肩で息をしている彼から、しばらく言葉は出てこなかった。
そんな彼の心の声が流れ込んできた。
[…間に合った……]
思わずおうむ返しで問いかけると、息を整え終えた佐藤くんは、驚くべきことを言った。
語尾に近づくにつれ、細々とした声になって聞き取れにくくなった。
…どういう話か分からないが…
私の能力は、勝手に頭の中に流れ込んできてしまうから、読まないでときっぱり言われてしまうと、ちょっと厳しい。
…努力はしますが。
落ち着かずにソワソワしている彼は、何か話したそうだったので、私はブランコに座って話す?と誘った。
心読んだ!?って聞かれたが、誰でも分かる動きをしていたと思う…
私たちはブランコに移動すると、しばらくの間沈黙が続いた。
佐藤くんはまだ口を開かなそうだったから、私は気になっていたことを先に聞いた。
そう。今日の朝、女子3人の話によって発覚したことだ。
今度話すって言っていたから、話してくれるかな〜…と思ったんだけど…
しばらく、私を見たままフリーズしていた佐藤くんは、意を決したように話し始めた。
…入学式っ!?そこまで遡るの…!?
……………………………………………………
ー入学式ー
朝陽side
俺はこの日、朝から体調が悪かった。熱を測れば、37.5度。確実に熱だとわかっていたが、入学式ということもあったから、無理矢理にでも学校へ行った。…まあ、もともと俺の平熱は高めだったし、気づかれないと思ったのだ。
学校に到着すると、吐き気が襲ってきた。俺は必死に堪えると、自分のクラスへ向かった。
すると、中学生から知り合いの奴が話しかけてきた。
『おはよう!朝陽!』
「ああ…おはよう」
『なんか体調悪そうだけど大丈夫か?』
「…いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」
『ま、朝陽はバカだからな!よく言うだろ?バカは風邪をひかないって!』
「…………」
友達に言い返そうとしたが、その気力もなく、俺はただただ自分の席に座るしかなかった。
そして先生から入学式の注意事項とか色々話され、入学式が行われる体育館へ向かおうとした時、事件は起きたのだった。
俺は耐えきれなくなってトイレに駆け込んだ。
そして落ち着いてから出ていくと、誰もいなくて、教室の中も空っぽになっていた。
「ハハッ…入学早々…やらかしちまったな…」
俺は足の力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
誰かが帰ってくるのを待とうとしたその時だった。
『……大丈夫…ですか…?』
小さい声でおずおずと誰かが声をかけてきた。
『…体調…悪いんですよね…?…ちょっと、待っていてくださいね』
彼女はそう言って、どこかへ行ってしまった。
俺はそろそろ限界に近づいていて、その場で寝そうになってしまった。
その時、ヒヤッと何か首に冷たいものが当てられた。
どうやら、水を湿らせたハンカチを当てたらしい。
「……っ!?」
『…ごっ…ごめんなさい…冷たかったですか…?』
「だ、大丈夫…です。ありがとう…ございます…」
俺は途切れ途切れになりながらも、感謝を告げた。
そして、彼女のネクタイの色を見てあることに気づいた。
「あなたも…新入生ですよね…入学式…出ないんですか…?」
『……あっ…えっと…出たくない理由があって…ああいう場所、“うるさくて”嫌いなんですよね…』
「そう…なんですか…」
俺はそこで意識を失った。
目が覚めた時、俺は保健室のベッドで寝かされていた。
先生に聞くと、入学式の途中である女の子が俺のことを知らせてくれて、慌てて運び込んだという。
その女の子こそが月影 静だったのだ────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!