鏡の前で身支度をする主様。
見知らぬ香りを纏った彼女は
いつしか私の知らない人のようだった。
「 ぱぁっ 」と効果音の聞こえるような
可愛らしい笑顔。
嗚呼、その笑顔を私だけに…
そう考え思考を止めた。
指輪を外し主様は
元の世界へ戻って行った。
部屋には香水の残り香。
主様が私に振り向くことは無い。
それは自分がよく分かっている。
それでも…考えずにはいられなかった。
その独り言は空へ消えていった。
そっと香水を手に取り、
シュッとワンプッシュ。
彼女と同じ香りを纏い、
私は部屋を後にした。
職場の憧れの先輩。
初めて2人で出掛ける。
当初はワクワクで
香水も服もこのために新調した。
楽しみにしていた
はずだったのに
先輩との会話は頭に入らず
思い出すのは担当執事の彼の事。
いつも紅茶の香りがする彼。
外に出ると何故か
紅茶の香りが恋しくなる。
先輩はとても優しかった。
でも、でも……
私は首に下げた
パレスへの入口をキュッと握った。
先輩に頭を下げ
小走りで家帰った。
そしてすぐに指輪をはめた。
帰った時の彼は
紅茶の香りでは無く、
私と同じ香水の香りがした。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。