選抜の噂はすぐに広まった。
皆は選抜に選ばれるために訓練に励んでいる。
私は選抜にそこまで興味は湧かず、最低限の訓練をするだけで他は別のことに費やしていた。
コツッコツッ
少女は、機械のような乾いた足取りである人物の部屋に向かっていた。
その人物の部屋の扉は常に開いている。
何か作っているのか、カチャカチャと部屋からは音が聞こえている。
“灰桃髪の少女__アネット“
彼女はご機嫌な様子で工作をしていた。電気をつけず、差し込む太陽の光だを照明代わりにしている。
作っているのは......銃……のようなものだ。
没頭している様子のアネットに声をかける。
地面から跳ねるように立ち上がり笑顔を浮かべる天使のような灰桃髪の女の子。
その笑顔の下にあるのはきっと、誰もが恐れる悪魔なのではないかと思っていた。
断られるとわかっていた私はそう言って後ろに隠していたプリンを見せる。
しかも、いつもより一回り大きい。
アネットに理由を含めて伝えると彼女は『明日渡しますねッ!』と言ってくれた。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――
いつもより一回り大きめな牛乳プリンを平らげたあと、声をかける。
何を考えているのか分からない目の前にいる少女は笑顔を浮かべて私を見る。
言いかけたところで1度止まる。
彼女は不思議そうに首を傾げて私を見ていた。
コツッコツッ
そして、それ以上何も言わずに部屋から出ようと扉の方に足を進める。
扉を出るところで呼び止められて後ろを振り返る。
振り返った先にいるアネットの瞳は、緑ではなく、何故か黒く見えた。
けれど、不思議と怖くは無い。
そう言うと天使のような笑顔を再び浮かべた。
私にはそれがなんなのか分からない。
けれど、予想くらいはできる。性格、気質......その貼り付けた笑顔の下に隠れているであろう思考は予想出来た。
”画家の目に映るモノは、嘘をつかない”___かつてクラウスに告げた一言は、間違っていない。
引き立て役の背景、主人公の仮面、アネットの言葉。その全てが物語っているように思えた。
ただ黒い瞳で薄い笑みを浮かべた。
それからアネットは何も言うことなく、あなたのセレネが部屋から出ていくのをジッと見ていた。
コツッコツッ
それを気にすることなく部屋を後にする。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――
コンコンコン キィ
自室に戻るとすぐにモニカが部屋にやってきた。いつものように来た途端読書を始める。
いつもと違うと言えばベッドではなくソファーにいることくらいか。
こうして素っ気なく返されるのはいつものことである。
ガタッ
イーゼルを閉じて部屋の壁に立てかける。ついでに椅子もそこに置いた。
相変わらずの不遜な笑みを本から覗かせて私を見る。
誰を連れていくかはクラウスとグレーテに委ねられている。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――
クラウスの部屋からはまだ声が聞こえてきている。
モニカの真剣そうな声色が聞こえ、耳を傾ける。
『参加』というワードを強調した言い方。モニカはもう分かっているらしい。
わざわざそれを聞くために私の部屋にやってきたんだろう。
理由は色々あった。が、『『屍』と面識がある』なんて口が裂けても言えない。
案の定理由を求められる。
とぼけるような態度ではあるけれど、隠しているのは自分もであるからこれ以上は言えない。
言っても負けるのは間違いなく自分なのが想像できる。
棚から1冊の本を取り出してベッドに俯せで寝る。枕に顎を載せた状態で本を開いた。
訝しげな表情でモニカが言う。
確かに遅いのは事実だ。もう既に3週間は経っているのに塞がりきっていない。
それはモニカでも驚いて当たり前だ。
本を読み続けながら会話をしていた。
パレスとは別の場所を取り、闇医者に見てもらった結果を伝える。
モニカには以前、痛覚が鈍っていることを伝えてあった。
表情を見る限り、モニカはなにかを考えていた。
いつもの通りの冷淡さで喋り続ける少女。その目線はずっと本に向かれている。
チラリと横目で見て思いながらまた視線を戻す。
ピラッ
また1ページ捲った。
モニカが言っている2人と言うのはリリィとジビアで間違いないだろう。
リリィはドジでジビアは脳筋......2人はないと思うのも頷ける。
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――
「「……」」
*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――*☼*―――――
台所の方ではなにやら騒がしい。
時計を見ると夕食を食べる時間までそう長くは無かった。
時間的にはもうそろそろ夕食を食べる時間だ。移動してもいいだろうと思い、モニカを誘う。
すると、ソファから立ち上がり扉の方へ向かった。
キィ
モニカについて行くように食堂の方へ向かった。






![おちた コ [ yhg ]](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/9e0935383d7e88a3b9de9af220dd233219b195b1/cover/01JZZ574ARAP33X6KM35ZFHQ18_resized_240x340.jpg)





編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!