早速部屋に通して貰うと、繁忙期によく見る光景が広がっていた。
部屋一面を埋め尽くすように広がる資料や本の数々。
エナドリの缶も転がっているのを見る限り、どうやら本当に緊迫しているらしい。
今日来ておいてよかったかも……
研究成果の資料ををパラパラと捲る。あくまでまだ発表前で、どれも見たことがないものばかりだ。
下手をすれば悪用される危険もある物をこうして任せてくれるのは、一種の信頼のようで誇らしい。
頼まれた資料を丁寧に書き写していく。その傍ら、晴さんは別のものを片付けていく。
普段祓魔師として魔を倒すことしかしていないから、別の職業を手伝えるのは新鮮な気分だ。
2時間ほど経ち、ある程度の資料は片付いた。
軽く伸びをし、晴さんに視線を向けると、ぐだっと机に突っ伏していた。
限界が来たのか、意識を失い、再び机に倒れそうになるところを慌てて支える。
本当に油断も隙もない……こういうところが怖いんだよな。
晴さんを寝室まで運ぶために持ち上げようとすると、軽々持ち上がり一種の恐怖を覚える。
いくら私の力が強いとはいえ流石に軽すぎる。
これは今度景と藤士郎君を呼んで説教かな……
無事に寝室に運び終え、頼まれた資料を確認する。
どうやら持って行く先は私の用があったところらしい。
記入漏れや持ち忘れがないことを確認し、静かに晴さんの家を出た。
研究者棟の端、とある一室に入ったあと、用があった人物を呼ぶと、すぐに部屋の奥から出てきた。
薄紫の長い髪をゆるく縛り、整った美しい顔を持ち、綺麗に手入れされた和服に身を包んでいる。
この人物こそ、私が用があった研究者、綾瀬煌だ。
煌は私専属の研究者で、頼んだことを調べてくれている。
晴さんともかなりの顔見知りらしく、こうして資料を送り合うこともよくあるらしい。
煌が部屋から出ていく。この部屋じゃない資料室へと向かったらしい。
部屋中にある資料。私はそのうちの一つが保管されている場所まで歩いた。
以前見つけた、煌が書いた“私についての”資料。
ケースに入れられた資料の束を一つ取り出す。以前見た時とほぼ同じ状態で保管されている。
前に見た時は全て普通に記入されていたが、何箇所か墨か何かで塗りつぶされたような跡がある。
前に私が勝手に見たこと。
完全に戻したと思ったんだけど……やっぱり聡い。
だからこそ専属研究者として引き抜いたんだけど。
煌は優秀で上層部からもかなり重宝されていたから、私の方へと移ることになった時にかなり揉めたらしい。
本人が詳細を話してくれないから具体的に何があったのかは知らないけど。
揉めた一因に引き抜いたのが私っていうのもあったんだろうな。
だからこれが存在している。
大方私の動向を探らせるために煌にこれを書かせたんだろう。
けど、それがここにあるってことは、煌はこれを上に提出していない。
それに、最後の項目……今はほぼ塗りつぶされているが、これは私の一番の秘密であり重要事項だ。
これが記入されてるのは、上に渡す資料ならありえない。
多分、煌が個人的に私のことを観察しているのだろう。
その理由は煌しか知らないけど。
煌が戻ってくる前に、資料を戻しておく。まぁバレたらその時だ。
……まずいな。神呪家の気配が漏れているのか。
今までそんなことは無かった。あの封じられた場所さえ、何の観測もされていないというのに。
神呪家。神呪留希。
───私が隠したいことが世に出てしまうのも、時間の問題かもしれない。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。