人の気配を感じない夕暮れ。
ボクは今日も、彼の待つ図書室へと足を運ぶ。
彼には、あの日からずっとボクの先生を
してもらっている。
ボクは彼の愉しそうな笑顔が大好きだ。
ボクは彼に促され、しぶしぶ彼の隣に腰掛ける。
ニッと笑う彼の無邪気な笑顔が、ボクは大好き。
いや、それはお前がいるから……と言いそうになったのをギリギリのところで我慢した。だって恥ずかしいもん。
……忘れるわけ、ないじゃん。
あれがボクの、人生最大の出会いだったって言うのに……
あの日も、ボクは図書室で勉強しようとしてた。
もちろん嫌だよ、勉強なんて。
見ただけで反吐が出ちゃうぐらい。
でも、そろそろ頑張らないと赤点取りそうで……
赤点とったら、お母さんとか、色んな人に
怒られちゃう。
ボク怒られるのだけは大っ嫌いなんだ、勉強よりも、ずっとずーっと。
だから、しぶしぶ勉強しようとしてたけど、
全く分からない。
まぁそういうもんだよね。
嫌になって顔を思いっきり上げたら、目の前に君の顔があったんだ。
なんて失礼なやつなんだろう!!
第一印象はそれだった。
でも……
そう言って笑う彼の笑顔がとても眩しくて。
ボクはこの瞬間ほど、勉強嫌いで良かったと思ったことは無い。
そう、彼は立派な3年生。
来年はもう……いない。
ニコッと笑う彼を見て、胸が苦しくなる。
……する後悔よりしない後悔っていうけど、ボクは
どうもこの気持ちを伝えられそうにない。
ボクは心と正反対の言葉を吐いた。
……今日は、きぃの卒業式だった。
ボクは結局、何も言えずに終わってしまった。
目から雫が溢れ落ちる。
情けないよね、ホント。
自分で決めた癖に……ッ
《ガラガラッ》
突然彼に抱きつかれる。
なんで?なんできぃがここに?
ボクが戸惑っていると、彼はゆっくりと口を開いた。
彼はボクから離れる代わりに、
ボクの手を握って言葉を続けた。
ボクは驚きのあまり声を出せなくなった。
きぃがボクを好き?
それも、小学校のころから……?
顔を真っ赤にしながら彼は言う。
ボクの顔が赤いのは、きっと彼のせいだ。
ボクらは抱きしめあった。
時折軽いキスとかしながら、長いこと。
その時彼が見せた笑顔は、特別に輝いて見えた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!