※「」で心の声を表してます
ひらがなの部分が手話です
夜。
部屋の灯りを落として、布団に入っても、眠れなかった。
天井を見つめたまま、考えなくていいことを考えてしまう。
——もし。
——もし、言ったら。
「少し、声が出た」
その一言を、誰かに伝える場面を、頭の中で再生する。
喜ぶ顔。
安心する声。
「よかったね」という言葉。
……想像できる。
でも、その次が怖い。
——じゃあ、次は?
——今日は? 明日は?
期待が、静かに、でも確実に増えていく映像。
喉が、きゅっと縮む。
——まだ整ってない。
——まだ、不安定。
なのに、「出た」という事実だけが、一人歩きしていく未来。
布団の中で、無意識に喉を押さえる。
——言わなきゃ、楽。
——でも、ずっと隠すの?
心臓が、少し早くなる。
——言った瞬間、
——この静けさ、壊れる?
その考えが、一番、怖かった。
廊下で、足音。
光の気配。
ドアの前で、止まる。
ノックは、ない。
代わりに、ドア越しに、低い声。
返事は、出せない。
でも、少し間を置いてから、光が言う。
——見えてた。
足音が、遠ざかる。
私は、胸に手を当てて、深く息を吸った。
——言うかもしれない未来。
——言わないままの未来。
どっちも、まだ、選ばなくていい。
今日は、“考えちゃっただけ”。
それだけで、十分だった。
声は、未来の話をするには、まだ、早かった。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!