第33話

憶測
317
2024/08/13 17:17 更新

鳥のさえずりが聞こえる前に、目を覚ました。
あなた
……

随分と嫌な目覚めだ。

シーツはぐっしょり、髪の毛が体に張り付いて気持ちが悪い。




悪い夢を見た……それだけの事だった。

時刻は午前四時。皆が起きるのはあと1時間後くらいだろうか。

今の時間、屋敷を彷徨くのは怪しまれる。窓を開けて風を通すくらいなら問題ないだろうか。


できるだけ音を立てないようにしながら、部屋の窓を開けた。
あなた
……涼しい

山だからなのか、外の空気は思っていたよりも涼しく、空気も綺麗だ。
あなた
はぁ……

窓枠に頬杖をついて、詰めたものを出すように息を吐く。

目を覚ましたのは何時もの悪夢が原因だ。
あなた
昨日……一昨日か.........
あなた
(徹夜したばっかりなんだけどな……)

一昨日、この屋敷に帰ってきた時は昨日の午前四時。ちょうど今の時間帯と一緒だ。

ギャングの件は、クラウスに任された仕事だった。私以外の誰にも伝えられていない。
あなた
(報告書はその場で書いて…指示通り同胞に渡したから、問題は無いと思うが……)

ブンブンッ




はっとして首を横に振る。そこまで心配する必要は無い。


ギャングを殲滅させ、囚われていた子供たちも保護。ギャングのトップであろう男を拷問し、情報を引き出した後殺した。
あなた
(……やっぱり取れてない)

もう一度、自分の手を嗅いでみる。何も変わらず血の匂いがした。
あなた
(よりにもよって、人を殺す夢なんてな)

実験施設で同い年くらいの女の子に手をかけた夢。



檻の外からは紺色の髪に赤紫の瞳を持った長身の男が笑って見ていた。


冷たい部屋、目の前にいる動かなくなったナニカ。そこから広がる海に映った自分。
あなた
……忘れよ
あなた
(任務には関係無い……)
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――



その日も昨日とやることは変わらない。主人に尽くすメイドとして昼間は働いた。

その夜……
あなた
……バレたな

ジビアが盗んだ鍵で型をとって作成した鍵で、ウーヴェ氏の書斎に入った。

けどウーヴェが部屋に入って資料を読んでいるのがバレてしまったようだ。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――

ウーヴェ
特に『人喰い』というギャングが悪辣でな。首都で悪行の限りを尽くしていたよ。遊ぶように人を殺した。特にその頭首はな、消えるんじゃよ。幽霊のように人の意識から消える。そして一方的に心臓にナイフを突き立てて殺す。警察や都民を震撼させた男だ。悪魔の末裔としか思えん
ジビア
…………
ウーヴェ
しかし、頭首は逮捕され、『人喰い』は崩壊した。理由は分かるか?
ジビア
…………さぁ?
ウーヴェ
その頭首の長女が、警察に密告した

ウーヴェ氏はどこか誇らしげに言った。
ウーヴェ
素晴らしいじゃろう?9歳の少女が妹や弟を守るために、正義を貫いた
ジビア
…………
ウーヴェ
その妹弟は無事孤児院に引き取られたが、直後に、長女は失踪したらしい。金を稼ぐためにな。勇ましい娘だ。噂では首都で探偵の下働きをしているとか、歳を偽り紡績工場に従事しているとか、消息は不明だが……ちょっとした美談じゃよ
ウーヴェ
………ふぅ
ジビア
……
ジビア
そんな噂をなんでわざわざ?
ウーヴェ
その長女は、凛然とした白髪の少女だったと思い出してな。今なら、ちょうど貴様くらいの年齢か。確か名前は__

ウーヴェ氏がその少女の名前を語る。
ジビア
…………別人だな
ウーヴェ
ふん。深くは追及すまい









*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――


そんな会話が聞こえてきた。

凛然とした白髪の少女……
あなた
(なるほど……ジビアの窃盗は父親譲りの能力によるものなのか)

クラウスからチーム全員の資料を読むように言われて全て目を通していた。


素行不良で落ちこぼれた……それはジビアの出自が関係していたらしい。

だが、少し不可解だ……。孤児院を抜け出したなら分かるが、失踪と書かれている。


ギャングに刃向かってまで大事にしている妹弟がいる孤児院に顔を出していない、だから失踪として処理されそのまま…そう考えるのが妥当だろう。
あなた
(だとすれば……その妹弟は既に殺されているのか)

可能性の話だが、素行不良の原因は、もしかすると妹弟の死が大きいかもしれない。
あなた
(……いや、あくまでも可能性の話。他人の過去まで踏み入るのは無粋だ)

憶測で物事を語るほど、私は愚かじゃないだろう。
あなた
(それよりも……)

*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――

ウーヴェ
__貴様たちは明日でクビだ
ジビア
は?
ウーヴェ
懇意の政治家の顔を立てるために雇用したがな、やはり無駄は省かねばならん。4人も要らんじゃろう。明日の昼過ぎには出て行け
ジビア
ちょ、ちょっと待ってくれ___



*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――
あなた
(……まずはクビをどうにかしないとだな)


このままでは任務達成するどころの話では無い。

だが、そこまで心配はしなくてもいいかもしれない。


ウーヴェの書斎の部屋から飛び出して来たジビアがこちらの使用人部屋に向かってきている。
あなた
……移動するか

自分の部屋を出て隣に移動する。グレーテとリリィがサラの鷹と戯れていたところに私がお邪魔した。
サラ
あなたのセレネ先輩っ、こんばんはっす

小動物のように笑うサラに私も『…こんばんは』と返す。
あなた
……ジビアがウーヴェ氏の書斎の部屋からこっちに来てる。話を聞こう
グレーテ
分かりました……

昨夜の件だと察した3人が頷く。直後にジビアが部屋に到着し、事の詳細を説明した。

クビになったことを話すと__


「「「……お勤めご苦労様でした」」」

と3人が口を揃えて言った。
ジビア
まだクビになってねぇよっ!
あなた
まだ、な……でも、このままだと全員クビか
ジビア
あぁ、すまん……
リリィ
え、全員?なんでです?

申し訳なさそうな表情を浮かべるジビアに、リリィと他の2人が首を傾げた。


どうやら、ジビアの解雇だと思ったらしい。

ジビアが事の顛末を明かすと、納得したらしく、『あっ』と声を漏らした。
サラ
ピンチじゃないっすか!

その言葉に首肯して、ジビアは声のトーンを落とした。
ジビア
で、ちょっと身の上話をしたいんだけど
リリィ
え、このタイミングで?
あなた
…構わない。どうぞ

自分のちょっとした憶測の答え合わせにはなるだろう。
ジビア
……ありがとう。実はあたし、昔、妹や弟と孤児院に入ってた時期があったんだ。死ぬほど貧しい孤児院でさ。なんだか腹が立って、あたしはスパイに志願したんだよ。こんな世界を少しでも変えたくてさ。ウーヴェさんの志と近い部分があるんだ

自嘲するようにジビアは笑う。
あなた
(大体は憶測通り……か)
深くは語らないが、大凡は合っていることがわかった。

ジビア
だから今は凄く嬉しい。アイツ……先生はあたしの思いを汲んでくれたんだなって

一度俯いてから顔を上げた。瞳に、光を宿して。
ジビア
先生の期待に応えたいし、ウーヴェさんも守りたい。頼む、協力してくれ

ジビアらしい、力強い声だった。
あなた
……わかった

私は短く端的に応え頷いた。彼女は、強い熱を纏っている。




”私の目がそう言っている”。

3人はジビアの熱量をすぐに理解出来なかったようではあるが、その強い意志は感じとっていた。
リリィ
まぁ、協力も何も任務ですからね
あなた
(茶化した……)
ジビア
そうなんだけどさ
あなた
……照れた
ジビア
うるせぇっ
サラ
あ、あの

サラがおずおずといった様子で手をあげた。
サラ
自分もジビア先輩の気持ち、分かるっす。自分自分は臆病だしダメダメで、今も他の仲間の方が良かったんじゃないかって思ってますけど
サラ
でも、選ばれた時は滅茶苦茶嬉しかったっすね
リリィ
お2人とも単純ですねー。私は当然選出されると思ってましたよ。常識的に考えて、こんな大事な任務にリーダーが外されるわけないじゃないですか

恥ずかしさで顔を真っ赤にするサラと対象に、勝ち誇ったように笑顔をこぼすリリィ。
サラ
リリィ先輩の部屋から、やったぁって騒ぐ声が聞こえたっす

という証言がある。
ジビア
という証言があるが?

ちなみに、食後のお茶に毒を盛る作戦の前に「絶対外されますよねっ!私たちっ!」と、リリィが1番(大袈裟)焦っていた。
リリィ
__い、いや、私は毎日そう叫んでますよ?
ジビア
どんな習慣だよ

そんな3人を見つめているグレーテが「ふふっ」と嬉しそうに吹き出した。
ジビア
どうした?
グレーテ
いえ、きっとボスは皆さんの感情を見抜いて、指名したのだろうな、と__
ジビア
惚れ直したか?
グレーテ
いえ、想定通り…………想定通りの魅力です……

グレーテがたっぷりと惚気ける。
グレーテ
……そして、ボスの期待に応えたいのは、わたくしも同じです
ジビア
だよな

それはこの5人問わず全員に共通している事だろう。

円陣を組むように密着し、小声で作戦会議を始める。

その間、私はしばらく黙っていた。
あなた
(どちらかと言うと、単独行動派なんだがな……)

人との絆は、私のような人間が深めていいものじゃない。

何より、単独行動の方が動きやすいのだ。
グレーテ
……オリヴィアさんに変装し、わたくしたちの雇用継続に誘導、でしょうか……

なにも、仲良しこよししてやる必要はない……。
リリィ
ウーヴェさんに毒を盛って、颯爽と助けて好感度を稼ぐとか?

『屍』の協力者を捉えるのに、こんなに人を使う必要も無い……。
サラ
自分なら、そうっすね、まずウーヴェさん以外の人に交渉するっす

こんな夜に集まってコソコソしていれば怪しまれるに決まっている。
ジビア
あなたのセレネは?

私なら……
あなた
……私なら、さっさと退いて、別の方法を実行する

それが1番、自分がやりそうだ。
ジビア
例えばなんだ?
あなた
『屍』になります……とかな。それでも出てこなければ、音で捕まえる

あくまで、『屍』を捕まえるのであればの話しだ。協力者の捕縛では無い。
ジビア
あたしは美味い飯を食わせて、メイドを認めさせたい
リリィ
うわ、力業
リリィ
でも、いいですね。ジビアちゃんらしくて

ジビアの意見に反対は生まれなかった。

見込みは薄くても、彼女らしいそのやり方を実行してみる価値はあるだろう。
あなた
(……その熱量に免じて)

というのが本音だ。

4人は口元に笑みを浮かべた。彼女たちがなぜ笑みを浮かべるのか、私には分からないが。
ジビア
さぁ、計らずも料理のリベンジマッチだ。今回は、1人、知将とチームのエースが1人ついたし__

そういえば、前回の不可能任務の際のメンバー紹介でクラウスに言われてたな……。
グレーテ
……いえい

と、そこで思わぬ人物が突然意外な声を挙げた。
あなた
……
ジビア
突然どうした
グレーテ
……ジビアさんたちの高いテンションに合わせようと……いえいだぜ……


なかなかカオスだ……。あのグレーテが『だぜ』まで言っている。


表情は変わらないが、つい目をパチパチさせた。
ジビア
無理しなくていいぞっ?



サラ
い、いえいっす!
リリィ
私たち、日頃からそんなアホみたいな挙動してますかっ?
あなた
割と…
グレーテ
……コクリ
サラ
……あ、あはは
リリィ
ええっ!

自分たちがどれだけ愉快か、自覚はなかったらしい。結構驚いていた。

そんな、どこか間抜けたやり取りの後でジビアが宣言した。
ジビア
任された以上は、胸を張っていくぞ!この5人で!

ゴツンッ

全員がごつんと頭をぶつけ合う。眩しい眼差しを受け、渋々といった様子で少女もそれに乗っかった。





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