驚いた。
ちょろいとか思ってすみません。紛れもなく、ヤバイ。間違いない。
黒曜石のように黒光りする巨体。イメージとしては西洋の竜のような形状に近い。
その手の指は六本あり、いかなる物をも穿つことができそうな爪が生えている。背中から生える大小二対の翼は、先端が尖り全てを切り裂く剣のようだ。
よく見れば、全身を覆う禍々しい鱗が、薄紫色に発光している。漆黒の輝きを放つのは、その身より放たれる妖気と色が混じりあってるからだろう。
その姿は、一種異様な美しさを感じさせる威容を誇っていた。
見えていなかったから、かなり失礼な態度をとってしまった気がするけど、今更か。
ちなみに、僕の身体は想像通りの楕円形だった。鏡餅のような形状だ。
色は、白花色というのかな?深みのある青白色だった。兄ちゃんもスライムで月白色だった。ふたりとも仄かな気品を感じる色だけど、スライムなのが悲しい現実である。
まあ、大丈夫だったみたい。
見た目が怖かったけど、この竜、親切だったし。
何より、やっぱりこの竜、寂しがり屋だわ。
見た目で損するタイプか。まるで" 泣いた赤鬼 "みたいだな。
見つかる方がいいけど、仲良くなれるかわからないしね。
それより、せっかく視覚を得た事だし、世界を見て回るのもいいでしょ。光や音を感じ取れるようになった事で、世界が広がった。
これでようやく、暇つぶしに草をもしゃもしゃする生活ともオサラバだ。
しかし、このドラゴン。見れば見るほど邪悪なんだけど、ピクリとも動かない。
そういえば、三百年前に封印されたとか言ってたっけ?
何故か誇らしげに、負けた!と、この竜は宣った。
実際、魔法ならともかく、剣や槍なんてこの竜に歯が立ちそうもないのだが……。
こんな化物より強いのが結構いるのだろうか?
外の世界は思ったより危険がいっぱい!なのかもしれない。
勇者。
色々なゲームで馴染み深い存在だ。
最近は、かませみたいな勇者をモチーフにした作品も多い為、そこまで圧倒的なイメージはなかったけど。
この世界では本当に強いみたいだ。
なるほど……どうやら、この世界で召喚されるのは元の世界の感覚からしたら、受け入れ難いものがありそうだ。
寧ろ、竜にしては詳しすぎな感じだ。
とにかく、喋る事が出来て嬉しいみたいで、聞けばなんでも答えてくれた。それから暫く、僕は竜こと、ヴェルドラさんと色々な事を話したのだった。
勇者といかに戦ったか。
勇者がいかに強かったか。
白い肌。
深紅の小さな口唇。
黒銀色の長髪を、一つにまとめて垂らしていたようだ。
身長はそんな高くない、やや小柄でほっそりとした体型。
顔はマスクで隠されていたそうだが、美人である事は間違いなかったと言っていた。
女性だったそうだ。
見とれて負けたのか?と聞いたら、フザケルナ!と怒鳴られた。
反りの入った独特の武器、" カタナ "と呼ばれる剣を使い、盾は持っていなかったそうだ。
ユニークスキル『絶対切断』
ユニークスキル『無限牢獄』
を駆使し、各種魔法を用い、「我を圧倒したのだ」と嬉しそうに語ってくれた。
話していてわかったけど、この竜、人間が好きみたい。口では雑魚だのゴミだの言いながら、襲ってきた者を意図的に殺したことはないみたいだった。逆鱗に触れない限り……。
かつて一度、三百年前にとある事件が起きて、街を一つ灰塵に帰したらしい。
その事が原因で、勇者が差し向けられ、結局封印されたのだと。
__勇者の用いるユニークスキル『無限牢獄』によって。
僕には、竜の気持ちなんてわからない。他人の気持ちだって、結局の所想像でしかわからないのだから。でも、僕はこいつが悪い竜ではないだろうと思う。
だって、気に入ったし。もう、怖いとは思わなくなっていた。
何となく、こっちをチラチラ見てくる感じ。
邪悪な見た目のドラゴンにされても……嬉しくはない。
面白いけど。
ふ。この竜も素直じゃないわ。兄ちゃんも素直じゃないから、おあいこだな。
むむ。
つまり、僕らがファミリーネーム(=この竜との共通の名前)を考えろってこと?だが、この竜が僕らに名前をつけてくれる事で、僕らも名持ちの魔物に成れるらしい。そういう事なら、考えてみよう。センスないんだけどな……。
駄目だよね。
簡単に響きがいいから、暴風=嵐とか、安直すぎるか。
気に入ったのかい!
前世と名前は名字以外変わらなかったけど、その名前は僕の魂に刻まれた。
見た目にも、能力にも変化はない。
だが、魂の奥深くで、何かが変化した。
それはまた、ヴェルドラと兄ちゃんにも言えるはずだ。
こうして、僕達は友達になったのだ。
さて、それじゃあ出発しようかな。っと、その前に、
本来、勇者のユニークスキル『無限牢獄』は、対象を永遠の時間、無限の虚数空間に封じ込めるスキルであり、現実世界への干渉を許す程甘い能力ではないのだそうだ。
この場合、『念話』だけしか出来ないという考え方の方がおかしい。
時間とともに封印が弱まる事などないのだから、現実世界を認識した上、『念話』だけでも干渉可能なヴェルドラの方が異常なのだと言える。
無論、僕らもヴェルドラもその事に気づかない。
そう言って、僕らはヴェルドラに触れた。
流石に、勇者の封印は格が違った。
眩い閃光を発し、ユニークスキルの干渉が行われたのだが、一瞬で跳ね返されてしまった。
僅かな綻びを作ったみたいだけど、それだけ。直ぐにでも修復されてしまうだろう。そもそも、同じユニークスキルなら何とかなるか?という発想だけで何とかなったら苦労はない。
どうにか出来ないか?
どうすれば__
__うーん。
成功率が低すぎる。
揺らめく透明な膜にしか見えない、ユニークスキル『無限牢獄』__
しかし、物理的ダメージでの破壊は不可能ときたか……。ひょっとすると、絶対防御の能力を併せ持つとかありそう。
などと言いながら、高笑いするヴェルドラ。
ユニークスキル『無限牢獄』は、自分自身を覆う事で、外部からの攻撃を防ぐ盾にもなるのだろう。なんて便利なスキルだ。万能すぎでしょ、勇者。
ユニークスキル『絶対切断』
ユニークスキル『無限牢獄』
この二つが揃うなら、ほぼ無敵なんじゃないか?
出会いたくないが、三百年前の人物。
既にお亡くなりになっているだろうから、大丈夫だと思いたい。
間違いなく、最強クラスだ。
ともかく、脱出方法は、依代への転生か。
敢えて低過ぎる確率確率まで言う必要はないだろう。
ヴェルドラがやる気なくすと成功率下がりそうだし。
ああ。脳裏にピポクテ草の事が思い出された。
それで、ほとんどが貴重な薬草だったのか。
すごっ!あんまり頭良くないのかなと思ってたけど、素晴らしい理解力だ。
見事なまでに、『大賢者』と同じ結論だ。
また意味のわからない事を言い出した。
仕方がないので、僕らが理解するまで会話した所によると……。
意思のみで魔素を集め、肉体を形成。今回は、肉体が囚われたのみであるが、意思で外部の魔素を集める事が出来ない状況にあるとの事。
では、意思だけ外部に出られるのか?というと、受け皿が要るとかいう理由で不可能だった。
意思だけで外に出ると、魔素と共に拡散して存在が消えてしまうらしい。そしてどこかで、新たな" 暴風竜 "が生まれるのだとか。つまり脱出は可能かもしれないが、別人のようになってしまっては意味がないという事だ。
詰んだ。いっその事、『捕食者』て、ヴェルドラごと喰うか?
捕食者の胃袋の中で解析するか、隔離して『無限牢獄』の効果だけ消してから解放とか出来ないのかな?
可能なのか……。
説明して納得してくれるなら、やるか。
このままだと、百年の孤独の後、消滅する運命なのだから。
僕らは、ヴェルドラに『捕食者』の能力と、やろうとしている事を説明した。
もっとも、『大賢者』の補正なしには成功は有り得ないけど………
そっか。
一人じゃなく、三人か。いいじゃん。
僕と兄ちゃんが、『大賢者』と『捕食者』で解析を行い、内部からはヴェルドラが破壊を試みる……行けるような気がしてきた。
よし!
僕らは覚悟を決めた。
ヴェルドラに触れ、捕食を行う。
一瞬にして、ヴェルドラの巨体が目の前から消えうせた。
実にあっけなかった。
今まで喋っていたのに。
いなくなって寂しさを感じる。
スキルを対象に行使した時は、抵抗され失敗したのだが、流石にヴェルドラ本体諸共だと抵抗される事もなかった。『無限牢獄』も一緒に飲み込んだのだから、当然なんだけど。
あの巨体を飲み込めた事には驚いたけど。
胃袋の現在の空間使用量は兄ちゃんと半分こしたから十三%ぐらい?
どれだけ大きなスペースを持つんだか。
そして__
お願いします!僕は祈るように、Yes、と念じた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。