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第1話

第1話 「保護という名の嘘」
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2026/01/15 10:24 更新
目を覚ましたとき、最初に感じたのは匂いだった。
薬品と、金属と、どこか冷たい空気の匂い。

白い天井。
規則正しく並ぶ照明。
私はベッドの上で、身動きひとつ取れずにいた。

ここはどこだろう。
そう考えようとした瞬間、視界の端に人影が入った。

白衣を着た男性が、静かにこちらを見下ろしている。
驚くほど整った顔立ちで、表情は穏やか。
なのに、その目は私を「人」ではなく、「状態」として見ているようだった。
ジャンハオ
ジャンハオ
……目、覚めたんだね
声は低く、落ち着いていて、感情の起伏がない。
私は喉の奥がひりつくのを感じながら、ゆっくり口を開いた。
あなた
……ここ、どこですか
男性は小さく頷き、タブレットに視線を落とす。
ジャンハオ
ジャンハオ
医療研究センターだよ。君は路上で倒れていた。保護されたんだ
保護。
その言葉が、妙に引っかかった。
あなた
……帰れますよね?
今度は、ほんの一瞬だけ沈黙が落ちた。
でもすぐに、柔らかい微笑みが戻る。
ジャンハオ
ジャンハオ
もちろん。体調が安定すれば
その“条件付き”の言い方に、胸の奥がざわつく。
あなた
あなたは……誰ですか
ジャンハオ
ジャンハオ
自己紹介がまだだったね
彼は初めて、私の目をまっすぐ見た。
ジャンハオ
ジャンハオ
ジャンハオ。君の担当医だ
担当医。
その響きに、少しだけ安心しそうになる自分が怖かった。
あなた
……検査とか、勝手にされてませんよね
ジャンハオは否定も肯定もせず、淡々と答える。
ジャンハオ
ジャンハオ
必要なことは、もう済んでる
心臓が、嫌な音を立てた。
あなた
必要って……何が?
彼は一歩、ベッドに近づく。
距離が詰まっただけなのに、空気が重くなる。
ジャンハオ
ジャンハオ
君はね、少し“特別”なんだ
その言い方は優しかった。
でも、逃げ道を塞ぐみたいに静かで、確定的だった。
ジャンハオ
ジャンハオ
だからしばらく、ここで過ごしてもらう
あなた
……それ、同意してないです
私がそう言うと、ジャンハオは困ったように微笑んだ。
ジャンハオ
ジャンハオ
同意は取るよ。でも――
彼は静かに続ける。
ジャンハオ
ジャンハオ
君が壊れないように、俺が管理する。それが一番安全だから
その瞬間、はっきり理解した。
私は“患者”としてここにいるんじゃない。

――もう、逃げる前提で扱われている。
あなた
……先生
私の声は、思っていたより震えていた。
あなた
どうして、私を逃がさないんですか
ジャンハオは少しだけ目を細め、やさしく答えた。
ジャンハオ
ジャンハオ
逃げたら、君はもっと傷つく
その言葉が、
優しさなのか、檻なのか、
まだ私には分からなかった。

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