第36話

過去と観覧車
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2024/04/30 10:23
32話







ベンチに腰を下ろして、迅に俺について話した









こう見えて、俺はかなり複雑な世界で生きていた
仕事で度々出張で家を空けていた父
そして、そんな父を置いて不倫をしていた母
そんな家庭で育ったのが俺だった
父親は仕事から帰ってきたらすぐ別の仕事へ行って
俺との時間はなかなか作ってはくれなかった
それ同様で母親も、俺との時間はない
愛のない家で育ったのが俺
そう思ってた

バチンッ

父「おい!何考えてんだよ!」

母「別に、いいじゃない!
  ずっと家を空けていたあなたが悪いのよ!」

ある日、俺が11歳だった頃
母の浮気がバレて、2人の喧嘩が始まった
俺は部屋のベッドの中で耳を塞いでるだけ
俺が中学に上がる頃、
両親が離婚して俺は父と2人暮らしを始めた

あの2人を見て育ったが故なのか、俺はかなりまともな中学生になった
喧嘩の声を聞きたくなくて勉強に集中して力を入れたことによって、中学の中ではトップの成績になった
生徒会長も務めたりしてた
先生からの信頼も厚かった



父はもちろん基本的に家に居なくて
俺は家事を全て1人でこなすようになった
そして、いつしか高校受験を迎えた
俺はダンスの有名な学校に進学したくて
休みの日に父に相談するとあっさり了承してくれた
学校が遠かったから、俺はその近くのマンションに引っ越すことになった
父の知り合いのお陰で3LDKの綺麗でいいマンションに安値で住めることになった
家賃は全て、父が払ってくれていた
それからすぐ、父も本社近くに引っ越した
その後はかなり充実した高校生活を送ろうとしていた
いや、送っていた
高校1年で生徒会副会長を務め
部活は全力を尽くした
勉強も頑張った

そんな時だった
父が交通事故で死んだ
親戚も居なくて、俺はたった1人の家族を失った事に涙を流しそうになった
流れなかったけどね

父の会社の人たちが葬式を開いたものの、俺は1人きりで話す人もおらず
そもそも俺の存在を知らなかった人がほとんどで
『𓏸𓏸さんって息子さん居たんですね!』とばかり
俺は誰にも甘えられず
たった1人の家族も失った

父の家を片付けている時、
1つの通帳と共に一通の手紙があった
そこに書いていたのは


──柾哉へ

俺は迷わず手紙を開いた



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柾哉へ

元気にしてるか?
この手紙を呼んでるってことは俺は死んだか?
死因は聞いただろう
俺は去年、病院で肺癌はいがんと診断された
ステージ4でもう長くは生きられないと
だから、俺が死んだ時の為に今こうして手紙にしている

まず、俺は柾哉に謝らなければならないことがある
今まで愛を注いでやれなくてすまなかった
でも愛してなかったわけじゃないんだ
本当に、愛していたんだ
ただ、自分に精一杯で柾哉にまで頭が行ってなくて
あんなことになってしまった
本当に済まない
一緒にある通帳は柾哉の為の金だ
好きに使うといい
マンションの家賃は5年分払っておいた
大家にも話は通してる
この前、ちらっと聞いた大学も近いみたいだったから
金は好きに使いなさい
今までの謝罪だ
いくらあっても足りないだろう
俺の遺産も、もちろん柾哉の物だ



柾哉はいつからか、心を隠すようになったよな
何かを隠すような、辛そうな
おれらのせいだろう?
本当にすまない
また、いつか
柾哉が心を許せる人が
心から笑って過ごせる相手が出来たら
俺に合わせに来てくれ
どれだけ遅くてもいい
10年でも20年でも待つ
いつでもいい
幸せになれ
俺が言ってはいけない事かもしれない
だけど、柾哉の幸せを、何よりも願っている
どんな形でもいい
柾哉なりの幸せを掴め
世界がなんと言おうと、俺は柾哉を肯定する



最後に、改めて
肺癌のことを黙っていて申し訳ない
ただ、楽しく生きて欲しかったんだ
今まで迷惑をかけて来た事、本当に申し訳なく思う
謝っても謝りきれないだろう
金では戻らないだろう
柾哉の過去を良いとは言えない物にしてしまった
これからその分、誰よりも幸せに生きてくれ
柾哉の幸せを願っている




                  父より

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「っ……」

「死因、癌じゃねぇよ……」


俺は1人、涙を流した
今まで堪えてきた涙を
流すことの出来なかった涙を
一晩中流し続けた

そして次の日、また学校へ向かった。

それからはまた同じような日常で
心の底から幸せを感じることは無かった
そんな時、迅に出会ったんだ






全てを話し終わったあと、迅の方を向くと
目に大量の涙を浮かべていた


「ごめん、こんなこと急に話して
 誰にも話したことなかったんだけど
 迅には話したかったから」

迅「んーん!ありがとう!話してくれて」

「俺こそ、聞いてくれてありがとう」

迅「柾哉くん、これからは僕が家族だから
  "たった1人の家族を失った"なんて言わないで
  もう、1人にはしないから」


「うん、ありがとう」


迅「じゃあ、そろそろ戻ろ?せっかく来たんだし!
  最後まで楽しもーよ!」

「だね!」


「ひろむー!りひとー!」

走って理人と大夢の元へ向かう


迅「次、いこ!」

理「うん!」



大「話せた?」

「お陰様で。ありがとう」

大「いえいえ」
その後もメリーゴーランドとか、なんか色々楽しん



時刻は19:30
空も藍色に染っている

理「ねぇねぇ、観覧車行かない?」

「観覧車?」

理人が俺だけに聞こえる声でそう言ってきた

理「大夢くんに、真剣に告白しようと思う
  ここで想いを伝えると実とか何とか」

「そっか…告白、か…」

理「柾哉くん、迅のこと好きでしょ?」

「え?」

理「見てたらわかる笑
  顔に恋してるって書いてるもん
  確信を得たのは迅が保健室に行った時だけど」

「結構前じゃん……」

理「あの焦り方はただの友達とかじゃなかったよね
  大切な何かを失いかけた反応だった」

「そっか…やっぱり、恋なんだ……」

理「うん、きっと…いや、絶対そうだよ」

「教えてくれてありがとう
 俺、頑張って迅を振り向かせるよ!」

理「うん!応援してる!」
 「ひろむくーん!」

大「ん?」

理「観覧車行こ?2人で」

大「うん!」

「俺らも、いこ?」

迅「うんっ!」

ひろむ(小声です)」

大「ん?

頑張ってね

大「うん、柾哉先輩こそ




2人が観覧車に乗り込んだ
次は俺の番
告白とかはまだしないけど
俺が伝えられる最前線の言葉を。

スタッフ「次の方どうぞー」

ガタッ

バタン

「迅」

迅「ん?なぁに?」

「今日は来てくれて、ありがとう」

迅「僕こそ、呼んでくれてありがとう」

「俺、迅と出会えてよかった」

迅「僕も、柾哉くんと会えてよかった」

「今度さ、2人で俺の父さんのとこいこ?」

迅「え?」

「いやだった?」

迅「いや、僕なんかと行っていいの?」

「"なんか"じゃなく、"だから"だよ
 理由は…さっきのはなしでわかるでしょ」

迅「うん!ありがとう」

「こちらこそ」

迅「うわ!綺麗!」

話し終わった時、丁度頂上に着いた
そこから見える景色は本当に綺麗

「迅」

迅「ん?」

「愛してる」

迅「っ……///」

「迅!」

迅を抱きしめたくて、両手を広げる

ぎゅっ

迅「んっ!」

「ふふっ、ありがとう
 終わるまで、このままで居ていい?」

迅「うん///」

「照れてる笑」

迅「照れてないし」

「ふーん?」

ぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ

照れたら照れただけ力を強める迅
可愛い

迅「終わったあと…手、ぎゅしちゃだめ?」

「もちろんいいよ」

迅「ほんと!?ありがとう!」

その後、2人で数十秒抱きしめたら地上に着いた

「いい思い出だね」

迅「うん、そうだね」

「あれ、洸人?」

手を繋いだ迅の方を見ると、その後ろに洸人の姿が見えた

洸「ま、柾哉じゃん!奇遇だな」

横には雄大

「雄大も一緒じゃん!」

雄「うぃっすー!」

「そこ、仲良かったんだね」

洸「いや、そこまでじゃ……」

雄「仲ええやろ」

洸「いや…」

雄「デートしてるんやしさ、な?」

洸「はっ?ちょっ…何言って…」

そういう事ね、理解したわ
慌ててるってことはまだ付き合っては無さそうだな

「なるほどぉ…いいじゃん!応援してるよー!」

こんな大スクープ逃せない
また今度聞かないと

洸「っ………」

雄「あ…ごめんなさい、ちょっと失礼します!」

急に俯いた洸人の腕を雄大が引いてそのまま立ち去った

なんかあったのかな?
照れちゃった?

理「柾哉くーん!迅ー!」

「理人!大夢!ごめん、ちょっと話してて」

大「全然大丈夫!そろそろ帰ろっか!」

「だね」


楽しかったなぁ…
明日部活あるから洸人から聞き出そう…

ついでに、俺の話もしないと




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詰め込みました
票差が微妙だったので一気に進展させて、
その後のんびりする思考です
だから今回で急激に進めました
ほぼ、ただのBLになるのでそれでもいい人は読んで欲しいです
またまた余談なんですけど
迅主役の長編ストーリーを書いてる方居てHappyHappyです
幸せです

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