1時間目と2時間目が過ぎた頃、あたしの席までやってきたのは百合花。
百合花の心配そうな表情をみてハッとした。今日一日ずっとぼーっとしてる。
あたしはあははって笑ったけど、自分でも分かるくらいカラ元気だ。
上手く立ち回れない自分が嘆かわしい……。
ぎくり。
笑っていた顔が思わず引きつった。
そう、言葉通り“何もない”。
ケンカとかもないし、キスだってまだだ。
珍しく百合花がしまったって顔であたしから目を逸らした。
百合花もあたしとさほど変わらない。反応がとても素直だ。
今だってびっくりした表情で、ひたすら明後日の方角に目を向けている。
それならあり得る。そう考えるとムカついてきた。
昨日の事いい、陽太のくせに。
突然ガバッと前のめりでそんな事を言われたもんだから、あたしは思わず後ずさった。
百合花にパクリと食べられる想像をしながら。
なにが心配なの? 陽太は一体なにを百合花に吹き込んだの?
気まずそうな表情で、とても言いにくそうにする百合花。
あたしはそんな彼女が口を開くのをもどかしく思いながらも待った。
意を決した様子で百合花は立ち上がって教室を後にした。
なに言われるんだろう……そんな心配をしつつ、あたしは百合花の後を追った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。