あなたの下の名前の彼氏であるぺんとくんは、今非常に頭を抱えていた。
あなたの下の名前が出かけていて家にいないため、何か考え事でも……
とたぬき的なことを思ってみたが俺には向いていないので、お出かけのことを考えている。
最近は割と2人家で過ごすことが多いから、出かけられていない。
彼女も俺も行動派なのだが、行くところがなくて困っていた。
あなたの下の名前は計画を立てるのが苦手……
ならば代わりに俺がサプライズで立ててやろう‼︎
我ながら天才である。
……と、思ったのだが。
俺が彼女を喜ばせるような計画を立てられるのだろうか。
うぅ……えんちょう程立てない人間ではないが、計画を立てるのはそこそこ苦手だった。
ってことで、計画的過ぎるあの男に相談しようと思う。
電話をかけてみた。
携帯の向こうからは、弱々しい声が聞こえた。
いつもなら元気なあいつがこんな感じってことは……こやつ、寝起きだな。
じゃあ絶対口悪いし機嫌悪い素たぬきじゃんか‼︎運悪ッ⁉︎
心の中でため息を吐きつつも、こいつ以外に相談相手はいない。
ピンクタイツマンにかけたところでなんの収穫もなく終わるだろう。
……はぁ、仕方ない。
相談しよう。
……まぁそんなことを言われるだろうとは思っていた。
だが、ここでひいてはダメだ。何としてでも楽しませなきゃ……。
ってかこいつえんちょのことディスってたよ。若干やってました。
認識一緒なんすね。
本当に……口が悪い男……。
眠かったりするとこんなんだから、困った男だ。
俺はベッドの上にちょこんと腰をかけ、背を壁に預けた。
たぬきには聞こえないように小さく息を吐き、何を言おうかと考える。
俺が何を言おうか考えている間に、たぬきが口を開いた。
……流石計画的人間、質問がいい感じ。
今度は質問に対して考えを巡らす。
うーん……別に俺はどっちでもいいが、あなたの下の名前に聞いても同じ回答が返ってくるだろう。
だが多分…旅行系、だよな。
柔軟な対応……!
凄い、凄いぞ計画的人間っ‼︎
めんどくさそうにしながらもきちんと乗ってくれるたぬき。
内面は優しいやつだ。なんだかんだで良いやつ。
明日行くとしても明後日予定はないし、あなたの下の名前も予定ないはず。
基本的にあなたの下の名前のスケジュールは全部把握しているので、埋まっていることはないだろう。
把握してるって言っても……全部吐き出させてるんだけどね。
そんな感じで会話は進み、次第にあいつの機嫌も良くなってきた。
目が覚めたのだろう。
受話器に向かって発狂した甲斐があったぜ☆
行き先は決まったので観光するところを決め、しっかりとメモ。
あなたの下の名前は今日夜遅くに帰ってくる予定なので、俺はテーブルに「おやすみ」と書いたメモを残し、
布団に入った。
喜んでくれるかな……!
とウキウキした気分でいたらなんだか叩き起こしてしまった。
カーテンを思いっきり開け、あなたの下の名前の体を軽く揺さぶる。
眠そうに目を擦りながら上目遣い気味に俺を見上げるあなたの下の名前に、心臓が跳ねた。
それがバレないように平常を取り繕い、今日のことを伝えることにする。
あなたの下の名前は返事とは裏腹に、目を輝かせた。
もうちょいリアクションが欲しかったが……まぁ寝起きだ。仕方ない。
俺はあなたの下の名前の更なる反応を待つ。
……あれ?
3秒ほどの沈黙が流れる。
ど……どうしたのかな……嫌、だったのかな……。
あなたの下の名前は勢い良くベッドを飛び起き、トイレへ走っていってしまった。
お腹が痛かったのだろうか。俺は困惑しつつもあなたの下の名前の帰りを待つ。
2分が経った。
水が流れる音と共に、ドアが開く音がする。
廊下をゆっくり歩いてきたあなたの下の名前の顔は、笑顔だったが…。
隠しきれていない、何かがあった。
本当に、どうしちゃったんだろう。
俺、そんな迷惑かけちゃった……?
心配で、罪悪感で、涙が出そうになる。
昨日たぬきにも手伝ってもらった計画が、今崩壊しかけているのだ。
………。
気持ちの整理がつかない。
俺は毛布らを畳むことにした。
あなたの下の名前の毛布を持ち上げ、角と角で合わせる。
…………すると。
シーツには、小さな赤いシミがあった。
赤い……赤い………赤い……血……血……?
大変だ。
……え、大変過ぎる。
あなたの下の名前は自室で準備をしているので、失礼だが部屋に飛び込む。
若干引いたような顔をされたが、別に構わない。
今、全部理解した。
あなたの下の名前……どうやら、生理だったらしい。
俺………俺………ッ!
相手が辛いと分かりつつ叩き起こし、大騒ぎをし、旅行を提案し……。
最低だ。
失格すぎる。本当に申し訳ない。
前に、調べたことがあった。
あなたの下の名前にも辛い時期があるんだなぁ、と思って色々と買っておいたものもある。
今日は2人でゆっくりしよう。
たまにはこういうベッドの上生活もイチャイチャできるかもしれない。
あなたの下の名前を適当にお姫様抱っこし、ベッドに持っていく。
ポスっと壁側に置いてやり、布団をかけてやった。
いつもは俺が寝ているシングルベッドだから俺の匂いかつ狭いのだが……。
ちょっと俺が近くで寝たいだけだ。これは許して欲しい。
そう小声でかけてやると、あなたの下の名前の頬は紅潮していった。
暖かかったのかな、なんて思う。
要望通りに抱きついてやる。
身長差は結構あるので、あなたの下の名前の顔は俺の胸あたりに埋められた。
かすかに動くあなたの下の名前の体。
胸に感じるあなたの下の名前の暖かい息。
………可愛い。こいつ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!