小さき者だと?まあ、どう考えても僕の事だと思うけど……。
声というより、心に意志が直接認識出来た感じか。何しろ耳がないから音も聞こえないのだ。
てか今、何て言った?小さき者"等"って言ったよね。まさか、僕以外に誰かいる?
聞こえてるよ!今考えてるんだ!
だがしかし。口がないから返事のしようもないのだ。
試しに、「うっさい、ハゲ!」と、心の中で答えてみた。
まあ、聞こえるわけないだろうし大丈夫でしょ。しかし、どうやって返事をしようか……。
ヤバイ。聞こえちゃったみたい。というか、心で思ったら返事できるのかよ!先にそれを教えてくれればわざわざ相手を怒らせることもなかったのに。
しかも、相手がどういうヤツかもさっぱりわからないのだ。
どうしようもない。お手上げ。
ここは素直に謝ることにしよう。
その時、声が聞こえた。
なんか、聞き覚えのあるような声が聞こえたがまあそんなことは一旦置いとこう。
この声に同意するように頷いた。
通じるか?まあ、相手の姿も見えないのにハゲはないわな。本当にハゲなら激怒しても当然だろう。
突然の大爆笑。
基本を押さえた、笑いの三段活用。見事だ。
怒りは解けたのか?
なんか語り出したぞ?怒りより興味が勝っている状態……か?なんにせよ、これがファーストコンタクト。僕の新しい人(スライム)生の初会話だ。上手い事友好的に進めたい。
ネームド?ユニーク?意味がわからない。
んん?どういう事?
前世の記憶を総動員して考えてみよう。
つまり、このおじさん(仮定)から魔素が漏れ出ていて、この周辺は魔素濃度が濃いと。
そして、その魔素が集まって生まれ出た魔物がスライム=僕ら?って事かな?
そんな事を言いながら、長々と説明してくれた……。
まず一番重要な事実だが、この世界にも人間がいるということが判明した。
そうした人間に近しい種族は亜人と称され、生殖能力を持つようだ。
エルフ、ホビット、ドワーフといった妖精族の末裔が、人間の味方である人類の一員。
そして、ゴブリンやオーク、リザードマン等といった者達が、人間に敵対している為に魔物という扱いなのだとか。敵対しているだけなので、異種交配は可能らしいけど。
次に"魔人"だ。魔素から生まれた者や、魔物の突然変異種、動物や魔獣から進化した者共などの総称である。知性を有し、生殖能力を有するのが特徴なのだとか。
巨人族や、吸血鬼族、悪魔族と言った長命の種族が、上位魔人の代表格らしい。生殖能力も有しているのだが、滅多に行わない。圧倒的な魔力に、劣化する事のない肉体。子孫を残す必要がないからだろう。
知性があり、生殖能力を有し、人類に敵対する者達を総じて、"魔族"と呼称する。
僕が受けた印象では、魔族が人類に敵対しているというより、その力を一方的に人間が恐れているというのが正確だろう。何にせよ、生存圏をかけて争っているのは本当らしいけど。
こうした魔物達は、危険度を区分けされているとの事である。
中でも、上位魔人とはかなり危険な存在であるようだ。下手すれば、一人で町を滅ぼせる者もいるらしい。お近づきにはなりたくないものである。説明は延々と続いた。昔、上位魔人とも戦ったとか、色々。
最後に、自分の事を語ってくれたのだが……。
と、高笑いされても……。
要は、寿命がないから子供作る必要ない!って事だろ?
長々と説明おつかれ~って所だが、聞き捨てならんこと言ってたぞ。
"暴風竜"ヴェルドラって、ドラゴン?
上位魔人が喧嘩友達って感じだし、めちゃくちゃヤバイ奴なんじゃないのか?
前世での僕の知識を総動員して考えてみると、目の前にいるのであろう"暴風竜"ヴェルドラさんは、ヤバイ奴で間違いない。
えらく丁寧に説明してくれるのも、何だか不気味だ。
さて、どうしたものか……。
そう言って、この場から離脱しようと試みる。
当然、逃がしてくれる気はないようだった……。
うーむ。俺の事を話せ、ってか。異世界から転生してきました!と言って、素直に信じてくれるかな?スライムにしては知性が高いのを疑っているようだし、適当に言って誤魔化せるとも思えない。何より、誤魔化そうとして失敗=死亡フラグという可能性もある。
まあいいか。信じないなら、その時はその時だ。
僕はそこにいるらしいもう一匹のスライム(?)から話させた。
うん、なんかもう薄々わかってた。このスライム兄ちゃんだよね!?
兄ちゃんも薄々気付いてたらしい。まあ、そんなことはどうでもいい。兄ちゃんに会えてよかった!
で、話を戻すと僕たちは自分のスキルの事は秘密にして、刺されてからスライムとして目覚めて、そして現在に至るまでの体験を語って聞かせた。
自分達で話してて、何か大変そうに聞こえなかったのが不思議だけど……。
大変だったのは事実だ。
目が見えないというのが最大に辛い。
この先、見ることはできないのかな?
何だか悲しくなってきた。
なにこの反応?
" 転生者 "って、珍しくないの?生まれ方の方が珍しいみたいな……。
異界からの転生者は、普通は記憶の欠片を残すだけみたい。完全に記憶を残している僕らは、どうやらかなり異端の存在という事になる。だが、それはこの際どうでもいい。
今、聞き捨てならないことを言っていた。魂だけで、とか。では、転生じゃなくこの世界にやってくる者もいるのだろうか?
なるほどね。異世界っていうのが、僕らがいた地球かどうかはわからないけど、会ってみるのもいいかもしれない。もしかしたら、同郷の日本人もいるかもしれないし。
何の目的も持たないのだから、一つくらい目的を持つのもいいだろう。
目が見えないから何なのか?
不便だが、死なないようにコツコツいけば、いつかは見えるだろ。多分。
ん?何て?
待て待て、このおっさん、いや、" 暴風竜 "ヴェルドラさんは、めっちゃいい人(竜)なのか?
期待しちゃってもいいのか?
条件……か。怪しい。
兄ちゃんが条件を飲むと決めたなら僕も飲むよ?
そんなことでいいのか?
というか……この竜、寂しかったのかもしれない。強者故の孤独って奴か?
この竜はちょろいかも。
いや、竜っていうのもガセかもしれないな。そもそも、この世界の竜は大したことない可能性も……?
ふっ。これは、いい取引かも。
……自称ね?
何言ってるんだ……使えるわけないでしょ。
はあ?何を言ってるんだ?
こいつ……無茶言いやがって。簡単な訳ないだろ!
なるほど、目の見えない者に世の中の光景を説明するのは難しい。
理解させるなど、僕には不可能だ。
ヘレン・ケラーさんが言葉を話せるようになったのも、二歳までに覚えていた言葉がきっかけになったそうだし。
つまり、前世の知識があるからこそ、『魔力感知』というスキルを代用して視覚や聴覚を擬似的に得ることが出来るという訳か……。
やるしかないか。目が見えないのは不便過ぎる。
それに、忘れていたが僕には『大賢者』がついている。
きっと何とかしてくれるだろう。
これは何となくわかる。水を噴き出せたのも、恐らくはこれの応用だし。
体内を循環させるようにイメージしつつ、力を込める。すると、体内を何かが動くのが感じられた。これが所謂、魔素というヤツなのだろう。
この操る力が魔力で、動かしているのが魔素か。そうした事を、魔素を動かしながら確認する。
これも簡単かも。
魔素を吸収して生きていると言われてから、意識して感じるようにしていたのが良かったかな。
そこがわからんのだが。
ともかく、言われた通りに体外の魔素を感じる。
魔素が漂っているのを感じる。流れたり動いたりと様々な感覚だ……。
そうそう、『大賢者』起動っと。
え?そんな簡単に獲得しちゃったの?
いや、そりゃあ勿論、YESだけど……流石は『大賢者』、頼もしすぎる!
エクストラスキル『魔力感知』を使用した瞬間、僕の脳内を情報が埋め尽くす。人間であった頃には決して処理しきれなかったであろう、膨大な情報__一つ一つの小さな魔素を押し動かす、光と音の波__の全てを把握し、認識出来る情報へと変換する。
人間の視界は前方百八十度もなかったのだ。それが今、全方位三百六十度死角なしで、
" 視える "のである。岩の影や百メートルの光景でさえ、そこに意識を向ければ認識する事が出来る。
人間だったならば、この情報量に耐えられず脳が焼き切れて発狂していたかもしれない。
しかし、僕はスライム。細胞の一つ一つが筋肉であり、脳細胞でもあるのだ。
何とか耐えることが出来た。そして__
突然視界が開けた。僕を襲った、脳を焼き切るような感覚がなくなる。
そして、今まで出来なかったのが不思議なくらい、当たり前のように世界が" 視えた "のだ。
『大賢者』はずるい能力かもしれない。チートと言っても過言ではないだろう。
他人が持っていたら、反則だ!とクレームをつけるところだが、持っているのは僕だ。
何も問題はなかった。
そう言って、感覚的に眼前の" ソレ "に目を向けた。
ガチの竜がいた。
黒光りする鋼よりも硬そうで、柔軟性も兼ね備えているであろう鱗に覆われた……見るからに、邪竜という風格の…………。
予想を遥かに上回る、邪悪な姿。
僕の心の叫びが、絶叫となって迸り出たのは、仕方ないと思う。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。