ああ、えっと、これは他所様の話でさ。
ほら、茜って言ったでしょ。私の親友の。
えーっと、茜に好きな人がいるのは知ってる?
でさ、
その好きな人が私の隣に居るってことは言った?
今日はどうしてもいつもの運転手さんが来れないらしくて、重い足を動かして電車に乗ってきたというのに。
隣の席には綺麗に手入れされた髪をなびかせて私に話しかけてくる親友の幼なじみがいる。
水のように透き通った肌に吸い込まれるようなアクアマリン色の瞳。女性のような顔にしては大きく骨ばった手。
…今得られる情報はこんなものだろうか。
適当に茜アンタのこと大好きだよー的なこと交えてみる。するとみるみるうちに顔をゆでダコのように真っ赤にさせていった。
…彼も茜に似て少しツンデレ気質があるみたい。
耳まで真っ赤に染めた様子は、なんだか可愛らしく見えてきて、ふふと笑ってしまった。
少し可哀想になったので話題を変える。
するとその流れに乗ったのか
と質問を投げかけた。
執事、なんて言ってもいいけど、なんだかそういう気分じゃなくて。
彼のことを手に入れてから、色んな人に自慢したいっていう、我なりのこだわりで。
他の人と話しているはずなのに頭の中はずっと貴方のことでうんざりしてしまうわ。
そんなたわいない話をしていたら、いつのまにか学校の最寄りに着いていた。
ドアがサッと空いて、ホームから朝日が差し込む。
そう言って彼がサッと席を立つ。
席を立った彼の身長は私よりもはるかに高くて、思わず目をぱちくりと瞬きしてしまう。
ふわり石鹸の香りがして、伊澄とは違う匂いだ。やっぱりみんな違うのかな、とか思う。
…また伊澄だ。
鼻腔を通り過ぎる伊澄の匂いが愛おしく感じた。
この駅を降りてまっすぐと歩けば、星霜学院と星合学園の校門が見える。
波瑠と会話をしながら校門へ歩いていくと、見慣れた黒髪と緑髪を発見する。
…いや、その組み合わせはぜんっぜん見慣れてない。
茜は、伊澄と一緒にいた。
伊澄も「あ、お嬢様。おはようございます。今朝はいけなくてすみません。」と加えた。
このまま校門にいても星合学園の女子生徒に睨まれるだけなので、颯爽と別れを告げて二人で校門の中に走り込んだ。
星霜学院の入り口脇に植えられた桜の木は、いつの間にか綺麗に色付いていて、私たちが3年生になるのを暗示しているように見えた。
「本っっ当に誤解しないでほしい!!」
とりあえず平和的解決をした。私たちの仲は取り持たれた。
それはそうだ。会うはずがない。
茜の言ったことを要約すると、
茜家出る
↓
電車乗る
↓
朝練に行こうとした伊澄と会う
↓
話す
↓
来た
ってことらしい。
別に、心配したとかそういうんじゃなくって。
安心したとかそういうのもない。
神妙な面持ちでこちらを見つめる。
元からツリ目気味だった目をじとっとさせて言った。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。