第25話

☀︎25
126
2018/12/05 13:12
朝陽
…月影っ…!
…佐藤くんっ…
肩で息をしている彼から、しばらく言葉は出てこなかった。

そんな彼の心の声が流れ込んできた。
[…間に合った……]
…『間に合った』?
朝陽
……っ!!
思わずおうむ返しで問いかけると、息を整え終えた佐藤くんは、驚くべきことを言った。
朝陽
…悪い、月影。事が終わるまで、俺の心を読むのをできるだけやめてほしい
……っ!?
朝陽
あ、いやっ…嫌な気持ちとかは全くないんだよ?ただ…今から言う事が先に知られたら嫌というか…なんつーか…
語尾に近づくにつれ、細々とした声になって聞き取れにくくなった。

…どういう話か分からないが…
……努力はします
朝陽
…ありがとう
私の能力ちからは、勝手に頭の中に流れ込んできてしまうから、読まないでときっぱり言われてしまうと、ちょっと厳しい。

…努力はしますが。
落ち着かずにソワソワしている彼は、何か話したそうだったので、私はブランコに座って話す?と誘った。

心読んだ!?って聞かれたが、誰でも分かる動きをしていたと思う…

私たちはブランコに移動すると、しばらくの間沈黙が続いた。

佐藤くんはまだ口を開かなそうだったから、私は気になっていたことを先に聞いた。
…ねぇ。恩人って何?
朝陽
……えっ…!?
…私何かしたっけ?悪いけど…全く身に覚えがないんだ
朝陽
…………そっか
そう。今日の朝、女子3人の話によって発覚したことだ。

今度話すって言っていたから、話してくれるかな〜…と思ったんだけど…

しばらく、私を見たままフリーズしていた佐藤くんは、意を決したように話し始めた。
朝陽
…本当に覚えてないんだったら話すよ…あれは、入学式の時だった──…
…入学式っ!?そこまで遡るの…!?
……………………………………………………

ー入学式ー

朝陽side

俺はこの日、朝から体調が悪かった。熱を測れば、37.5度。確実に熱だとわかっていたが、入学式ということもあったから、無理矢理にでも学校へ行った。…まあ、もともと俺の平熱は高めだったし、気づかれないと思ったのだ。

学校に到着すると、吐き気が襲ってきた。俺は必死に堪えると、自分のクラスへ向かった。

すると、中学生から知り合いの奴が話しかけてきた。
『おはよう!朝陽!』

「ああ…おはよう」

『なんか体調悪そうだけど大丈夫か?』

「…いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

『ま、朝陽はバカだからな!よく言うだろ?バカは風邪をひかないって!』

「…………」
友達に言い返そうとしたが、その気力もなく、俺はただただ自分の席に座るしかなかった。
そして先生から入学式の注意事項とか色々話され、入学式が行われる体育館へ向かおうとした時、事件は起きたのだった。
俺は耐えきれなくなってトイレに駆け込んだ。

そして落ち着いてから出ていくと、誰もいなくて、教室の中も空っぽになっていた。
「ハハッ…入学早々…やらかしちまったな…」
俺は足の力が抜け、その場にへたり込んでしまった。

誰かが帰ってくるのを待とうとしたその時だった。
『……大丈夫…ですか…?』
小さい声でおずおずと誰かが声をかけてきた。
『…体調…悪いんですよね…?…ちょっと、待っていてくださいね』
彼女はそう言って、どこかへ行ってしまった。

俺はそろそろ限界に近づいていて、その場で寝そうになってしまった。

その時、ヒヤッと何か首に冷たいものが当てられた。

どうやら、水を湿らせたハンカチを当てたらしい。
「……っ!?」

『…ごっ…ごめんなさい…冷たかったですか…?』

「だ、大丈夫…です。ありがとう…ございます…」
俺は途切れ途切れになりながらも、感謝を告げた。

そして、彼女のネクタイの色を見てあることに気づいた。
「あなたも…新入生ですよね…入学式…出ないんですか…?」

『……あっ…えっと…出たくない理由があって…ああいう場所、“うるさくて”嫌いなんですよね…』

「そう…なんですか…」
俺はそこで意識を失った。
目が覚めた時、俺は保健室のベッドで寝かされていた。

先生に聞くと、入学式の途中である女の子が俺のことを知らせてくれて、慌てて運び込んだという。

その女の子こそが月影 静だったのだ────

プリ小説オーディオドラマ