第17話

ある探偵社の日常8
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2022/12/15 03:00
その時、会議室の扉がノックされた
入ってきたのは、ナオミだ
ナオミは食事の乗ったお盆を持っていた
谷崎潤一郎
ナオミ
谷崎潤一郎
先に帰ったと思ってた
谷崎ナオミ
兄様と一緒に帰ろうと思って、待っていましたの
ナオミは手慣れた動作で会議室の机に人数分の緑茶と肉まんを置いた
谷崎ナオミ
兄様、今日も素敵ですわ
そういい、兄のうなじを指先で撫でた
会議室の全員が見なかったふりをした
谷崎ナオミ
ねえ兄様、約束のもの、鞄に持ってきていますわ。今夜はあれで__
谷崎潤一郎
え?あ、ああ、うん、ありがとう
全員が目のやり場に困る
宮沢賢治
肉まんおいしいです!
太宰治
ねえナオミちゃん。ついでに何かひとつ、案を出していってはどうかな?
太宰治
今、新人の入社試験について、皆で意見を出し合っているのだよ
谷崎ナオミ
まあ、それは素敵ですわ
谷崎ナオミ
でも私なんかに思いつきますかしら__
あなた
大丈夫ですよ
太宰治
ナオミちゃんが得意な領域の話でいいよ
谷崎ナオミ
そうですわね__
ナオミは頬を赤くしながら案を三つほど出した
残念ながらここに書けるような内容ではなかった




肉まんを食べながら、一同はしばし黙考した
会議室のホワイトボードには『依頼解決ノ合否』『社内ニ於ケル厄介事ノ解決』『八本モグ』『豊臣秀吉』『アルハラ』『太宰ヲギュウギュウ』『○○を✕✕シチャウ』『肉饅オイシイデス』と書かれていた
谷崎はちらりと国木田を見た
こうなることは二人とも予測済みであった
この会議の前、二人が打合せしていたのも実はこのためであった
その打合せは、ある理由から太宰には内緒である
打合せどうり、国木田が口を開いた
国木田独歩
太宰、そろそろ案を絞ったらどうだ?
これは三つのうちひとつめだろう。いい加減に決着をつけないと夜が明けるぞ
国木田独歩
この中から選べとは云わんが基本方針くらい決めておいたらどうだ?
あなた
そうですね、このままじゃ埒が明かないですから決めた方がいいかと
太宰治
ええ?皆でこうやって、議論するのが楽しいのに。朝までやろうよ
国木田独歩
おい。楽しかろうがすべきことをすべきだろうが
国木田独歩
未成年もいるのだぞ。いい加減に進めろ
太宰治
まだメンツが揃ってないからなあ
太宰治
乱歩さんがまだ来てないでしょう。全員揃わないと試験内容は決められないよ。
谷崎ナオミ
あら
谷崎ナオミ
乱歩さんなら、事務フロアにいらっしゃいましたけど
全員
え?
谷崎ナオミ
ついさっき通りかかった時にみましたわ。砂糖菓子の型抜きを熱心にされていましたけど
太宰治
流石は乱歩さん、動じないなあ
あなた
ですね……まだいらっしゃるといいんですけど……
谷崎ナオミ
ちょっと私、呼んできますわ
あなた
ありがとうございます
ナオミは小走りで会議室を去った
太宰治
じゃあこれでもう安心だね
太宰治
乱歩さんの手に掛かれば何でもばっちり確定だよ
国木田独歩
確かにそうだが、乱歩さんの手を煩わせるほどの事か?
国木田独歩
あの人の頭脳は事件解決のためのみに振るわれるべきものだ。こんな些事に知恵を拝借する暇があるなら、解決を待つ難事件が幾らでもあるだろうが
その時、会議室の扉から乱歩が姿を見せた
江戸川乱歩
やあ君たち!相変わらず益体もない会議で頭を無駄遣いしているそうじゃないか
江戸川乱歩
全く駄目だねえ仕方ないねえ、探偵社は僕がいないと全く駄目だからなあ!
あなた
お待ちしてました乱歩さん(同時)
太宰治
お待ちしてました乱歩さん(同時)
太宰治
さっき話した入社試験の会議です。おひとつどうですか?
江戸川乱歩
地味で面倒なことに頭を使うのは厭だなあ
江戸川乱歩
そのうえ新人が有能だろうが無能だろうが、僕には猿の毛ほども興味はないよ。
江戸川乱歩
世の中には二種類の役回りの人間しかいないんだ。僕に事件を解決されて喜んで泣く奴と、事件を解決されて困って泣く奴だ!
太宰治
まさにその通り
江戸川乱歩
けど無論、僕の異能に見抜けぬ真相はない。それは殺人事件でも何でもない、しょーもない些事であっても同じだ
江戸川乱歩
どうせ僕は明日出張で試験には参加できない。だから試験不在の置き土産として、この会議の行く末を僕の【超推理】で予測してあげてもいいよ

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