講堂の扉の前に立つ
中からは、何百人という生徒たちのざわめきが漏れ聞こえてくる。今日は全校生徒が見守る中での「公開裁判」という名の、私を吊し上げるためのショー
つむぎ:……ふぅ。……ねえ、九条くん。私の顔、引きつってない?
聖:完璧ですよ、お嬢様。……むしろ、その少し不機嫌そうな表情が、高潔な怒りに見えて実に美しい
九条くんが私の深紅のドレスの裾を整え、スッと扉に手をかけた
聖:さあ、行きましょう。……あなたの背中は、私が守ります
重厚な扉が開く。 一瞬で静まり返る講堂。数百の視線が、私と、私の隣で堂々と歩く九条くんに注がれる
壇上の中心には、生徒会長の神楽坂帝。そしてその横で、頭に包帯(?)を巻いて大げさに泣き真似をしている西園寺麗奈の姿があった
神楽坂:……花咲つむぎ。および、執事・九条聖。前へ
つむぎ:…………
壇上に上がると、西園寺麗奈が勝ち誇ったような顔で私を睨みつけた
西園寺:会長! 見てください、この厚顔無恥な姿を! 私に熱いお茶を浴びせておきながら、反省の色すら見せないなんて! 退学ですわ! 今すぐこの野蛮人を、ゴミ箱へ捨ててちょうだい!
神楽坂:……九条。君の主が、西園寺に暴行を働いたという事実に相違はないか?
聖:暴行、という言葉は語弊がありますね。……お嬢様はただ、西園寺様が『滑らせた』アイスティーを、ご丁寧にお返ししただけですので
西園寺:なんですって……!?
神楽坂:……黙れ。花咲つむぎ、君の口から聞きこう。なぜ、あのような真似をした
つむぎ:…………
私は、九条くんの方を一度だけ見た。 彼は優雅に一歩下がり、私に「どうぞ」と促すように微笑んだ
よし。覚悟は決まった
つむぎ:……あのさ。お嬢様言葉とか、ランクとか、正直よく分かんないんだけど
私は、壇上のマイクを掴むと、会場全体を見渡した
つむぎ:西園寺さん。あんた、さっきから『野蛮人』とか『ゴミ箱』とか言ってるけど。……うちのパパとママが聞いたら、一秒でその自慢の巻き髪、角刈りにしてくれると思うよ?
会場が、ヒッ……と息を呑む
つむぎ:うちの家訓はね、『売られた喧嘩は倍返し』。……あんたが先に、私の頭から紅茶をぶっかけた。私はそれを、そのままあんたに返した。……これのどこに、悪いことがあるわけ?
西園寺:な、ななな……なんて下品な言い草! 会長、聞きました!?
つむぎ:下品で結構! 私はうどん屋の娘だよ! 汗水垂らして小麦粉まみれになって、毎日必死に生きてんの!
つむぎ:あんたたちみたいに、綺麗な部屋で高いお茶飲んで、人をバカにすることしかできない連中に、私の誇りを笑われる筋合いはないんだわ!
私は一歩、西園寺麗奈に詰め寄った
つむぎ:……次はポットじゃないよ。……本気で怒らせたら、あんたの家の門、デコトラで突っ込んでやるからね。……分かった!?
西園寺:ヒ、ヒィッ……!
西園寺麗奈が、恐怖で腰を抜かして座り込んだ。 講堂は、静寂を通り越して、もはや真空状態
聖:……お見事です、お嬢様
九条くんが私の隣に並び、会場の全員に聞こえるような通る声で告げた
聖:……彼女こそが、このリュミエールの停滞した空気を打ち破る『主』です。……不満がある方は、どうぞ。私がいつでも、お相手いたしましょう
聖の瞳が、黄金色に鋭く光る。 その圧倒的な威圧感に、生徒会役員たちさえも言葉を失った
神楽坂:…………ふっ。面白い
生徒会長が、小さく、けれど確かに笑った
神楽坂:……今回の件は不問とする。西園寺、君も少しやりすぎたようだな。……花咲つむぎ、君の『ヤンキー魂』とやら、少し興味が湧いた。……また会おう
つむぎ:……え? お、終わり? セーフ?
私は九条くんの顔を見た
聖:ええ。大勝利ですよ、お嬢様。……さあ、帰りましょう。……今日は特別に、お嬢様の好きな『マシュマロ五つ入り』のココアを淹れて差し上げますから
つむぎ:……やったー!!
私は九条くんの腕に抱きついて、飛び跳ねた。 背後で西園寺麗奈が「キーッ!」と叫んでいる声さえ、今は最高のBGMに聞こえた












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。