつもの感じで、
教室の空気はどこか心地いい。
私は切った画用紙をまとめながら、
そのやり取りを聞いていた。
こういう時間、好きだなと思う。
みんなで何かを作ってる感じとか、
くだらない会話で笑ってる感じとか。
私は立ち上がって壁の方を見る。
たしかに、少し下すぎるかもしれない。
でも今貼ってある位置は、
背伸びしても届くか微妙な高さだ。
そう言って、りいちょは私の手から飾りを受け取った。
その動きが自然すぎて、私は一瞬何も言えなかった。
椅子に上がったりいちょが、貼る位置を確かめる。
いつもの会話。
それだけのはずなのに、
なんだか妙に周りの視線が気になる。
思わず反応してしまって、教室に笑いが広がる。
しろせんせーが吹き出しながら言う。
ニキがうんうんと頷いている。
その言葉に、心臓が一気に跳ねた。
私はとっさにりいちょの方を見た。
りいちょは椅子の上から少し困ったように笑っているだけで、特に否定も肯定もしない。
……何その反応。
変に意識してしまって、私は目を逸らした。
そう言いながらも、
ニキたちは本当に少ししたら教室を出ていった。
去り際にしろせんせーが、
なんて一言余計な言葉を残して。
りいちょが呆れたように言う。
でも、その声にも少し笑いが混ざっていて、
完全に嫌がっているわけじゃないのが分かる。
教室に残ったのは、また私たち四人だけになった。
そんなことを言い合っているうちに、
作業は少しずつ進んでいった。
入り口用の大きな看板。
輪っか飾り。
提灯風の装飾。
教室の前と後ろ、それぞれに貼るポスター。
気づけば、
最初よりずっと文化祭らしい空間になっていた。
まちこりーたが笑った。
私も少し離れたところから全体を見る。
カラフルな飾りが増えただけで、
いつもの教室が全然違って見える。
そのとき、天井近くに貼ってあった飾りの端が、
ふわっと剥がれかけた。
私は反射的に手を伸ばす。
でも届かない。
もう少し、と思って一歩前に出た瞬間——
足元の椅子の脚に引っかかった。
ぐらっと身体が傾く。
床に手をつくかと思った、その前に。
強い力で腕を引かれた。
次の瞬間、私はりいちょの方に引き寄せられていた。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
ただ分かるのは、腕を掴まれていることと、
思っていたよりずっと近くにりいちょがいること。
息が止まる。
低い声。
近い。
近すぎる。
でも全然大丈夫じゃない。
心臓がうるさすぎて、
今にも聞こえそうなくらいだった。
りいちょはまだ私の腕を掴んだまま、
少しだけ眉を寄せる。
言い返す声が、自分でも分かるくらい小さい。
まちこりーたが後ろで息を呑む気配がした。
18号も珍しく何も言わない。
数秒遅れて、りいちょがはっとしたように手を離す。
お互い少しだけぎこちない。
空気が変わったのが分かる。
さっきまで普通に笑っていたのに、
急に何を話せばいいのか分からなくなった。
その沈黙を破ったのは、まちこりーただった。
恥ずかしすぎて、今すぐ消えたくなる。
でも、そうやって茶化してくれたおかげで、
少しだけ空気が戻った。
りいちょは咳払いを一つして、壁の飾りを見上げる。
そこから先の作業は、なんとなくみんな静かだった。
別に気まずいわけじゃない。
でも、さっきの一瞬が頭から離れなくて、
私は何度も同じところを見てしまう。
腕を引かれた感覚。
近かった顔。
“危なっ”って言った声。
全部が妙に鮮明に残っていた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。