冬の朝、吐く息が白く染まる中、高校の卒業式が始まった。
正門前には既に人が溢れており、制服の上にコートを羽織ったユジンがギュビンに手を振って駆け寄ってくる。
その後ろには、ハオとハンビンの姿もあった。スーツをきちんと着こなした2人は保護者のようでもあり、どこか誇らしげだった。
式が終わると同時に、ユジンの周囲には人だかりができた。
「ユジンくん、ボタンちょうだい!」
「写真撮ってください!」
「第二も第三もほしい!」
あっという間に、ユジンの制服のボタンはほぼ全滅寸前。
それを見ていたギュビンの顔には、少しの焦りと、ほんの少しの不安。
制服の胸元が寂しくなっていくユジンを見て、彼はそっとポケットの中の小箱を握りしめた。
「大丈夫だよ」
いつの間にか隣に立っていたハンビンが声をかける。
「ほら、押してやるよ」
背中にぽんと手を添えると、反対側にはハオもいた。
「これ、青春のど真ん中ってやつだよ。逃したら、ずっと後悔する」
ギュビンはこくりと頷くと、群がる生徒たちの間を縫いながら、ユジンの手を取ってその場を抜け出した。
「え、ちょ、どこ行くの?ギュビニヒョン?」
答えずに、そのまま屋上へ向かう。
ユジンは訝しみながらも、黙ってついていった。
冷たい風の吹く屋上に着いた頃には、ユジンの頬も、ほんのり赤く染まっていた。
「ユジン」
「……なに?」
ギュビンはそっとポケットから小さなケースを取り出す。中にはシンプルだけど温かみのあるペアリングがふたつ。
「ずっと言いたかったんだ」
「俺は、今も、過去も、これからも、ユジンが大好きだし、心から愛してる」
「だから……結婚してください」
ユジンが目を見開く。風が彼の卒業証書を揺らす。
一拍、ふた拍。
それから、ユジンは静かに笑った。涙を浮かべながら、制服のポケットから、ひとつのボタンを差し出した。
「これは……誰にもあげないって決めてたんだ」
「ギュビニヒョンにだけ渡すって」
まるで約束されていたみたいに、すべてが完璧だった。
その頃、下の運動場から屋上を見上げていたハオとハンビン。
ふたり寄り添って、ハンビンがスマホを取り出す。
「……いい画だなあ。青春の一ページ、ってやつ?」
「うん。……あいつら、幸せになるよ」
シャッター音が、冬の空に吸い込まれていった。
___
その日の夕方。
卒業式を終えた帰り道は、いつもの通学路ではなく、川沿いの少し遠回りのルートだった。
「……なにこの空気……」
ハオがくすくすと笑いながら振り返ると、後ろから歩いてくるユジンとギュビンが、なぜか妙に距離を保ちながら手を繋いでいた。顔はお互いに真っ赤。ぎこちない笑顔。
「ねえ、気まずすぎない?笑」
「ねー?卒業して、プロポーズまで済んだはずなのに、なんでこんな初々しいの?」
ハンビンまで肩を震わせながら振り返ると、ユジンが照れたように唇を噛んだ。
「だって、なんか……ヒョン、今日一日ずっと格好良かったから……」
「……う、うるさい……でもぉ……」
ギュビンがふいっと顔を逸らして、駄々をこねるようにユジンの手をぐっと握る。
「はいはい、じゃあ今日はお祝いにしよう!」
ハンビンが勢いよく宣言する。
「卒業と、結婚と、成人のトリプルお祝い!家帰る前にスーパー寄ってさ、パーッとやろ!」
4人はスーパーに寄り、ビール缶をカゴに詰める。
さらにウイスキー瓶、サワー、カクテル缶、スナック菓子も山ほど買い、さらには「今日くらい吸いましょ?」とハオが呟いてタバコも買い足す。
「チキンとピザはデリバリーにしてっと……」
ハンビンがスマホで注文を済ませると、すでに車のトランクはほぼパンパンだった。
夜、ハンビンとハオの家で4人がソファに座り込み、大きなテーブルの上にはピザとチキン、ビール缶がずらりと並ぶ。BGMにはゆったりとしたR&B。照明は少し落とし、ろうそく代わりの小さなライトが、柔らかく部屋を照らしていた。
「はい、ユジンはこれが人生初お酒ね」
ハオが注いだウイスキーを渡すと、ユジンはそれを不思議そうに見つめてから、くいっと一口。
「……あ、いけるかも」
「お、やるじゃん。味とか苦くない?」
「思ったより平気。もう一杯いいですか?」
すでにハオもハンビンも驚いていたが、それよりもっと驚いていたのはギュビンだった。
ユジンがウイスキーを三杯ほど飲み干しても、顔色ひとつ変えず、表情も普段と変わらない。
むしろテンションが少し上がっているくらいで、キッチンに行っては「つまみ取ってくるね」とチキンを追加で持ってきたり、ビールをハンビンのグラスに注いであげたり。
「……ばけものだ……」
ギュビンがぽつりと呟くと、ハンビンとハオが笑い転げた。
「これから毎晩飲み比べする気?ユジンに勝てるわけないって」
「ギュビン、酒弱いもんね〜」
「……う、うるさい……今日は特別な日なんだから、優しくしてよ」
その声に、ユジンが無言でにこっと笑って、ギュビンの頭をぽんぽんと撫でる。
「や、やめてよお……」
「かわい〜〜」
「かわい〜〜〜」
ハンビンとハオがそろって声を揃える。
その後も、チキンとピザを頬張りながら、話題は昔話や出会いのこと、プロポーズの話で大盛り上がり。
「初めて会ったときの印象は〜?」「告白する前、実は〇〇してた〜」など、酒の勢いでどんどん暴露大会になる。
夜は更けて、でも笑い声が止むことはなかった。
この夜が、4人にとって一生記憶に残る“最初の祝宴”になったのだった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。