第12話

深紅の反撃
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2026/02/02 22:28 更新
講堂の扉の前に立つ


中からは、何百人という生徒たちのざわめきが漏れ聞こえてくる。今日は全校生徒が見守る中での「公開裁判」という名の、私を吊し上げるためのショー


つむぎ:……ふぅ。……ねえ、九条くん。私の顔、引きつってない?


聖:完璧ですよ、お嬢様。……むしろ、その少し不機嫌そうな表情が、高潔な怒りに見えて実に美しい


九条くんが私の深紅のドレスの裾を整え、スッと扉に手をかけた


聖:さあ、行きましょう。……あなたの背中は、私が守ります


重厚な扉が開く。 一瞬で静まり返る講堂。数百の視線が、私と、私の隣で堂々と歩く九条くんに注がれる


壇上の中心には、生徒会長の神楽坂帝。そしてその横で、頭に包帯(?)を巻いて大げさに泣き真似をしている西園寺麗奈の姿があった


神楽坂:……花咲つむぎ。および、執事・九条聖。前へ


つむぎ:…………


壇上に上がると、西園寺麗奈が勝ち誇ったような顔で私を睨みつけた


西園寺:会長! 見てください、この厚顔無恥な姿を! 私に熱いお茶を浴びせておきながら、反省の色すら見せないなんて! 退学ですわ! 今すぐこの野蛮人を、ゴミ箱へ捨ててちょうだい!


神楽坂:……九条。君の主が、西園寺に暴行を働いたという事実に相違はないか?


聖:暴行、という言葉は語弊がありますね。……お嬢様はただ、西園寺様が『滑らせた』アイスティーを、ご丁寧にお返ししただけですので


西園寺:なんですって……!?


神楽坂:……黙れ。花咲つむぎ、君の口から聞きこう。なぜ、あのような真似をした


つむぎ:…………


私は、九条くんの方を一度だけ見た。 彼は優雅に一歩下がり、私に「どうぞ」と促すように微笑んだ


よし。覚悟は決まった


つむぎ:……あのさ。お嬢様言葉とか、ランクとか、正直よく分かんないんだけど


私は、壇上のマイクを掴むと、会場全体を見渡した


つむぎ:西園寺さん。あんた、さっきから『野蛮人』とか『ゴミ箱』とか言ってるけど。……うちのパパとママが聞いたら、一秒でその自慢の巻き髪、角刈りにしてくれると思うよ?


会場が、ヒッ……と息を呑む


つむぎ:うちの家訓はね、『売られた喧嘩は倍返し』。……あんたが先に、私の頭から紅茶をぶっかけた。私はそれを、そのままあんたに返した。……これのどこに、悪いことがあるわけ?


西園寺:な、ななな……なんて下品な言い草! 会長、聞きました!?


つむぎ:下品で結構! 私はうどん屋の娘だよ! 汗水垂らして小麦粉まみれになって、毎日必死に生きてんの!


つむぎ:あんたたちみたいに、綺麗な部屋で高いお茶飲んで、人をバカにすることしかできない連中に、私の誇りを笑われる筋合いはないんだわ!


私は一歩、西園寺麗奈に詰め寄った


つむぎ:……次はポットじゃないよ。……本気で怒らせたら、あんたの家の門、デコトラで突っ込んでやるからね。……分かった!?


西園寺:ヒ、ヒィッ……!


西園寺麗奈が、恐怖で腰を抜かして座り込んだ。 講堂は、静寂を通り越して、もはや真空状態


聖:……お見事です、お嬢様


九条くんが私の隣に並び、会場の全員に聞こえるような通る声で告げた


聖:……彼女こそが、このリュミエールの停滞した空気を打ち破る『主』です。……不満がある方は、どうぞ。私がいつでも、お相手いたしましょう


聖の瞳が、黄金色に鋭く光る。 その圧倒的な威圧感に、生徒会役員たちさえも言葉を失った


神楽坂:…………ふっ。面白い


生徒会長が、小さく、けれど確かに笑った


神楽坂:……今回の件は不問とする。西園寺、君も少しやりすぎたようだな。……花咲つむぎ、君の『ヤンキー魂』とやら、少し興味が湧いた。……また会おう


つむぎ:……え? お、終わり? セーフ?


私は九条くんの顔を見た


聖:ええ。大勝利ですよ、お嬢様。……さあ、帰りましょう。……今日は特別に、お嬢様の好きな『マシュマロ五つ入り』のココアを淹れて差し上げますから


つむぎ:……やったー!!


私は九条くんの腕に抱きついて、飛び跳ねた。 背後で西園寺麗奈が「キーッ!」と叫んでいる声さえ、今は最高のBGMに聞こえた

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