第10話

「3人で彩る看板に、想いを込めて」
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2026/03/31 03:00 更新
3人しかいない教室。
窓は大きく開け放たれているけれど、
入ってくる風はぬるく、雨上がりの土の匂いが
混じっている。

床に広げた大きなベニヤ板を囲んで、
らぴす、みかさ、メルトの3人は、体育祭の
クラス看板を仕上げていた。




「……はぁ。結局、最後まで残ってるの、俺らだけになっちゃったね」




みかさが、静かな教室を見渡して、
小さくため息をついた。
放課後のチャイムがなってから、
もう一時間が過ぎている。
他のクラスメイトたちは、「部活があるから」
「塾の講習が…」と、申し訳なさそうな顔をしながら
一人、また一人と帰っていった。




「いいんじゃない? 人数が多いと進まないし。
…特に、うちのクラスは口だけ出すタイプが多いからね」




メルトが、作業をしながら淡々と言った。




「…ねえ、らぴす。
そこ、青色にするんじゃなかった?」




隣でハケを動かしていたみかさが、
俺の手元を覗き込んで、声を上げる。
俺はハッとして、筆を止めた。
無意識に、紫色に塗っていた。




「らぴす、マジでそれ、心音先輩の看板じゃないからね!? 」

「あはは…ごめん、つい」




少しだけ視線を落として、熱を帯びた頬を隠すように筆を動かす。




「心音先輩への執着を看板にぶつけるのはいいけど、
…あんまり塗り重ねると乾かなくなるよ。
……体育祭、来週なんだから」




メルトはそう言いながらも、
俺が塗り残した細かい部分を、何も言わずに
完璧に修正してくれた。




「…メルト、ありがとな」

「別に…。
やるなら本気で取り組みたいだけ」




素っ気ない返事。
けれど、メルトが手にしているパレットの隅には、
メルトが独自に調合した「影」の為の色が作られていた。
そっと、その色を置くと、看板の文字が立体感を持って浮き上がってくる。

メルトのそういうところ嫌いじゃない。
むしろ、安心する。


____明るい夕空は、確実に完成へと近づく看板に
残光を投げかけていた。








____








それからしばらく、教室には筆が板を擦る音と、
遠くで、練習に励む運動部の掛け声だけが響いていた。




「……できた」




みかさが筆をバケツに突っ込み、腰を伸ばしながら
小さく声を上げた。
看板の中央には、力強い書体で
俺たちのクラス名が、躍っている。
メルトが修正してくれた縁取りのおかげで、
素人目に見てもかなりの完成度だ。




「……明日、みんな驚くよ。
…こんなに看板が変わってるんだから」

「これだけ頑張ったんだから、当日は絶対晴れてほしいよね。
……らぴす、また心音先輩のこと考えてるでしょ?」




みかさに不意を突かれ、俺の手元がぴくりと跳ねた。
片付けようとしていた絵の具のパレットに、自分の指が触れてしまう。




「さっきからずっと、ボーッとしてたし」




みかさがニヤニヤしながら、俺の顔を覗き込んでくる。
図星だった。




「…わかったよ。認めればいいんやろ。
……先輩のこと、考えてたよ」




開き直ってそう言うと、二人は一瞬だけ顔を見合わせ、それから同時に吹き出した。




「…早く帰ろ。
俺、ゲームしたいし」




メルトに促され、俺たちはカバンを肩にかけた。
廊下に出ると、開け放たれた窓から夜の冷たい風が
吹き込んできた。
先刻までのぬるい湿り気はどこかへ消え、代わりに、
来週が晴れることを、予感させる
乾いた夜の匂いがする。


____重たい看板を仕上げた達成感を抱え、俺たちは夜に溶け始めた校舎を後にした。

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