「ね、これ見たことあるかも……」
ユジンがリモコンで選んだ一つのAVが、大きな画面に映し出される。
どこか薄暗い部屋、リアルな息遣い、そして始まったベッドの上のやりとりは、他のより格段に“リアルすぎる”。
「……これ、普通にエグいな……」
ギュビンがクッション抱えて呟く。
ハオは腕を組みながら、じっと画面を見つめている。
「……演技じゃないな、これ」
「でしょ!?俺もそう思った!」とユジンが食い気味に頷く。
その横で、ハンビンは妙に静かだった。
ソファに座る姿勢が少しだけ不自然で、手元のクッションをぐっと腹に押し当てている。
(あ……)
ユジンがふとその様子に気づいた。
「……」
ハンビンの頬がほんのり赤くなっている。
肩が強張って、目線もなんだか泳いでいた。
画面には、ベッドの軋む音と、しっかり聞こえる吐息──
ユジンはそっと、ハオの腕をつついて近寄った。
耳元に手を添えて、声を潜めて囁く。
「……ハンビンヒョン、たぶん……たってます」
「……は?」
ハオが一瞬目を丸くしてから、ちらりとハンビンの方を見る。
クッションをぎゅっと握りしめるその姿。うつむいて、口元を引き結んでいる表情。
(……マジで……可愛い……)
ハオは噴き出しそうになるのを堪えつつ、ユジンの肩を軽くぽんと叩いた。
「ありがとう、ユジン……可愛いの見逃すとこだった」
「でしょ?俺、観察力には自信あるんす」
ふたりの小さな会話に、ギュビンだけが気づかず「これさ、どの角度から見てもマジだよなー」と呑気にAVを分析していた。
ハンビンはというと、耳まで真っ赤にしながら「……な、なんでこんなの選ぶんだよ……」とぼそっと呟いたが、ハオはもうニヤニヤが止まらない。
「……後で、ちゃんと処理してあげるから」
「ちょっ……!」
小さく囁かれたハオの言葉に、ハンビンは顔を真っ赤にして、クッションに顔をうずめた。
「なんか今、めっちゃ可愛い声聞こえた気がするんすけど……?」
「気のせい。今のは俺にしか聞こえない声」
「え、なにそれズルい!!」
ギュビンとユジンのやりとりを背に、ハオはハンビンの背中をぽんぽんと優しく撫でながら、そのままソファに背を預けた。
夜はまだ終わらない。
ふたりの視線の先では、まだAVが続いていた──
___
ハンビンはクッションに身を沈めて、薄暗い部屋の中、ぼんやりとテレビ画面を見ていた。流れているのは、ちょっと過激な内容のAV。ギュビンが興味津々で解説を始めてしまったせいで、場はなぜか真面目な討論モードになっている。
「この照明の色、映画的だよね?てかこの人、演技うまくない?」
ギュビンが感心したように言うと、ユジンが「あーわかる、でもこっちの人の方が…」と冷静に続ける。
そんななか、ハオはさりげなく座り直し、わざとハンビンのすぐ隣、ぴったりとくっつく距離に移動した。ユジンはその一瞬を見逃さなかった。にやっと笑って、何も言わずに位置を入れ替えてあげる。
ハンビンは気づいていないふりをしようとした。だけど、ハオが耳元でそっと囁く。
「ねえ、バレたらどうする?」
その瞬間、ハオの指先がハンビンの太ももにそっと触れた。ズボンの生地越しに、すこしだけ、でも確かに熱を帯びた場所をなぞるように。
「っ……!」
ハンビンは息を呑んで、喉の奥で声を殺した。顔が真っ赤になり、目をぎゅっと閉じる。ユジンはそれを見て、笑いを堪えるのに必死で唇を噛みしめる。
「ねぇ、なんかさ……今変な音しなかった?」
ギュビンが急にテレビから視線を外し、こっちを振り向く。
ハンビンはすぐさまクッションで顔を隠す。ハオはにこっと無邪気な顔で「気のせいじゃない?ね、ユジン」と、まるで何もなかったように返した。
ユジンは、笑いを堪えきれずむせるように笑ってしまい、「いや、ほんともう……」と頭を抱える。
ギュビンだけが真剣にAVに戻り、「これの続編ないのかな…」と独り言。
ハオは、その横で、何もなかったかのようにハンビンの手をそっと握った。
___
パーティーのあと、夜風にあたりながら帰宅するギュビンとユジン。2人で玄関をくぐると、家の中にはまだAVの残響のような、どこか気まずくて生ぬるい空気がほんのり漂っていた
「ねえ、さっき……バレてるの、気づいてたよね?」
ギュビンはソファに座り、冷蔵庫から取り出した水を飲んでから、にやっと笑った。
「んー?何の話〜?」
とぼけた声に、ユジンが眉をひそめる。
「ハンビニヒョン、途中から明らかに変な顔してたじゃん。ハオヒョンが絶対なんかしてたでしょあれ。しかも、あんた一瞬こっち見てたじゃん、視線。」
ギュビンは水のボトルをテーブルに置き、ユジンの隣にストンと腰を下ろした。
「うん、知ってた。てか見てた。」
「やっぱり〜〜〜〜!!」
ユジンが肩をすくめて笑うと、ギュビンは頬杖をついて続けた。
「ハンビニヒョン、いつも強気っていうか、余裕ある顔ばっかじゃん?
だから、あんなふうに真っ赤になって目泳がせてんの……ちょっと面白かった。」
ユジンは呆れたように「わる……」とつぶやきながらも笑っている。
「っていうかさ、ハオヒョンもハオヒョンだよね。あんな場でやる?」
「いやほんとそれ。…てか、俺まで笑い堪えるのしんどかったし。」
「でも……あれちょっと羨ましかったかも」
「え?」
ギュビンの目がユジンの方に向けられる。
「俺もギュビニヒョン、ああやって困らせてみたいな〜って。普段全然余裕そうだから。」
「……あー、俺もバレないように気をつけないとな」
「ふふ、無理だよ、俺がやったら秒でバレる」
「知ってる、でも嬉しいから許す」
静かな夜に、笑い声が溶けていった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。