どれだけ一緒にいたと思っているんだ。ひと目見た瞬間に目の前の仲間が本物ではないことに気づいている。
幸いなのは最愛のあのお方はそのままだということかな。
……全く。なりすますならもっと詰めるところがあっただろう。
ギータは何故か己の尻尾を追いかけ回して遊んでいる。……尻尾の存在に初めて気がついた仔犬か?
楽しそうだからそっとしておこう。
腕相撲……?
自分で言うのもなんだが僕の腕はドランのそれよりかは遥かに華奢だ。負け試合に挑みたくはないのだが。
いつの間にかやってきたギータとベスが審判を取り仕切るらしい。
ギータの合図と同時にものすごい力が組んだ手のひらに伝わる。己の腕力で押し返せるだろうか。
だが、相手はドランといえど偽物だ。体格は同じだろうが偽物に負けるのは些か不服だ。
僕のありったけの力を腕に込めてドランの手を押し返す。
審判の応援の矛先はドランだった。この3人は仲間なのかな。
僕には応援のチカラがないのか。……応援、ね。
何故か脳裏にプリンセス・リップルが思い浮かんだが、今は目の前の勝負に集中するべきだ。
腕力に関してはプリンセスの攻撃を片手で受け止め、さらにプリンセス・リップルを片手で吹き飛ばすほどだ。
だがそれでもドランの力を上回ることはできない。
両者共に膠着した状態が続いている。
そうだ、あれを使おう。
僕は空いているもう片方の手でインカムマイクを呼び出した。
「力」勝負だろう?ならばこちらの「チカラ」を利用しても構わないということだろう?
ギータが憤慨している。だか、お前はどうだ、ドラン?お前はどう立ち向かう?
……リップル!?
流石の審判たちも想定外だったようだ。
……しかし、声はドランなのだが歌い方がリップルのそれだ。
双方歌って仕舞えば戦況は変わらない。
目の前の相手は誰なのだ?リップル……みなもなのか?体格はドランで多少のバフはあるだろうが僕とここまで張り合えるほどか?
……それを聞くのは野暮だろうか?少なくとも今は「ドラン」に合わせてやろう。
歌の応酬は止まりを知らない。両者共に譲らない。
審判は飽きたのだろうか?確かに、ここまできたら体力勝負だ。どちらが先に疲労の限界に達して手を離すか。
強制的に終了させられた。
ドランは相当頑張ったのか呼吸が乱れている。
……僕?僕はいつもと何も変わらない。
この勝負、僕の「勝ち」でいいかな?
ふとドランの方を見たら、こちらの興味を無くしたのか、ドラムスティックで編み物を始めていた。ベスとギータもその様子を見に行ってしまった。
僕が入る理由もない。少し離れたところでティータイムでもしよう。
甘い匂いを嗅ぎつけたのだろうか、お茶菓子を準備していたら背後にベスがいた。
となると、香りから甘いピーチティーにしよう。
あいにく、本物の桃はなかったが茶菓子がちょうど桃を模したものを見つけたのでそれを追加した。
辺りの香りが全て桃になったがこれはこれでいいだろう。
素直な反応だ。普段のベスならば絶対に見せないであろう表情もしている。うん、かわいい♡
あの時から大好きな金平糖を口に入れる。星屑の形はなかなか攻撃的な見た目だが、いざ口の中に入れればその温度でたちまち溶けてしまう。舌にまとわりつく甘さを紅茶で一気に流し込む。
これぞ至高のひとときだ。
騙せていたという自覚があったのだろうか?目の前の「ベス」は少し悔しそうな表情をしている。
全く、かわいいやつめ。
翌朝
さて、本当に戻ったのだろうか?そろそろいい時間だ。起こしに行こう。
相変わらず筋トレをしていた。これは確実にいつものドランだ!
ギータの部屋に行った。気持ちよさそうに腹を出して寝ていた。……風邪をひいてしまうよ。
この寝相……紛れもない、ギータだ。
起こそうと揺さぶりをかけつつも慎重にお腹をしまってあげる。
眠い目を擦りながらようやく起きてきた。
次はベスだ。
ああ、こちらもいつものベスだ。
糖分が足りていないのか?僕は懐から小さいプレーンシュガードーナツを取り出した。
そのドーナツは目を離した一瞬の隙に消えていた。
今思うとあの不思議な1日はもしかしたら夢だったのかもしれない。過去には戻れないからそれを確認する術もない。
そもそも憑依していたのは誰だったのだろうか?プリンセスたちにとても近いようで、でも違う。また会えるのだろうか?
──これ以上過去に浸っても仕方がない。
僕は次の獲物を探すべくアリスピアの様子を見るモニターをつけた。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。