次の日も、あの男は店にやってきた。
セーターにジーンズ、耳元に光るキラキラしたピアスが印象的だった。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「花束、やっぱりだめでしたか?」
「いやそうじゃなくて、」
男は手に持った紙袋を遼の前に差し出した。昨日俺が変な事したからそのお詫びに、と。そういえば指を舐められたな、と思い出す。
「わざわざいいのに…、なんかすみません」
「何で謝るんですか、俺が悪いのに」
「そんな気にしなくても大丈夫ですよ、言われなかったらもう忘れてましたよ」
「傷、大丈夫ですか?」
薔薇で軽くできた傷なんて直ぐに治るのに。現に今日はもう絆創膏も何もしていないのだから。相変わらず心配性で変な人だな、と思う。
「これ、美味しいお菓子なんで食べてください」
半ば押し付けるようにして渡され、受け取った紙袋。思ったよりも重くて、申し訳ない気持ちが膨らむ。
「いや、悪いですよ」
「受け取ってください」
「んー……じゃあ花一輪なんか選んでください」
大きな目をぱちくりさせている顔が少し可愛らしくて吹き出してしまう。何で笑うんですか、と不審がる様子も相まって余計に笑ってしまった。
「僕がこれ受け取るんで、なんか花一輪僕からプレゼントします、交換です」
「…じゃあお兄さんが選んでください」
「え?」
「俺に似合うの選んでください」
そう言われて、店を見渡す。やっぱり一輪で映えるのは華やかな大きめの花。イメージは白かピンクだと直感で思った。白の薔薇を手に取りそうになったが、何となく淡いピンクの方にした。
花言葉が一瞬よぎったが、一輪の時点でちょっと告白っぽい感じだし。普通の男は花言葉なんて知らないだろうし。
選んだ淡いピンク色の薔薇を簡易に包み、手渡した。
「これ、」
「薔薇です」
「なんでこの色…、なんですか?」
「何となく、直感ですね」
驚いたような表情をして、遼の言葉を聞いてガーベラの花のようにふわりと笑った。まるで宝物を見つけたかのように大切そうにして。一輪の花は遼の手から男の手の中に渡った。わずかに触れた指先は冷たく遼には心地よく感じた。
夜、家に帰ってから男がくれたお菓子を食べた。初めて食べるのに、どこか懐かしい味がする遼好みのものだった。どこのお菓子かな、どこに売ってるんだろ、と検索する程に気に入って。お菓子を口にしながらあの男の笑顔が浮かび、少し笑みが溢れた。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。