第6話

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2026/03/19 11:16 更新
 小さき者だと?まあ、どう考えても僕の事だと思うけど……。
 声というより、心に意志が直接認識出来た感じか。何しろ耳がないから音も聞こえないのだ。
 てか今、何て言った?小さき者"等"って言ったよね。まさか、僕以外に誰かいる?
???
(おい!聞こえているだろう?返事をするが良い!)
 聞こえてるよ!今考えてるんだ!
 だがしかし。口がないから返事のしようもないのだ。
 試しに、「うっさい、ハゲ!」と、心の中で答えてみた。
 まあ、聞こえるわけないだろうし大丈夫でしょ。しかし、どうやって返事をしようか……。
???
(……ほ、ほほぅ。我の事を同時にハゲ呼ばわりするか……いい度胸ではないか!!久方ぶりの客人だと思って下手に出てやったが、どうやら死にたいらしいな!)
 ヤバイ。聞こえちゃったみたい。というか、心で思ったら返事できるのかよ!先にそれを教えてくれればわざわざ相手を怒らせることもなかったのに。
 しかも、相手がどういうヤツかもさっぱりわからないのだ。
 どうしようもない。お手上げ。
 ここは素直に謝ることにしよう。
 その時、声が聞こえた。
三上 悟
(すんません!返事の仕方もわからなかったもので、適当に思った事を言ってみただけです。本当に申し訳ない!ちなみに自分、目も見えない状態でして、貴方の姿すら見えないのですよ)
 なんか、聞き覚えのあるような声が聞こえたがまあそんなことは一旦置いとこう。
 この声に同意するように頷いた。
あなた
(そ、そうなんですよ!)
 通じるか?まあ、相手の姿も見えないのにハゲはないわな。本当にハゲなら激怒しても当然だろう。
???
(ククク。クハハ。クハハハハハハッ!!)
 突然の大爆笑。
 基本を押さえた、笑いの三段活用。見事だ。
 怒りは解けたのか?
???
(面白い。我の姿を見ての発言だと思ったが、目が見えないのか。スライム種は基本、思考もせず吸収・分裂・再生を繰り返すだけの低位モンスター。自らの生息領域から出る事は滅多にない。)
 なんか語り出したぞ?怒りより興味が勝っている状態……か?なんにせよ、これがファーストコンタクト。僕の新しい人(スライム)生の初会話だ。上手い事友好的に進めたい。
???
(そのスライムが、我に体当たりを仕掛けてくるから不思議の思っていたのだ。再生能力も異常な速度だし、名持ちの魔物ネームドモンスターか、もしくはユニークモンスターか?)
 ネームド?ユニーク?意味がわからない。
あなた
(すみません。ちょっと意味がわからないです。実は自分、こちらに生まれて九十日でして……)
???
(ふむ。自我がある時点で、普通のスライムには有り得ぬ事なのだ。"名"を付けられたモンスターは名持ちの魔物ネームドモンスターと呼ばれるが、生まれてから九十日なら有り得んな。では、ユニークか?)
三上 悟
(ユニークと言いますと?)
???
(ユニークモンスターとは、突然変異したような異常な能力を持つ個体の事だ。希に魔素濃度の高い場所で生まれる事がある……そうか、貴様等は我から漏れ出た魔素の塊から生まれ出たのだな!)
 んん?どういう事?
 前世の記憶を総動員して考えてみよう。
 つまり、このおじさん(仮定)から魔素が漏れ出ていて、この周辺は魔素濃度が濃いと。
 そして、その魔素が集まって生まれ出た魔物がスライム=僕ら?って事かな?
???
(ふむ。この三百年、我に近づく事の出来る魔物すらいなかったのだ。我の魔力の元から生まれ出たなら、我に触れる事が出来るのも頷ける!)
三上 悟
(ほほぅ……て事は、貴方が自分の親みたいなもの?)
???
(親ではないが……そもそも、我に生殖能力はない。魔物は、生殖能力を持つ者と持たぬ者、様々であるからな)
あなた
(普通、生殖能力は持っているものじゃないの?というか、魔素の塊から生まれる事とあるなら、生殖する必要がないの?)
三上 悟
(うんうん)
???
(__お前ら、えらく知性的だな。普通の魔物では思考能力すら持つ者は少ないというのに。知性がある魔物は"魔人"しかいないのだが……)
 そんな事を言いながら、長々と説明してくれた……。
 まず一番重要な事実だが、この世界にも人間がいるということが判明した。
 そうした人間に近しい種族は亜人と称され、生殖能力を持つようだ。
 エルフ、ホビット、ドワーフといった妖精族の末裔が、人間の味方である人類の一員。
 そして、ゴブリンやオーク、リザードマン等といった者達が、人間に敵対している為に魔物という扱いなのだとか。敵対しているだけなので、異種交配は可能らしいけど。
 次に"魔人"だ。魔素から生まれた者や、魔物の突然変異種、動物や魔獣から進化した者共などの総称である。知性を有し、生殖能力を有するのが特徴なのだとか。
 巨人族や、吸血鬼族、悪魔族と言った長命の種族が、上位魔人の代表格らしい。生殖能力も有しているのだが、滅多に行わない。圧倒的な魔力に、劣化する事のない肉体。子孫を残す必要がないからだろう。
 知性があり、生殖能力を有し、人類に敵対する者達を総じて、"魔族"と呼称する。
 僕が受けた印象では、魔族が人類に敵対しているというより、その力を一方的に人間が恐れているというのが正確だろう。何にせよ、生存圏をかけて争っているのは本当らしいけど。
 こうした魔物達は、危険度を区分けされているとの事である。
 中でも、上位魔人とはかなり危険な存在であるようだ。下手すれば、一人で町を滅ぼせる者もいるらしい。お近づきにはなりたくないものである。説明は延々と続いた。昔、上位魔人とも戦ったとか、色々。
 最後に、自分の事を語ってくれたのだが……。
暴風竜 ヴェルドラ
(で、我に生殖能力がないという理由だが……必要ないからだ。我は、"竜種"が一体。"暴風竜"ヴェルドラとは、我の事である!我には寿命も肉体も存在しない!意思さえあれば我は不滅なのだ!クアーーーハハハハハハハ!!
 と、高笑いされても……。
 要は、寿命がないから子供作る必要ない!って事だろ?
 長々と説明おつかれ~って所だが、聞き捨てならんこと言ってたぞ。
 "暴風竜"ヴェルドラって、ドラゴン?
 上位魔人が喧嘩友達って感じだし、めちゃくちゃヤバイ奴なんじゃないのか?
 前世での僕の知識を総動員して考えてみると、目の前にいるのであろう"暴風竜"ヴェルドラさんは、ヤバイ奴で間違いない。
 えらく丁寧に説明してくれるのも、何だか不気味だ。
 さて、どうしたものか……。
あなた
(そ、そうなんすか!)
三上 悟
(大変分かりやすい説明、ありがとうございました!)
あなた
(では、自分はこれで!)
 そう言って、この場から離脱しようと試みる。
暴風竜 ヴェルドラ
(待て。我の事を話してやったのだ。今度はお前等の番ではないのか?ん?)
 当然、逃がしてくれる気はないようだった……。
 うーむ。俺の事を話せ、ってか。異世界から転生してきました!と言って、素直に信じてくれるかな?スライムにしては知性が高いのを疑っているようだし、適当に言って誤魔化せるとも思えない。何より、誤魔化そうとして失敗=死亡フラグという可能性もある。
 まあいいか。信じないなら、その時はその時だ。
 僕はそこにいるらしいもう一匹のスライム(?)から話させた。
三上 悟
(とまあ、そういう訳なんすよ!超大変だったんすよ!)
 うん、なんかもう薄々わかってた。このスライム兄ちゃんだよね!?
あなた
(兄ちゃん、だよね?)
三上 悟
(あなたの下の名前~!)
 兄ちゃんも薄々気付いてたらしい。まあ、そんなことはどうでもいい。兄ちゃんに会えてよかった!
暴風竜 ヴェルドラ
(なんだ?お前等、兄弟だったのか?)
あなた
(はい、そうです!)
暴風竜 ヴェルドラ
(よかったな、会えて)
あなた
(ありがとうございます!)
 で、話を戻すと僕たちは自分のスキルの事は秘密にして、刺されてからスライムとして目覚めて、そして現在に至るまでの体験を語って聞かせた。
 自分達で話してて、何か大変そうに聞こえなかったのが不思議だけど……。
 大変だったのは事実だ。
 目が見えないというのが最大に辛い。
 この先、見ることはできないのかな?
 何だか悲しくなってきた。
暴風竜 ヴェルドラ
(ふむん。やはり" 転生者 "だったか。お前ら、ものすごく希な生まれ方をしたな)
 なにこの反応?
 " 転生者 "って、珍しくないの?生まれ方の方が珍しいみたいな……。
暴風竜 ヴェルドラ
(ふん。" 転生者 "はたまに生まれてくる事がある。意志が強いと魂に記憶が刻まれるのだろう。前世とやらを完全に覚えている者もいる。だが、異世界からの" 転生者 "は珍しいな。魂だけで世界を渡ると、普通は耐えられない。魂が分解され、記憶も失われるのだ。完全な記憶を残して魔素から魔物となって生まれて来るなど、我の知る限り事例はない。お前らは特殊だよ)
 異界からの転生者は、普通は記憶の欠片かけらを残すだけみたい。完全に記憶を残している僕らは、どうやらかなり異端の存在という事になる。だが、それはこの際どうでもいい。
 今、聞き捨てならないことを言っていた。魂だけで、とか。では、転生じゃなくこの世界にやってくる者もいるのだろうか?
あなた
(そうなんですか?自覚はないのですが……。)
三上 悟
(ところで、転生ではなく異世界から来た人って、いることはいるんですね?)
暴風竜 ヴェルドラ
(うむ。異世界へ赴く事は未だ成功事例がない。しかし、異世界からこちら側へは、時たまやって来る者がいる。" 異邦人 "もしくは" 異世界人 "と呼ばれる者で、こちらの世界とは異なる特殊な知識を持つようだな。そういう者達は世界を渡る際に、特殊な能力を獲得するらしい。後は、先程言った異界の知識を持つと確認された" 転生者 "の記録が残っている。確認されていない者もいただろうがな)
 なるほどね。異世界っていうのが、僕らがいた地球かどうかはわからないけど、会ってみるのもいいかもしれない。もしかしたら、同郷の日本人もいるかもしれないし。
 何の目的も持たないのだから、一つくらい目的を持つのもいいだろう。
三上 悟
(なるほど!では、異世界人とやらを探して、会いに行ってみますよ。もしかしたら、同郷の知り合いに会えるかもしれないし!)
暴風竜 ヴェルドラ
(まあ待て。お前ら、目が見えないのだろ?)
あなた
(あ、はい)
 目が見えないから何なのか?
 不便だが、死なないようにコツコツいけば、いつかは見えるだろ。多分。
暴風竜 ヴェルドラ
(見えるようにしてやろう)
 ん?何て?
 待て待て、このおっさん、いや、" 暴風竜 "ヴェルドラさんは、めっちゃいい人(竜)なのか?
 期待しちゃってもいいのか?
あなた
(え?本当ですか?)
暴風竜 ヴェルドラ
(うむ。ただし、条件があるがな……どうする?)
 条件……か。怪しい。
三上 悟
(どういう条件ですか?)
 兄ちゃんが条件を飲むと決めたなら僕も飲むよ?
暴風竜 ヴェルドラ
(簡単だ。見えるようになったからといって、我に怯えるな。そして、また話をしにこい。それだけだ。お前らにとっては良い話だろう?)
 そんなことでいいのか?
 というか……この竜、寂しかったのかもしれない。強者故の孤独って奴か?
 この竜はちょろいかも。
 いや、竜っていうのもガセかもしれないな。そもそも、この世界の竜は大したことない可能性も……?
 ふっ。これは、いい取引かも。
三上 悟
(それだけでいいんですか?)
暴風竜 ヴェルドラ
(うむ。実はな、三百年前にここに封印されてな。それから、暇で暇でどうしようもなく退屈しておったのだ。どうだ?)
三上 悟
(そのくらいでいいなら、喜んでお願いします!)
暴風竜 ヴェルドラ
(うむ。約束だぞ、守れよ!)
あなた
(大丈夫ですよ!)
三上 悟
(こう見えて、信頼に値する男!と前世では評判でした!)
 ……自称ね?
暴風竜 ヴェルドラ
(良かろう。『魔力感知』というスキルがある。使えるか?)
 何言ってるんだ……使えるわけないでしょ。
あなた
(いや、使えないです。どういうスキルですか?)
暴風竜 ヴェルドラ
(周囲の魔素を感知するスキルだ。大した事のないスキルだし、周囲の魔素を認識するだけなので簡単に習得出来る)
三上 悟
(ほほぅ……何だか簡単そうですね)
暴風竜 ヴェルドラ
(うむ。我など、呼吸するように出来て当然故に、意識することもないな)
三上 悟
(なるほど!で、それを習得すると、目が見えるようになるのですか?)
暴風竜 ヴェルドラ
(その通りだ。この世界は魔素に覆われている。薄い濃いの違いは在るがな。で、光や音は波の性質を持つのだが、知っているか?)
あなた
(ええ、光波や音波ですね)
暴風竜 ヴェルドラ
(詳しいな。異世界の知識か?まあ、そうだ。で、その波が魔素を撹乱する様を観測し、その様子から周囲を予測演算するのだ。簡単だろ?)
 はあ?何を言ってるんだ?
 こいつ……無茶言いやがって。簡単な訳ないだろ!
あなた
(ちょっと難しい気がするようなしないような……)
暴風竜 ヴェルドラ
(何?これで、目や耳が潰されても先頭継続可能なのだぞ?不意打ちも防げるし、必須スキルだぞ?)
三上 悟
(いやいや……戦闘とかこの際忘れて、ともかく目が見えるようになりたいのですけど……)
暴風竜 ヴェルドラ
(むぅ……しょうがないな。習得を手伝ってやる。ちなみに、他の方法は知らんぞ)
三上 悟
(ちょ、本当に出来るのですか!?自分ら、生まれたての初心者っすよ?)
暴風竜 ヴェルドラ
(安心しろ。幸いにもお前ら、前世の記憶があるのだろ?その時、光や音を知識として知っている訳だ。その知識がなければ、我にも不可能だったかと知れぬ。お前は幸運だぞ)
 なるほど、目の見えない者に世の中の光景を説明するのは難しい。
 理解させるなど、僕には不可能だ。
 ヘレン・ケラーさんが言葉を話せるようになったのも、二歳までに覚えていた言葉がきっかけになったそうだし。
 つまり、前世の知識があるからこそ、『魔力感知』というスキルを代用して視覚や聴覚を擬似的に得ることが出来るという訳か……。
 やるしかないか。目が見えないのは不便過ぎる。
 それに、忘れていたが僕には『大賢者』がついている。
 きっと何とかしてくれるだろう。
あなた
(ぜひ教えて下さい!)
暴風竜 ヴェルドラ
(いや、そんなに勢い込まなくとも、簡単だぞ?まずは、体力の魔力で魔素を動かしてみろ)
 これは何となくわかる。水を噴き出せたのも、恐らくはこれの応用だし。
三上 悟
(こうっすか?)
あなた
(こんな感じ?)
 体内を循環させるようにイメージしつつ、力を込める。すると、体内を何かが動くのが感じられた。これが所謂いわゆる、魔素というヤツなのだろう。
 この操る力が魔力で、動かしているのが魔素か。そうした事を、魔素を動かしながら確認する。
暴風竜 ヴェルドラ
(ふむ。思ったより、流暢りゅうちょうに出来るではないか。では、その動かしている魔素と体外の魔素、違いはわかるか?)
 これも簡単かも。
 魔素を吸収して生きていると言われてから、意識して感じるようにしていたのが良かったかな。
三上 悟
(そりゃわかりますよ!)
あなた
(どうやら、それを食べて生きてるみたいだし?)
暴風竜 ヴェルドラ
(クククッ。そこまでわかるなら後は簡単だ。体外の魔素の動きを感じるだけだからな。)
 そこがわからんのだが。
 ともかく、言われた通りに体外の魔素を感じる。
 魔素が漂っているのを感じる。流れたり動いたりと様々な感覚だ……。
 そうそう、『大賢者』起動っと。
大賢者
《確認しました。エクストラスキル『魔力感知』を獲得……成功しました。エクストラスキル『魔力感知』を使いますか?      YES /NO 》
 え?そんな簡単に獲得しちゃったの?
 いや、そりゃあ勿論、YESだけど……流石は『大賢者』、頼もしすぎる!
 エクストラスキル『魔力感知』を使用した瞬間、僕の脳内を情報が埋め尽くす。人間であった頃には決して処理しきれなかったであろう、膨大な情報__一つ一つの小さな魔素を押し動かす、光と音の波__の全てを把握し、認識出来る情報へと変換する。
 人間の視界は前方百八十度もなかったのだ。それが今、全方位三百六十度死角なしで、
" 視える "のである。岩の影や百メートルの光景でさえ、そこに意識を向ければ認識する事が出来る。
 人間だったならば、この情報量に耐えられず脳が焼き切れて発狂していたかもしれない。
 しかし、僕はスライム。細胞の一つ一つが筋肉であり、脳細胞でもあるのだ。
 何とか耐えることが出来た。そして__
大賢者
《エクストラスキル『魔力感知』にユニークスキル『大賢者』を同期させます……成功しました。今後は全ての情報を『大賢者』にて管理を行います》
 突然視界が開けた。僕を襲った、脳を焼き切るような感覚がなくなる。
 そして、今まで出来なかったのが不思議なくらい、当たり前のように世界が" 視えた "のだ。
 『大賢者』はずるい能力かもしれない。チートと言っても過言ではないだろう。
 他人が持っていたら、反則だ!とクレームをつけるところだが、持っているのは僕だ。
 何も問題はなかった。
三上 悟
(あ、なんか出来たみたいです)
あなた
(僕も。ありがとうございました!)
 そう言って、感覚的に眼前の" ソレ "に目を向けた。
 ガチの竜がいた。
 黒光りする鋼よりも硬そうで、柔軟性も兼ね備えているであろう鱗に覆われた……見るからに、邪竜という風格の…………。
あなた
(げええっ!ドラゴン!!)
 予想を遥かに上回る、邪悪な姿。
 僕の心の叫びが、絶叫となってほとばしり出たのは、仕方ないと思う。

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