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第36話

#閉じ込めていた言葉
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2025/08/17 13:34 更新
杠葉美散
さて……何から話そうかな
杠葉美散
残念ながら僕が話せる時間も少なくてね。無駄話をしている余裕はないんだ
杠葉美散
だから、長尾くん。君は僕に何が聞きたい?
長尾景
……っ
長尾景
(何を問うべきなんだ……?)
美散のことを呪っている目の前の人物に。俺が。

何を聞いても、理解できない気がした。いや、理解を拒む気がした。

美散を乗っ取って何かを伝えようとしている奴に、俺は何を聞いたら納得できる?
長尾景
……一つ、これだけは聞きたい
長尾景
お前にとっての、美散は……なんだ
杠葉美散
僕にとっての美散、か……
杠葉美散
そうだな……僕の全てをかけて守りたい、そして、謝りたい人だよ
長尾景
……謝りたい?
杠葉美散
呪ってしまったことを。制限をかけてしまったことを。何より……様々なものを、美散から奪ってしまったことを
長尾景
恨んでるわけじゃないのか?呪いは自分の意志でかけるものだろ
杠葉美散
僕が美散を恨んだことなんて一度もないよ。むしろ感謝しなければいけない存在なのに
長尾景
……自分の意志で呪ったわけじゃないって言いたいのか……?
杠葉美散
誰かを呪いたくて呪いを発動させたのは紛れもない事実で、僕の罪だ。けど、その呪いたかった相手は美散じゃない
杠葉美散
呪いたかった相手が身代わりに押し付けることで、僕の呪いを弾いたから……
長尾景
その身代わりが、美散だったってことか……
長尾景
さっき、名乗れないことが制約だって言ったな。それはその呪いによる制約なのか?
杠葉美散
その通りだよ。他にも色々あるけど……僕自身にかかってる制約だから、美散と君達にはあまり関係がないと思ってもらっていい
杠葉美散
それよりも、君はもっと聞くべきことがあるはずでしょ?
長尾景
(……そうだ)
長尾景
(俺が一番聞かなければいけないもの……)
“美散にかけられた呪いの詳細”

それが、最も聞くべきことなはずだ。けれど、どうしても口が動かない。

こんなに呪いを発動した者が意思を持ち、相手の体を侵食するレベルの呪いに、今まで出会ったことがない。

それほどまでに、大きな、強大な呪い。

呪いの代償はかなり……いや、命を奪うレベルに大きいはずだ。


……これは俺の恐れだ。

美散がずっと、自分の事情を隠しているのは知っていた。それが、美散の人生に関わることだということも。

でも、この十数年、ずっと放っておいた。

美散がいなくなるという事実から、目を背けたかったから。

だから、美散が呪われていたという事実にさえ、今まで気づけなかった。

とはいえ、ここまで強大な呪いに今まで気づけなかったことも疑問だ。

美散とコイツが、隠すのが異様に上手かったとしか考えられないが……

だからこそ、今聞くしかない。

聞かなければ、何の対策もできない。何もできないまま、美散は俺達の目の前から去ってしまう。

だから、言わなければ。聞かなければ。

呪いの代償を!
長尾景
……美散にかけた、呪いの代償は……なんだ……?
杠葉美散
……それは……
杠葉美散
【寿命】、そして……【身体】
杠葉美散
言うなれば、【呪った者の人生】
長尾景
……っ!!!
杠葉美散
美散の体が、11歳で成長が止まったことは知ってるよね?
長尾景
……あぁ……
杠葉美散
それが……11歳が、美散の本来の寿命……僕に呪われた状態で、生きられる年齢だった
長尾景
……!?
長尾景
でも、今美散は24歳で……
杠葉美散
美散は、異様な生命力を持って生まれてきたんだ。生き延びることに特化した特殊な体質を持って
杠葉美散
だから、本来は僕に蝕まれているはずだったけど、美散は僕と“融合”した。正確には、僕を体の内側に閉じ込めることで、自分の生命力と僕の呪いを反発させて中和した……ってところかな
長尾景
それが、配信で言ってた自分が『杠葉美散』である理由ってことか……?
杠葉美散
その通りだよ
杠葉美散
けど、本来の寿命からもう13年も経ってる。いくら美散が強い生命力を持ってたって、そろそろ終わりが来てもおかしくはない
長尾景
は……
杠葉美散
現に、予兆は出てる。僕がこうして表に出てくることだって、今まではできなかった
杠葉美散
美散の体も、もう限界なんだ。今も、じわじわと呪いが体を蝕んでる
杠葉美散
だから、僕は君に会いたかったんだよ
長尾景
……俺に、お前を祓えって……?
杠葉美散
流石だね。話が早くて助かるよ
そう言って微笑む目の前の呪いは、普段の美散と同じ笑い方をした。

何かを悲しむようで、それでいて儚い。そんな笑顔。

それに、いくつか引っかかることがある。
長尾景
祓うっつっても、呪いは魔とは違う。祓魔じゃなくて解呪が必要なものだ。魔を祓うよりも相当めんどくさい
長尾景
俺が呪術を扱えても、今までずっと体に染み付いてきた呪いを解呪するのは、専門職じゃない俺には不可能だ
長尾景
あと……お前がいることで、美散に恩恵もあるんじゃねぇの?
杠葉美散
……それは?
長尾景
美散が奥の手として使う、能力の解放。あれは美散だけの力で、おいそれと使えるようなもんじゃない
長尾景
お前の呪いも力にして爆発的な力を生んでる。違うか?
長尾景
それに、さっきから喋ってて、お前はずっと美散に謝りたい、守りたいって言ってただろ。その言葉の重みは尋常じゃなかったし
長尾景
呪っちまった事実はあれど、誰よりも……悔しいけど、多分俺よりも美散のことを思ってるようなやつを消す気にはなれない
杠葉美散
……そっか
杠葉美散
多分僕が誰にも祓えないってことは薄々気づいてたんだけどね
杠葉美散
今、一番呪いたいのは自分自身なのに。この呪いはどんどん美散を蝕んでいく
杠葉美散
だから……僕にできることは何もないんだけど
杠葉美散
いつか来るその日まで、なるべく美散のそばに居てあげてほしい
杠葉美散
それで、何か解決策があるか、限界まで考えてほしいんだ
杠葉美散
……多分、美散は自分が生きることを、もうほとんど諦めてしまっていると思うから
長尾景
……っ!!
ハロウィンのとき、こいつと美散がしていた会話。

それは、美散に「生きていてほしい」と願っていたものだったはず。

途中で美散に遮られてしまったけど、俺ら三人にお願いしようとしていたことは、さっき俺に告げた内容に他ならないだろう。

けれど、美散は多分、最後までこいつといることを望んでいる。

それはつまり、呪いに蝕まれて終わる───死ぬことと同義だ。
長尾景
(けど、それでも───)
長尾景
……俺だって、美散に生きていてほしいことに変わりはない。それは絶対だ
長尾景
だから……100%は保証しない。だが、美散が生きるために、俺達ができる限りの最善を尽くすことを誓う
杠葉美散
……ありがとう
杠葉美散
もう……時間がないみたいだ。これ以上は美散に影響が出る。今日は話してくれてありがとう
杠葉美散
消える前に……最後に一つだけ聞いてもいい?
長尾景
……あぁ
杠葉美散
君は……長尾くんは、美散のことをどう思ってる?
長尾景
……誰よりも命を預けられる、最高の相棒だ
杠葉美散
本当にそれだけ?
長尾景
……これ、美散には聞こえてんのか?
杠葉美散
いや、僕が出ている時は美散には聞こえてないはずだよ。ハロウィンの時は僕の力はここまで強くなかったし、そもそも美散は今戦闘疲れで眠っているから
長尾景
……大切な……好きな人、だ
長尾景
くそ……はず……
杠葉美散
……うん。最後にそれが聞けてよかった
杠葉美散
……もう本当に時間みたい
杠葉美散
じゃあ……美散のこと、よろしくね
長尾景
あぁ……
その言葉を最後に、美散はその場に倒れた。

慌てて近寄ると、規則正しい呼吸音が聞こえ、胸をなで下ろす。

さっきあいつが言っていたように、眠っているだけらしい。

とはいえ……
長尾景
(……2人に、なんて言えばいいんだよ)
美散のことを。

これで今回の任務は終わりだ。元凶は美散が討伐し、それ以外の魔の被害ももう大丈夫だろう。

本来ならば、これで一息つけるはずなのに。


───よりにもよって、一番厄介な問題が残ってしまった。

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