第33話

32話
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2026/03/02 11:00 更新

 
 それは、正式な“突撃”では

 なかった。
 
 マネージャーの一本の電話。
 
「……まだ記事にはなってない」
 
「でも、写真は押さえられてる」
 
 その言葉で、十分だった。

 前回と違う。しっかり撮られている。
 
 淳太は静かに目を閉じる。
 
「……相手は?」
 
「一般女性。 同棲疑惑。

 体調を気遣う様子あり」
 
 マネージャーは、一拍置いて続けた。
 
「……正直に言って」
 
「事実か?」
 
 淳太は逃げなかった。
 
「……大切な人です」
 
 それ以上は言わない。
 
 でも、それで十分だった。
 
 電話が切れた後、部屋は驚くほど静かだった。
 
 怖くないわけじゃない。
 
 でも。“決めた後”の恐怖は、

 どこか輪郭がはっきりしている。
 
 その頃。
 
 あなたは保育園の廊下でしゃがみ込んでいた。
 
 視界がぐらつく。
 
「あなた先生!」
 
 同僚が駆け寄る。
 
「顔色、悪すぎるよ!」
 
 あなたは笑おうとしたけど、うまくできなかった。
 
「……すみません」
 
 その瞬間、悟った。
 
 ――もう、“誤魔化す”

 段階は過ぎてる。
 
 その夜。
 
 二人は向かい合って座っていた。

 
 いつものソファ。

 
 でも、空気は違う。

 
 淳太が先に口を開く。

 
「……週刊誌、来るかもしれん」
 
 あなたは驚かなかった。
 
「……うん」
 
 静かに頷く。
 
「……仕事も、少し休もうか思ってる」
 
 その言葉に、淳太は 目を伏せた。
 
「……あなたに無理 させてたな」
 
 あなたは首を振る。
 
「……違う」
 
「……一緒に選んでる」
 
 そう言って、お腹に手を当てた。
 
「……この子の ためにも」

 淳太はゆっくり息を吸う。
 
「……俺も、ちゃんと話す」
 
「……守るって 決めた以上、逃げへん」
 
 それは、 覚悟だった。
 
 完璧じゃない。

 正解でもない。
 
 でも、“続ける”ための

 選択。
 
 数日後。
 
 週刊誌は、結局出なかった。
 
 ――少なくとも、

 今は。
 
 代わりに、条件が提示された。
 
 距離。

 沈黙。

 時間。
 
 ふたりはそれを受け入れた。

受け入れたくなかった。

受け入れるつもりも無かった。
 
 完全じゃない平穏。
 
 でも、

 壊れなかった未来。
 
 あなたは窓辺で陽を浴びながら思う。
 
 ――長い物語は、一気には進まない。
 
 ――でも、ちゃんと前には進んでる。
 
 淳太はスマホをポケットにしまい、

 彼女を見る。

 守ると決めた日から、迷い方が変わった。
 
 それだけで、

 今は十分だった。

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