第96話

新しい一歩
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2025/06/28 14:56 更新
冬の朝、吐く息が白く染まる中、高校の卒業式が始まった。

正門前には既に人が溢れており、制服の上にコートを羽織ったユジンがギュビンに手を振って駆け寄ってくる。
その後ろには、ハオとハンビンの姿もあった。スーツをきちんと着こなした2人は保護者のようでもあり、どこか誇らしげだった。

式が終わると同時に、ユジンの周囲には人だかりができた。
「ユジンくん、ボタンちょうだい!」
「写真撮ってください!」
「第二も第三もほしい!」

あっという間に、ユジンの制服のボタンはほぼ全滅寸前。
それを見ていたギュビンの顔には、少しの焦りと、ほんの少しの不安。
制服の胸元が寂しくなっていくユジンを見て、彼はそっとポケットの中の小箱を握りしめた。

「大丈夫だよ」
いつの間にか隣に立っていたハンビンが声をかける。
「ほら、押してやるよ」
背中にぽんと手を添えると、反対側にはハオもいた。
「これ、青春のど真ん中ってやつだよ。逃したら、ずっと後悔する」

ギュビンはこくりと頷くと、群がる生徒たちの間を縫いながら、ユジンの手を取ってその場を抜け出した。
「え、ちょ、どこ行くの?ギュビニヒョン?」

答えずに、そのまま屋上へ向かう。
ユジンは訝しみながらも、黙ってついていった。

冷たい風の吹く屋上に着いた頃には、ユジンの頬も、ほんのり赤く染まっていた。

「ユジン」
「……なに?」

ギュビンはそっとポケットから小さなケースを取り出す。中にはシンプルだけど温かみのあるペアリングがふたつ。

「ずっと言いたかったんだ」
「俺は、今も、過去も、これからも、ユジンが大好きだし、心から愛してる」
「だから……結婚してください」

ユジンが目を見開く。風が彼の卒業証書を揺らす。

一拍、ふた拍。

それから、ユジンは静かに笑った。涙を浮かべながら、制服のポケットから、ひとつのボタンを差し出した。
「これは……誰にもあげないって決めてたんだ」
「ギュビニヒョンにだけ渡すって」

まるで約束されていたみたいに、すべてが完璧だった。

その頃、下の運動場から屋上を見上げていたハオとハンビン。
ふたり寄り添って、ハンビンがスマホを取り出す。

「……いい画だなあ。青春の一ページ、ってやつ?」

「うん。……あいつら、幸せになるよ」

シャッター音が、冬の空に吸い込まれていった。

___

その日の夕方。
卒業式を終えた帰り道は、いつもの通学路ではなく、川沿いの少し遠回りのルートだった。

「……なにこの空気……」
ハオがくすくすと笑いながら振り返ると、後ろから歩いてくるユジンとギュビンが、なぜか妙に距離を保ちながら手を繋いでいた。顔はお互いに真っ赤。ぎこちない笑顔。

「ねえ、気まずすぎない?笑」
「ねー?卒業して、プロポーズまで済んだはずなのに、なんでこんな初々しいの?」
ハンビンまで肩を震わせながら振り返ると、ユジンが照れたように唇を噛んだ。

「だって、なんか……ヒョン、今日一日ずっと格好良かったから……」
「……う、うるさい……でもぉ……」
ギュビンがふいっと顔を逸らして、駄々をこねるようにユジンの手をぐっと握る。

「はいはい、じゃあ今日はお祝いにしよう!」
ハンビンが勢いよく宣言する。

「卒業と、結婚と、成人のトリプルお祝い!家帰る前にスーパー寄ってさ、パーッとやろ!」

4人はスーパーに寄り、ビール缶をカゴに詰める。
さらにウイスキー瓶、サワー、カクテル缶、スナック菓子も山ほど買い、さらには「今日くらい吸いましょ?」とハオが呟いてタバコも買い足す。

「チキンとピザはデリバリーにしてっと……」
ハンビンがスマホで注文を済ませると、すでに車のトランクはほぼパンパンだった。

夜、ハンビンとハオの家で4人がソファに座り込み、大きなテーブルの上にはピザとチキン、ビール缶がずらりと並ぶ。BGMにはゆったりとしたR&B。照明は少し落とし、ろうそく代わりの小さなライトが、柔らかく部屋を照らしていた。

「はい、ユジンはこれが人生初お酒ね」
ハオが注いだウイスキーを渡すと、ユジンはそれを不思議そうに見つめてから、くいっと一口。

「……あ、いけるかも」
「お、やるじゃん。味とか苦くない?」
「思ったより平気。もう一杯いいですか?」

すでにハオもハンビンも驚いていたが、それよりもっと驚いていたのはギュビンだった。

ユジンがウイスキーを三杯ほど飲み干しても、顔色ひとつ変えず、表情も普段と変わらない。
むしろテンションが少し上がっているくらいで、キッチンに行っては「つまみ取ってくるね」とチキンを追加で持ってきたり、ビールをハンビンのグラスに注いであげたり。

「……ばけものだ……」
ギュビンがぽつりと呟くと、ハンビンとハオが笑い転げた。

「これから毎晩飲み比べする気?ユジンに勝てるわけないって」
「ギュビン、酒弱いもんね〜」
「……う、うるさい……今日は特別な日なんだから、優しくしてよ」

その声に、ユジンが無言でにこっと笑って、ギュビンの頭をぽんぽんと撫でる。

「や、やめてよお……」
「かわい〜〜」
「かわい〜〜〜」
ハンビンとハオがそろって声を揃える。

その後も、チキンとピザを頬張りながら、話題は昔話や出会いのこと、プロポーズの話で大盛り上がり。
「初めて会ったときの印象は〜?」「告白する前、実は〇〇してた〜」など、酒の勢いでどんどん暴露大会になる。

夜は更けて、でも笑い声が止むことはなかった。
この夜が、4人にとって一生記憶に残る“最初の祝宴”になったのだった。

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