目を覚ましたとき、最初に感じたのは匂いだった。
薬品と、金属と、どこか冷たい空気の匂い。
白い天井。
規則正しく並ぶ照明。
私はベッドの上で、身動きひとつ取れずにいた。
ここはどこだろう。
そう考えようとした瞬間、視界の端に人影が入った。
白衣を着た男性が、静かにこちらを見下ろしている。
驚くほど整った顔立ちで、表情は穏やか。
なのに、その目は私を「人」ではなく、「状態」として見ているようだった。
声は低く、落ち着いていて、感情の起伏がない。
私は喉の奥がひりつくのを感じながら、ゆっくり口を開いた。
男性は小さく頷き、タブレットに視線を落とす。
保護。
その言葉が、妙に引っかかった。
今度は、ほんの一瞬だけ沈黙が落ちた。
でもすぐに、柔らかい微笑みが戻る。
その“条件付き”の言い方に、胸の奥がざわつく。
彼は初めて、私の目をまっすぐ見た。
担当医。
その響きに、少しだけ安心しそうになる自分が怖かった。
ジャンハオは否定も肯定もせず、淡々と答える。
心臓が、嫌な音を立てた。
彼は一歩、ベッドに近づく。
距離が詰まっただけなのに、空気が重くなる。
その言い方は優しかった。
でも、逃げ道を塞ぐみたいに静かで、確定的だった。
私がそう言うと、ジャンハオは困ったように微笑んだ。
彼は静かに続ける。
その瞬間、はっきり理解した。
私は“患者”としてここにいるんじゃない。
――もう、逃げる前提で扱われている。
私の声は、思っていたより震えていた。
ジャンハオは少しだけ目を細め、やさしく答えた。
その言葉が、
優しさなのか、檻なのか、
まだ私には分からなかった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!