………どこかで、声がする
ぼんやりとした声だ
遠くの方で、誰かが何かを話している
けれど、言葉としてはうまく聞き取れない
意識の底に沈んでいた自分が
ゆっくりと浮かび上がっていくような感覚がする
耳に届く声が
少しずつ輪郭を持ちはじめる
まだ霞がかかったみたいに曖昧だ
喉の奥から、小さくうめき声が漏れた
その瞬間——
驚いたような
年配の男の声が響いた
それに続いて
少し高めの女性の声が重なる
声が近づいてくる
足音も聞こえる
慌てて駆け寄ってくる
複数の足音
まぶたが重い
どうにか開けようと力を込める
まぶたがわずかに震え、光が差し込む
ぱちっ
眩しさに思わず目を細めながら
俺は目を覚ました
声のする方に目をやると…
そこには年配の男性と女性が立っていた
男性の方は執事のような恰好をしていて
女性の方はメイド服らしきものを着ている
二人は涙目でこちらを見ていた
喉が乾いていて
声がうまく出ない
それに
この声は俺の知ってる俺の声じゃない
そう言って女性は慌てた様子で出ていく。
その後…
俺は訳も分からず
とりあえずプル―スという人が連れてきた
主治医と思われる人に診察された
医者は軽く頭を下げて部屋から出て行った
そう言って
二人も部屋から出ていった
パタン
扉が閉まった瞬間
俺は緊張の糸が切れたように
起こしていた体をベッドへ倒す
ベッドの上で軽く息を整えながら
ゆっくりと上体を起こし
今自分がいる部屋全体を見まわす
部屋にあるのは本棚に勉強机
ソファに四角いテーブル
クローゼット、ドレッサー
そして俺が今寝ていたベッド
落ち着いた配色で
家具の装飾はシンプルなものだが
一般家庭とは比べ物にならないほど豪華な部屋だ
そしてさっきからしていた違和感をはっきりと感じる
ベッドの高さも、 部屋の広さも
全部“自分が知っている感覚”とズレている
腕を見下ろす
細い
明らかに“子どもの腕”だ
混乱しつつも
まずは自分の姿を確認しようとベッドから降りる
足が床についた瞬間
ふらりと体が揺れた
思ったよりも軽い体
重心の位置も全然違う
歩き慣れた自分の体じゃない
それでも壁に手をつきながら
部屋の奥にあるドレッサーへと歩く
木製の大きなドレッサー
細かな彫刻が施されていて
明らかに高級品だ
鏡は磨かれていて
部屋の光を柔らかく反射している
震える手で鏡の縁をつかみ
そっと顔を近づける
そこに映っていたのは——
俺じゃない
……けれど、どこか見覚えのある少年の顔だった
2026/06/26 更新・修正












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。