第13話

試合後
6,259
2020/05/11 12:47 更新

トスッとベンチに腰を落とす。





負けた







負けたんか…







頭が追い付かん。

ぐるぐるして気持ち悪い。






「烏野高校!優勝候補であった稲荷崎高校を破り、二回戦突破しました!!」



「まさか、ここで稲荷崎が負けるとは誰も思ってなかったでしょうね。」






そうや。



うちかて、負けるなんて思ってへんかった。







暗い表情のまま、挨拶にいく。





挨拶を終えて、一番最後を歩いて会場を出る。





泣くな。





みんなが泣いている姿を見ながら、自分に言いつける。





うちは今、泣くな。



泣くのは、選手だけでええ。






後で、一人になってからでいいんや。







支えろ。


みんなを支える。




それが今、うちにできる全てや。













アナ「あなたさん!お話、いいですか?」



その声に足を止める。



一人のアナウンサーとカメラマンが寄ってきた。




アナ「試合、残念でしたね。」



残念。



アナ「今日の試合はどうでしたか?」




そんなん、今聞くんか。




うちが泣いてへんからか。




悔しがってないとでも思っとるんか。





「そうですね…今回の試合。烏野高校がただ単純に強かったっていうのもありますけど…。うちがもっと…………。」




もっと…





アナ「あなたさん?」



「すみません…。ちょっと…、今は……。何とも言えないです……。ほんま、すみません。」





アナ「あ、いえ!こちらこそすみませんでした!」








その後、誰にも声をかけられることなく会場から去った。






北さんや監督の話を聞きながらみんなが涙を流す。





ただ、うちと北さんだけは涙を見せなかった。








その後、バスが来るまで自由になった。






「侑、治。時間になったら呼んでな。」


侑「おー。」



侑と治は察してくれたのかついてくることはなかった。




いつもは何が何でもついてくるけど。












角名「あなた、一人にしていいの?」


侑「あいつは、一人やないと泣かんねん。」


治「いっつもそうや。」












「あ、聖臣はどうやったやろうか…」



まず、井闥山を探す。



しばらくして、隅の方で固まっている井闥山の集団を見つける。





ミーティング中…か……?





あの様子じゃ、勝ったんやろな






ま、負けるなんて思ってへんけど。






古森「!佐久早。」



終わったらしく、こっちに気づいた古森が聖臣に声をかける。






聖臣と古森の方に向かって歩いていく。





古森「あなたちゃん、試合は?」




「ん。負けてもた。」




「え……?」「は……?」



周りにおった井闥山の人たちも、反応した。
口を開けて固まった。


当たり前の反応やな。


「「稲荷崎が負けた?!」」



聖臣「負けた?どこに。」



「烏野。影山君のとこや。」



古森「影山か…。」

聖臣「若利君を倒したとこか。」




他にも一言二言口を交わしてから聖臣と別の場所に移動する。






「強かったで。影山君だけやなくて、他の選手も厄介な人ばっかやったわ。」


聖臣「ふーん。」


「決勝まで、行ってまうかもな。あ、」


「あ……」


二人で歩いていると今度は烏野の人たちにであった。




「影山君、おめでとうな。ほんま、強かったで。」


影「あざッス。」


「3回戦も頑張ってな。明日も見に来ます。」


後ろにいた烏野の主将にも声をかける。


澤「あ、ありがとうございます…」




「あと、日向君。」


日向「へっ?!俺ですか?!」



「せや。将来、侑をよろしくな。」



日向「……?」



「そんだけや。優勝してな?聖臣、倒してや。」


聖臣「おい…」



「フフッ…、嘘や。まぁ、頑張ってな。じゃあ。聖臣、行こ。」



聖臣「………」




ジッと烏野の人たちを見ている聖臣に声をかける。


ペコリと一度会釈をしてから烏野の前から去る。










「ふぅ……」



小さく息を吐いた。



その時、聖臣に腕をつかまれて、人気の無いところまで連れていかれる。




「聖臣?どないしたん?」



顔を上げると、つかまれていた腕が引かれポスンと聖臣の腕のなかにいた。



「聖臣…?」


「誰も見てねぇから…。我慢すんな………」



「っ…!」



バレてたんや。


「初戦で負けるなんて、初めてやわ……。やから、今だ頭追い付いてないねん。負けるとか、考えてもおらんかったし……。うちがもっと、もっ、とッ……、みんなをッ、支えたかったッ……。なんもッ、出来んかったんよ……。今回ッ、負けたのはうちのせいやッ……」




ポロポロと溢れだす涙はとどまることが無かった。




試合で、ピンチになってもたいしたこと言えんくて。


逆にこっちが元気付けられて。



「うちは…、マネージャーとしてッ、何の役にもたって、「それは違うだろ。」………聖臣?」




聖臣「むしろ、あなたはマネージャー以上のことしてんだろ……。それに、何の役にもたってないことない。少なくとも俺は、あなたと違うチームだけど、そう思う。宮たちもそう思ってんじゃないの?」



「……そう、かなッ?うちは、役にたてたんやろうか……。それなら、ちょっと…よかった……」




止まり始めた涙を拭い、顔をあげる。




「聖臣と試合、したかったわ。」




聖臣は無表情でこっちを見つめたあと、少しだけ口角をあげ




「来年があるだろ。」




「うん…、せやな。」


聖臣に少しだけ笑い返して、そばにあったベンチに座る。

水で濡らしたハンカチを目に当てながら、聖臣に話しかける。



「聖臣は、優勝してな?」



「当たり前。」



「フフッ…、やっぱ決勝で戦いたかったわ。やから、来年は覚悟しとってな?」



「……怖。」




「「あなたっ!見つけた!」」

「お前ら、速ぇよ。」




背後から聞こえた声に、ハンカチをあげて振り向く。




「なしたん?」


侑「呼びに来たんや。」

治「あなた、メールも電話も全部無視やしな。」



「?あ、充電切れとった。」



角「ふはっ!さすが!」



なんや、リンと銀に笑われるんやけど。




侑「佐久早…」

治「なんや、おったんか。」



侑は聖臣を見た瞬間、顔をしかめた。


治はガチで気づいてなかったみたいやわ。




「なら行こか。」


ベンチから腰を上げると、聖臣に腕を捕まれた。


聖臣「お前らは、あなたを役にたたないマネージャーだと思うか?今日の試合で役にたたなかったと思うか?」




「っ?!」




なに、聞いとんの?!




侑「はっ?!」

治「思うわけあらへんやろ!」

角「あなたほど、いいマネはいないと思うけど?」

銀「てか、何でそんなこと聞くん?」

侑「せやで!あなたをバカにしとるんか!?」

治「引き抜こう思ったって、やらへんからな!」




大慌てで、話し出す4人の姿をポカンと見つめる。




佐「ほらな。」



聖臣を見るとうちを見て、少しだけ笑っていた。




もう一度、4人に目をやる。




侑「あなたはこっちのマネージャーやな!?」

治「佐久早んとこ、いかんやろ?!いかせんけど!」



二人に肩をガシッとつかまれる。



後ろの二人もジッと見つめてきて、



そんな4人の表情に、




「フッ…、ハハハッ」



自然と笑みがこぼれた。



4人はポカンとして見つめてきて、




「聖臣の方がよう分かっとるな。」




聖臣の方を見て、ニコリと笑う。



侑「わ、笑った!かわええ!」

治「ちょっ!もう一回!なぁ、あなた!」

角「うわっ!写真取り損ねた。」

銀「なんや、初めてみたわ…」





わちゃわちゃとし出した四人の背中を押す。




「聖臣、ありがとうな。」



そう言って、四人を連れて北さんの所に戻る。












北「遅かったな。」


「すみません……」


侑「なぁ!もっかい!」


「しつこいで。そんな、笑ってへんわ。」


治「過去最高の笑顔やったで?!」

侑「あんな笑ったん初めて見たで!」

治「やから、写真撮らせて!」




尾「なに騒いどんねん?」


侑「アラン君も、あなたの笑った顔見たいよな?!」

尾「は?」




あー……

騒がしい……



北「あなた、笑ったんか?」


「うち、普段そんな笑ってないですか?」


北さんはコクンと頷いた。



「そんなに笑ったつもりないんですけどね…。珍しかったらしいです…」



北「そっか。俺も見たかったな。」



なんでそんなに見たいんやろか。


貴重なものでも無いやろうに。









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