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第1話

1話
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2022/11/12 13:53
「猪原さん、205号室の金田登喜子さん、今から美容室にお連れして良いですか?」

ここ、桜井病院の院内美容師のあなたは病棟に内線した。

「あら、あなたちゃん、金田さん、今日はバイタルも安定してるから大丈夫よ!
カットと毛染めだっけ?車椅子に移乗してもらうね。お迎えお願いね。」
「わかりました。今からお迎えに行きますね。」

あなたは、店の戸締まりをして入院患者のもとへむかう。

階段を上がっていると、ここの病院長の桜井先生が降りてくる。

「お、あなた、今日は誰を綺麗にしてくれるのかな」
「桜井先生、今日は金田さんですよ。
先週、ペースメーカーの入れ替えの手術されたんですよね。白髪が、我慢できないって!」
あなたは、桜井の質問に答えながら、桜井自身の頭髪を見た。
「桜井先生もそろそろ切りましょうよ。
凄く伸びてる。
この病院には、今、桜井先生しかいないのはわかってるけど、伸びすぎですよ。お時間が空いた時に、来てくださいね!」
「そうだな、そうするよ。じゃあ、金田さんの事頼むな。綺麗にしてあげて。」



桜井先生と別れ、205号室のドアをノックした。
「金田さん、お迎えに来ましたよ!
美容室にいきましょうか!」
「あ、あなたちゃん、待ってたのよ~
さぁさ、行きましょ」
金田さんは、70代後半のかわいらしいおばあちゃん。
ペースメーカー入れ替えて、日が浅いため、今日は車椅子で、院内美容室に移動だ。

「あなたちゃん、今回もお願いね❗
病院は嫌だけど、美容室は最高ね。
嫌な気分が吹っ飛ぶわ❗桜井病院の名物だもんね。」

そう、ここ正式名称、桜井中央病院で、
私の父の代から、桜井院長に誘われ、病院内に美容室を開いている。
10年前に心筋梗塞で亡くなった、父の代わりに
店を引き継いだ。
私には、6才と4才の娘がいて、桜井病院で、脳外科医として働いていた夫は、2年前に36才の若さですい臓がんになり、闘病半年で逝ってしまった。
桜井院長は、シングルマザーになった私を、少しでも子育てしやすいように、美容室を病院の施設にしてくれ、
私も桜井病院の職員として院内美容師を続けることになった。
 「あのね、今回のペースメーカーの入れ替え、朝田先生だったのよ。
あなたちゃん、朝田先生知ってる?」
カットを終え、毛染めを塗っていると金田さんが目をキラキラして聞いてくる。

朝田先生…戻って来たんだ。

「朝田先生、お戻りになられたんですね。
父を看てもらってたんで、知ってますよ。
主人とも同僚でしたし。専門分野はちがいましたが、仲良かったみたいです。
ただ、まだ今はお会いしてませんが。」

朝田先生といえば、桜井院長の弟子で、マジ天才という方。
なんか、大病院から追い出されて桜井院長が
凄い技術、患者さんに対する接し方を叩き込んだと亡き夫から聞いた。



「いかがでしょうか?金田さん?」
あなたは鏡を合わせた。
「まぁ!いつも通りバッチリよ!
これで、夜の朝田先生の回診で自慢できるわ!
ありがとうねぇ!」
金田さんは、満面の笑みを浮かべて財布を取り出した。

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