しん、と静まる空気。
不安と罪悪感でいっぱいだった。
どうしよう、泣きそうだ
声が震えた。
思い返せばそうだ。
私が拾って、勝手に触って、そのせいでこんな現実離れした入れ替わりなんか起こって。
みんなが私を悪くないって言ってくれる。
その優しさが痛かった。
目に溜まった涙がもう限界だと溢れる。
膝にぽたりと雫が落ちた。
鉄郎が優しく抱きしめてくれる。
私は研磨、鉄郎は円香。
いつもの大きくてしっかりとした体じゃなかった。
ああ、鉄郎なのに鉄郎じゃないみたい。
それが悲しかった。
重い空気は続いていた。
けれど研磨がこのままでは仕方がないと言い、取り敢えずは今入れ替わった人のふりをして過ごすことになった。
円香の姿をした鉄郎と2年生の教室まで向かった。
円香と研磨は同じクラスなので、私達は離れなくて済んだ。
教室に入る前鉄郎から「伊池華はあんま喋らなくていいからな。俺が誤魔化すから」と言われた。
鉄郎は気遣いが出来てすごいと思う。
そう言う優しさも好きだなぁと改めて感じた。
二人で並んで教室に入る。
鉄郎の方は入った瞬間みんなからの言葉が飛び交っている。
流石円香の交友関係の広さだ。
一方私の方はこちらもある意味流石と言うのか、2、3人から軽く挨拶される程度だった。
でも今はそれがありがたい。
けれどそんな中一人だけ近づいてくる人がいた
元気過ぎるくらいの声。
そう山本猛虎、トラくんだ。
できるだけ無気力な感じで話す。
そんなことを言いながらより近づいてくるトラくん。
そんなことを言われたがなんのことかさっぱりだった
そしてやはり近い。
肩に手をかけて、真横にトラくんの顔がある。
流石に鉄郎以外の男の子とはここまで近づかないので緊張してしまう。
少し恥ずかしくて出来るだけトラくんの方を見ないように顔を背ける。
不安に思いつつも、トラくんが離れてくれて一安心だ
そんなことがありながらも人を避けながら過ごし、ひとまずは昼休みを迎えることができた。
研磨と円香の二人に連絡をとり集まることにした。
また今朝と同じ階段付近に待ち合わせをする。
二人が来た。
まずは今日この後どうするか相談しようと鉄郎が持ちかけ、お昼を食べながら話す。
研磨の提案に全員頷いた。
今日の授業はもう残り少ないので午前中と同じように過ごし、帰りは4人で固まって帰ることにした。
その後昼休み決めた動きで一日を乗り切った。
幸い研磨以外の3人は一人暮らしだ。
そのうえ今研磨の両親は出張に出ているらしく、1週間ほど戻らないらしい。
なんて都合の良いことだ。
伊池華の家
家に帰り、ふと思った。
メッセージやり取り
まさかの答えが返ってきて驚く。
平然と円香の体を見て触ったと言うことだろうか
そんな声が漏れる
なんとなくそっけない返事をしてしまう。
鉄郎はなんとも言えない見た目のキャラクターのスタンプを送ってきた。
仕方がない状況とはいえ、どうも少し嫉妬してしまう
というのはワガママだろうか。
そんなことを思いつつも私もお風呂へ入ることにした
ほんのちっぽけな嫉妬心を持ちつつ過ごした。
黒尾side
今日の朝ありえないことが起こった。
いつもとなんの変わりもない平凡な毎日を過ごせると思っていた。
けれど違った。
伊池華、研磨、円香、俺の四人で体が入れ替わったのである。
「ありえない」俺も最初はそう思ったがどうやら現実らしい。
どうにか元通りにならないかと試行錯誤したが希望は沈んでいった。
仕方がなくそのまま一日をやり過ごすことになった。
幸い俺が円香、伊池華が研磨という入れ替わり方だったので伊池華のそばにいることができてよかった。
ただし下手な真似はできないので遠目で見守ったり、休み時間に話しかけるくらいしかできない。
ある程度は普通に過ごせるが、一つ問題がある。
それは男達が積極的に伊池華に構ってくること。
中身は伊池華だが見た目は研磨だ。
事情の知らない男が集ってくるわけである。
特にバレー部のやつら。
トラなんかは伊池華の肩に手をかけて、ほとんどゼロ距離で話していた。
こんな状況とはいえ嫉妬はする。
俺は面倒臭い男だな。
そんなことを思いつつもなるべく伊池華と離れず過ごした。
これはいつまで続くのだろうか。
正直早く伊池華の見た目をした伊池華に会いたい。
流石に研磨の見た目をしているからいつものように揶揄ったりする気が起きない。
あー、あの可愛い反応が見てー
そんなことを思いながら眠った日だった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。