あなたSaid
朝食を食べ終え、部屋に戻って荷物をまとめる。
荷物を片付けたら広々とした部屋が少し寂しく見えた。
彼がそう言って、最後にもう一度窓から外を覗く。
露天風呂から見えた山並みも、昨日の夜の星も、今日の朝の澄んだ空気も──ぜんぶ思い出に変わっていく。
フロントでチェックアウトを済ませて、玄関を出るとき、スタッフに「またぜひお越しください」と笑顔で送り出される。
その一言に、ふと「また来たいね」と自然に言葉が出た。
叶も同じ気持ちだったのか、少し照れたように頷いてくれる。
新幹線に揺られる帰り道。
昨日と同じシートに並んで座っているのに、どこか違う気持ちになる。
彼の言葉に、なんとなく納得して笑ってしまった。
窓の外を流れる景色を見ながら、思い出をひとつずつ言葉にしていく。
彼もそう言いながらも、口元が緩んでいる。
彼も同じくらいかそれ以上に楽しかったのだろう。
いつもの見慣れた駅につき歩いてマンションまでついた。
家に着くと、玄関に足を踏み入れた瞬間「帰ってきたなあ」と実感が押し寄せる。
旅館の香りではなく、自分たちの生活の匂い。
慣れた部屋着に着替えると、ようやく気持ちが落ち着いた。
彼はソファに腰を下ろし、軽く伸びをした。
その仕草を見ながら、胸の中にじんわりとあたたかさが広がっていく。
旅行で過ごした時間は特別で、非日常だった。
でも、こうして一緒に帰ってくる家があるからこそ、特別な時間がもっと輝いて見える。
そう呟くと、彼は横目ちらっとでこちらを見て、少し照れくさそうに笑っていた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。