物心がつく前から、俺にはレラしかいなかった
父と母はいつしかいなくなった
よく二人が行っていた木の実の成る森で、鉄の臭いがした
何かが焼けた臭いがした
そこに、綺麗な青と緑の石が落ちていたのを覚えている
俺はそれが何なのかわからず、持ち帰ろうとした
父と母がしていたように、綺麗なものを質屋に持って行けば暮らしやすくなると、レラが喜ぶだろうと
そう思っていた
しかし、レラはそれを見た途端泣いた
涙を堪えようとしたのか顔が引き攣っていて、綺麗な顔がしわしわになっていた
そしてレラはその石を己の自室へ持って行き、以降それらの話題を出す事は無かった
俺達は茨の国の王都から少し離れた辺境に住んでいた
魔法も、魔力の扱い方の練習も存分に出来た
故に、狩りにはさほど困らなかった
しかし、ある時城からの使者を名乗る者が来た
レラはそれを一蹴していたが、奴らはしつこく外に出るだけでも警戒を余儀なくされた
それが続いて3日経った頃だろうか、俺は聞いてみた
「なぁ姉さん、あいつら、城の使者なんだろ?
つまり女王からのお呼ばれだ、行かなくていいのか?」
それにレラはこう答えた
「いいの!今まで女王様とは何の関わりも無かったし、兵士達が本物かどうかも怪しいじゃない
それに、今更ここを離れたくないもの」
見るからに不機嫌な様子だった
そんなに嫌なら俺も答える義理は無いなと
そう感じた
「ネロ・ラティス、ご同行願おう」
レラが不在の日、また兵士が来た
しかし同意する気もないので俺もその話を蹴る
「断る、着いていく理由が無い」
「いいや、ある。女王陛下がお待ちだ」
「だから、俺達は女王に謁見する理由が無いと言っている」
「はぁ....頑固な子供だな、ならこの際理由を話そう
近頃、この付近に魔獣の群れが沸いている
そして、ここにはそれに気付かず魔法を使う子供達がいるらしい
女王陛下は、その子供のせいで包囲網が崩れる事を警戒している」
「....で?」
「その子供らは孤児と聞いた。故に、保護に来た」
「孤児....ねぇ...」
確かに孤児ではある
しかし俺にはレラがいる
別に保護されなくても生きていける
それに俺達もそろそろ80歳、保護された所で何処に行くと言うのか
「あーっ!また来たの?!しつこいよ!!」
考えていた時、レラが帰って来た
「おかえり」
「ただいま、じゃなくて!
話さなくていいのよこんな奴らと!」
「こんな奴ら....」
近衛兵らしい奴が衝撃を受けている
流石に今のは同情する
「レラ、もう少し言い方というものが....」
「いいの!保護だかなんだか知らないけど、私にはネロがいるので!生きていけますから!!」
「.....仕方ない、連行しろ
そろそろ姫様が癇癪を起こしてしまう」
「ちょっと....離してよ!」
抵抗するレラを抑え付けている
反対に俺は抵抗をやめた
きっとレラは寝かせられる、情報を見聞きするためには起きていなくては
熟練の兵士に勝てるわけが無いのだから
「兵が手荒な真似をしたと聞く、詫びよう」
「....」
「いえ、構いません、傷はありませんので」
レラは拗ねたのか無言だ
仕方ないから俺が対応をする
「それで、保護というお話ですが....俺達は」
「違う、それは建前だ」
「「.....え?」」
建前と、あっさりそう告げるこの人に
レラも反応していた
「本題を話そう。
我が娘、マレノア直属の兵になって欲しいが為に
そなたら二人を連れて来た」
「はぁ?!兵士?!そんなのお断りです!帰らせて!」
「レラ、落ち着け....」
「落ち着けるわけないでしょ?!
兵士って何するかわかってるの?いざとなったら殺さなきゃいけないんだよ?!人間も、妖精も!」
「聡明な子だ、その年で色々な事を知っている」
怒っているレラを見て、女王様....マレフィシア様はそう言って笑っている
いや、止めてくれ、頼むから
「しかし思い違いをしているようだな
あくまで私が望むのは娘の守護であり、殺しや戦は今後のそなたらの意思を尊重する
やりたくなければ...」
そこまで言って、マレフィシア様は異音に口を閉ざした
「おい!そっちは女王陛下が話し合いをっ....」「ちょっとだけだから!早く来なさいよ!」そして扉を開けて何かが入ってきた
「お母様〜!」
「マレノア.....入ってはならないと言ったはずだ」
「だって見てもらいたいものが....
あれ、その子供達がお話し相手なの?」
「ま、マレノア.....早く戻れっ....」
マレフィシア様によく似た少女と、黒い髪に所々赤色の混ざった少年が入って来る
マレノア、という事はこの子が姫様か
お転婆娘みたいだ、苦労人なんだな、あの人
「...あなたがマレノア?」
レラが目をぱちぱちとさせて問う
「失礼よ、呼び捨てなんて」
「レラ....」
「マレノア...様?姫様?」
レラが呼び方を模索している間、黒髪の人が必死に謝っている
「リリア、お前が着いていながら何故....」
「申し訳ありません....」
リリア、と言うらしい
「....あの者達が近衛兵候補ですか?」
リリアがこちらを見て言う
「ああ、そのための交渉をしていた」
「へー....」
値踏みするような目で見て来た
なんだ、と思い俺も見返す
「....俺より弱い」
「..........は?」
少し間を置いたその発言に、流石にイラついた
弱いだと?お前より?
「マレフィシア様、あいつらよりもっと適任がいるかと」
「そうだろうか、現にマレノアは既に気に入ったようだからな」
「へぇ、レラって言うの!ねぇこっち来てよ、美味しい木の実のなる所があるの!」
「お城の中なのに?」
「えぇ、この前見付けたの!リリアも早く来なさい!」
「はいはい....」
慌ただしく3人が去る
いや、待て、レラまで連れて行かれたら真正面で話さなければならないじゃないか
「はぁ....あんな調子でな、リリアだけでは手に負えないのだ」
「.....お守りをしろと...?」
「そうなる」
「それをして俺達になんの得が?」
「そうだな....生活で苦労する事はなくなるだろう
無論教養は身に付けてもらう、そこだけは譲れない」
「....わかりました、その命、お受けします」
危険と隣り合わせではない
これが1番大きい理由だが、レラがあの姫に気に入られた以上、離して貰えない気がしていた
あの日からレラと養成学校に通う事になった
リリアも一緒だ
1度実戦をしたのだが、確かにリリアの方が強かった
俺は対人向けの魔法の練度が低かったから
しかしこの程度なら取り返せる、負けっぱなしは気に入らない
数十年共に過し、なんとなく察している事があった
リリア、君レラを好いているな
マレノアに許嫁が出来たと同時期に意識し始めた
レヴァーンとマレノアにつられたか?
「俺は君を兄とは呼びたくない。」
「なんだよ急に気持ち悪い事を...」
「応援はするが、兄とは呼びたくないからな」
「だから何の話をしてんだよ!」
一度、人間の祭りへ三人で行った
レラが行きたいと言うから着いて行ったが、リリアも何故か着いてきた
心底嫌そうだったのに.....
場所は熱砂、最近出来た祭りだそうだ
夜に花火が上がるらしい
「わぁ!何これ?!固い....木の実?」
「お嬢ちゃん他所の国の人だね?それはココナッツって言ってなぁ」
店に寄り道しては色々見たり聞いたりしている
俺達は別に話したくもないので少し離れた場所から着いて行っている
「あちぃ.....」
「砂漠なんだ、当たり前だろう、なぜ薄手の服を着て来なかった?」
「俺は元々日光が苦手なんだよ....魔法で防ぐにも限度ってもんが....」
「骨董屋を見れば黄昏の遺物くらいはあるんじゃないか」
「黄昏ぇ?あの....600年前滅んだ国か?」
「ああ、魔法帝国だったらしい
あの国も砂漠のど真ん中にあったんだ、暑さを凌ぐ魔法具程度あるかもしれないぞ」
「あっても金がねぇよ....茨の谷の貨幣出したら一発でバレるだろうが
何のために耳も魔力も誤魔化してると思ってんだ」
「はぁ...さっさと和平を結んで共通貨幣になればいいのに....」
「レラに渡した分でも大分苦労したんだろ?しばらくは難しいだろうな、人間共があんな様子じゃ」
「ああ、そうだな」
「ねぇリリア、ネロ!食べ物のお店いっぱいあるよ、何か食べる?」
「元老院の奴らと会食した時に出てきたような飯じゃないのなら食う」
「俺は何でも」
「またそうやって難しい注文付けて....ネロ、私勝手に買ってくるからね?文句言わないでよ?」
「言わない」
「絶対だからね!」
「.....あんなにお転婆だったか?」
「元からだ、よく知ってるだろ」
「ああ知ってるとも、当たり前だろうが」
「ならなぜ聞いた」
「....昔よりもあのお転婆がマシになった気がしただけだ」
「ふっ」
「鼻で笑うなよ、どういう意味の笑いだ」
「素直じゃないな」
「うるせぇ!」
レラが戻ってくると、氷菓を3つ持っていた
いつも通り味の好みを把握されている、甘さが控えめだ
リリアも気に入ったらしい
レラが帰ったらマレノアにも食べさせると意気込んでいた
作れるんだろうか....ひとまずリリアは厨房に立たせないでおこう、毒物を姫に食べさせる訳にはいかない
夜、夜闇に咲く色とりどりの火の花を見た
リリアもレラも魅入っている
茨の谷では絶対に見られないようなその花は、強い光のせいでしばらく網膜に焼き付くことになった
でも...綺麗だと思った
これを見るためになら、もう一度行ってもいいかもしれない
またいつか、三人で
近衛兵としてマレノアの下についた時、俺とレラ、リリアは随分と持ち上げられるようになった
リリアなんて、もう右大将として就任した
俺と迷ったがリリアにしたとマレノアが言っていた
少し前野ばら城という城にマレノアが移り、それに伴い俺達も移動した際決まった事だった
正直、移動出来て良かった
もう元老院のやつらの相手はしたくない
いつもリリアに好き勝手言って、もうとっくに死んでいるんだからさっさと星に還ればいいのに
人間との戦が始まってしまった
近隣諸国が茨の谷の土地を狙って宣戦布告をした
そこで初めて気付いた
あの時残っていた鉄の臭いは、焼け焦げた臭いは、こいつらのものだ
人間共、ああそうか、お前達か
お前達が、父と母を殺したんだな
質を集めた精鋭部隊、その相手をリリアとレラの部隊に任せ、半端者の数で攻めるための集団を俺の部隊が受け持った
バウルもこちらにいる、恐らく何とかなるだろう
馴染んだレイピアを手に、前線を駆ける
どいつもこいつも雑魚ばかり、早く滅んでしまえ
これ以上こちらに来るな
平穏を返せ
「.......は?」
殲滅を終え帰城した時、リリアから告げられた一言が信じられなかった
「リリア....今、なんと言った、冗談ならば面白くないぞ」
「冗談じゃない、レラが死んだ、事実だ」
緑色の宝石を見せながら、そう言う
レラ、これが?これが、このただの石が?
「....そう、か」
言いたい事は山ほどあったのに
口から出てくれたのはその三文字だけだった
昔リリアから誕生日だからと貰った懐中時計、その針をレラの魔石に変えた
妖精族から生まれる魔石は純粋な魔力の塊であり、強大な力を持つ
俺の助けになってくれるだろうと、レヴァーンが加工してくれた
実際、本当にそうだった
大型魔法を使っても前より疲れない
これが君が与えてくれた祝福なのか
レラ、俺の助けになりたいのならどうして死んだんだ
...俺達の親は人間に殺されたのに、どうして人間に友愛情など持ってしまったんだ
人間と妖精が仲良くなれる事など無いと、宣戦布告された時点で気付けばよかったのに
あれからまた時が経った
一度落ち着いた人間との睨み合いがまた悪化し、兵士達も気が立っている
そして、優勢だった妖精族に天敵が現れた
名は知らない
しかし、その力や姿から「夜明けの騎士」と呼ばれた
夜明けの騎士は強かった
一度剣を交えた事があるが、一合で勝てる見込みを七割ほど失った
厄介なのはあの光属性の魔法だ
夜の眷属にとって光属性は天敵であり、昼の眷属に祝福を受けているあいつと相性が良い
対してこちらは闇にまぎれ夜を支配する者
照らされてしまえば不利になるのは当然の事
あれを討たなければ勝利の見込みは少ない
兵たちも消耗している、早めに対策をしなければ
外交に向かったレヴァーンが返ってこなくなった
奴らの城へ文を届けに行く、それだけのはずだった
しかし、いつまで経っても、マレノアが予定日に卵を産んでからも、レヴァーンが戻る事は無かった
リリアはここ最近毎日探しに外へ出ている
警護を俺とバウルに丸投げし、レヴァーンを見付けようとしている
マレノアも、顔には出ていないが内心はどうだか...
レヴァーンの捜索取り止めをマレノアが命じた
そして空いた左大将の座に俺を任命した
いいのだろうか、そんなにあっさりと
お前の伴侶がいた席を、俺に座らせていいのか?
それはつまり、死を認めたと同義だというのに
リリアが指揮を任された小隊での任務中、鉄の者が付近に陣を張り荒らしていると伝令があった
「はぁ....面倒だ、蹴散らしに行くぞ」
「賛成する」
小隊と言っても、俺たちどちらかは城に残るべきだったのでは無いだろうか
速度か?効率を重視したのか
マレノアの考えは未だによくわからない
鉄の者の拠点を乗っ取り野営を繰り返し、奴らの本拠地である塔へ向かう
時々鉄で出来た機械を使ってくる事もあったが結局はからくり、一発が重い分動きが遅い
補充している内に5人は殺せる
夜明けの騎士だけを頼りにしているからこうなるんだ
さっさと己の国へ帰ればもう誰も死なぬと言うのに
塔へ着いた
しかし人の気配は無い
元々ここは妖精族の物、中には生き残りがいるのだろうか?希望は少ないが、後程調べてみよう
背後からバンっと音がした
扉の閉まる音だ
.....罠か
「チッ....ハメやがったな!」
「右大将殿!!
野ばら城が包囲されていると伝達が....」
「....バウル、まさかとは思うが、夜明けの騎士もそこにいるのか」
「そのようです、我々の居ぬ間に奴らッ....」
「あぁ、クソ!
だから俺達のどっちかは残しとけって言ったんだ、あの我儘姫!」
「片方残していたところで変わらないだろう
二人いてやっと勝機が見える程だ」
「今はんな事いい!さっさと戻るぞ、蹴破って....」
「待て、何か来る」
「鉄の者か?!」
「帰さねぇってか....上等だ、ぶち壊してやる!!」
リリアがあのからくりを破壊した後、俺が外を取り囲む兵を雷で粗方始末し、混乱に乗じて脱出する事にした
歩く時間が惜しい、早急に城へ戻り加勢する
そういう作戦となった
転移魔法、使えるようになっていて正解だったな
魔力消費が大きいからあまり使えなかったが、温存していたのが功を成した
城付近はやはり乱戦だった
魔鉱石と人間の死体が幾つも落ちている
しかしここで俺達の存在がバレてしまえば間違いなく奴が来る
故に魔法は使えない
まずはマレノアの元へ向かわねば
「ふざけるな!お前に何かあったらどうする?!
真実の愛でしか、親の愛情でしかその卵は孵らねぇんたぞ?!」
マレノアが逃げないと言うのだから、リリアが説得をしている
卵は.....マレウスは、今は俺の手の中だ
マレノアの言っている事は筋が通っている
マレノアが所持しているあの石が目的ならば、奴らはマレノアの相手をするしかなくなる
その隙に俺達が黒鱗城へとマレウスを持ち帰れば、来るとしても雑魚共を蹴散らし確実に安全は守られる
しかしリリアの言う事も最もだ
マレウスは今やマレノアにしか孵せない
そうなればマレウスは弱っていくだけだ
マレフィシア様は子を生める歳でもない
ドラコニアの血筋が途絶えてしまう
それに卵を俺達で孵せなど、無理な話だ
「マレノア、敵兵の相手など我ら近衛兵がする事だ
よく分かっているだろ?お前がそれをする必要は....」
「だからだ」
「は...?」
「私だから....母だからこそ、征くのだ
これは誰にも譲れぬ」
その言葉に、何も言えなかった
ついこの間まではお転婆で我儘な姫様だったのにいつからこんな覚悟を...
....いや、初めからか、子を成したその時から...
「それでお前に何かあったら元も子もねぇだろうが!!」
「リリア」
「あぁ?!」
それでも尚マレノアに食ってかかるリリアを止め、言う
「マレウス様は必ずお守りします、安心なされますよう」
「はっ.....ネロてめぇ!」
「くどい。ネロが命を受けるというのならお前も連帯だ、リリア、去れ」
抵抗するリリアごと、マレノアの茨が外に溢れていく
俺はそれを追う
最後に見たマレノアは、こちらを....マレウスを愛おしいような目で見ていた
「夜の祝福あれ」
僅かにそう言う彼女の声がした
「お前!何考えてやがる!」
「あれが命令だ、受け入れろ」
「んな事言ってもなぁ!」
「右大将殿、どうか心をお鎮ください
今すべき事は、卵様を黒鱗城へと送り届ける事でしょう」
「バウルの言う事が最もだ
それに、さっさと行って帰ってくればいい話、そうだろう?」
「間に合うとでも思って」
「出来る出来ないではない、やるかやらないかだ」
「ッ...わーったよ、やりゃいいんだろ!
バウル!卵持ってろ、追っ手は俺達が斬り伏せる!」
「承知いたしました!」
想定通り来た追っ手を追い払いながら森を走る
しかしキリがない、このままでは持たないな
リリアも俺も倒れてしまえばマレウスが危険だ
かくなる上は.....
「リリア、バウル、先に行け」
「....は?!」
「左大将殿?!あの数をお一人で....正気ですか?!」
「ああ」
「いいや正気じゃない!いくらお前でも疲弊した状態であの数は無理がある!」
「何にせよ、この調子では追い付かれる
心配せずとも、俺があんな数だけの集団にやられる訳がない」
「さっきも聞いたんだよそんな言葉は!ならまだ消耗の少ない俺が残る、その方が合理的だろ?!」
「バウル」
「...」
「聞いてんのかネロ!」
「.....俺よりも君のような奴が必要だ、リリア」
この国にも、マレウスにも
俺のような冷たい奴よりも
だから
「リリアを頼む」
「....はっ」
「ネロてめぇ!!」
「夜の祝福あれ」
「まっ」
....騒がしかった声が途絶える
目を開ければ、そこにはもう誰もいない
少し離れた場所へ転移させた
そうすれば、君は戻る選択をしないだろう?
「さて....あんな事を言っておいてみすみす死んでやる気もないが」
怒られるだろうな、それでいい
リリアにもマレノアにもふざけるなと怒鳴られ雷を落とされる
それでいい、その騒がしさが日常の証なのだ
宥めるレヴァーンの声も、拗ねて口を効かなくなるレラに困らされる事ももう無くなってしまったが、この数少ない日常を取り戻さなければならない
「死にたい者から前へ出ろ、人間」
そのために、お前達は邪魔だ
「はっ、はっ、はぁ....ふー....」
消耗が激しい
一度に魔力を消費しすぎて体が混乱している
視界が歪む
吐きそうだ
全身が痛い
撃たれた場所も斬られた場所も刺された場所も全てが
「とま....る、な」
止まるな
止まるな
まだ終わりでは無い
近衛兵の、左大将の任を全うしろ
守るべき主を守らねば
動け、頼む
もう後悔はしたくないんだ
地に膝を付くな、剣を土から抜け
走れ
「はーっ....はーっ.....」
晴れた雷雲のせいで、朝日が見える
さっきまで暗かったここが、明るい
マレノアの魔力が、消えた
「まれ.....のあ....」
剣を赤く染めた夜明けの騎士の目の前には、緑色の魔石が転がっている
そして奴らの目的だった石を回収する男が見える
他の兵が騒いでいる
討ち取った、我らの勝利だと
夜明けの騎士に頼り切りだった貴様らに喜ぶ権利などあるものか
ああ、騒がしい、雑音がする
なぜ喜ぶ
なぜ祝う
我ら妖精族を恐れたその口で、我ら妖精族を殺したその手で、お前達は何を祝う
ふざけるな、ふざけるなよ
お前達人間はまたそうやって
どうしてそんな事が出来る
「下等生物の.....分際で....」
我らが姫を、愚弄するのか
「敵襲ーーッ!!」
「なんだ貴様っ」
「うわ、来るなぁ!!」
雑音がする
気持ちの悪い、ヒト属の鳴き声
俺に恐怖の目を向ける奴の眼球を刺した
俺に何かを言う騒がしい奴の喉を潰した
「雷よ」
耳を劈くような雷鳴が響く
耳鳴りがする、奴らの声が聞こえにくくて良い
どこからだろう、身体の中でピシピシと音がする
石が割れるような音が
関係ない、考えるな
残りはどこだ
宣戦布告をしたあの男はどこだ
四肢を切り落として野ざらしにしてやろう
.....ああ、いた
.....甲高い音を立てて、俺の剣が防がれる
貴様、またか、また邪魔をするのか
また俺の前に立ちはだかるか!夜明けの騎士!
「退け!!」
「どうか落ち着いてくれ、ラティス殿!
これ以上無駄な争いをする必要は無い!」
無駄な争い?
無駄だと?
「同胞の死が無駄だと言うのか!?
そもそも貴様らが来なければあった命だろうが!」
「ッ.....言葉を誤った、謝罪させてほしい!
俺が言いたいのはそういう事では...」
「今更言い分など聞く気は無い!」
夜明けの騎士、お前だけは認めてやる
騎士としてお前は素晴らしい人材だ
友好を築けていれば良き師となっていただろう
だからこそ、許さない
お前だけは
何分剣を交えただろうか
一度も奴に俺の刃が届かない
寸での所で避けられる
受け流され、弾かれる
前より酷い
当たり前か、俺は今満身創痍と言っても過言ではないのだから
しかしそれを言い訳にはしない
言い訳などしない
前よりも成長した自信はある
だから届くはずだ
後一歩、後一秒、いや一瞬でいい
あと一瞬、早ければ
奴に俺の剣は届く!
「刹那を生きよ!」
....身体がだるい
今までの比にならない程だ
今のはなんだ?知らない呪文だ
多量の魔力を持って行かれた
でも、何故だ
夜明けの騎士の動きが遅い
.....ああそうか
これが俺の固有魔法か
もっと早く発現してくれれば良かったのに
手応えを感じる
鎧の隙間に先端が刺さっている
届いた
直後、世界の速度が戻る
首に迫る剣を避け、後ろに下がる
肩に刺したんだ、動きにくいだろう
「....今のは...」
狼狽えている
今が好機だ
だというのに
ああ、くそ、何故だ
視界が暗い
見え辛い、なんでこんなに暗いんだ
日は出ているはずなのに
足が動かない
呼吸が怪しい
手に力が入らない
「....貴殿も、もう限界なはずだ
妖精族にとって魔力の消耗は死に直結する
これ以上は死んでしまう」
....情けをかけられている
要らない、そんなもの
夜が明けた、夜の祝福は無い
どうする、虚勢を張ったところで限界は限界だ
しかし夜明けの騎士だけは討たねば
また攻め入られたら次は本当に....
.....秒針
懐中時計の針はレラの魔石
妖精族が他者の魔力を取り込むのは危険だ
しかし、レラはどうだ
俺の片割れ、俺と同じ生命から生まれた者
きっと、順応できる
少しでいい、力を貸してくれ、姉さん
視界は相変わらず狭いが、手足は動く
魔法を使う度身体の奥で何かが割れる音がするが、まだ扱える
夜明けの騎士にも多く傷を与えた
このままなら押し切れる
もう一度、あれが使えれば
「刹那を生きよ」
成功した、動きが遅い
夜明けの騎士が焦ったような顔をしている
しかし無駄だ、その首を断ち切ってやる
奴の首に刃が入った時、腕に矢が刺さった
倒れる人間が狭くなった視界の隅に見える
生き残りがまだいたのか
そのせいだろう、魔法が解けてしまった上に手元が狂った
俺が腕を振り切る前に、夜明けの騎士が俺を捉える
ダメだな、避けられない、防げもしない
結局、俺の剣は届かない
何も守れない
何も勝ち取れない
こんな事なら衛兵になど着いていくべきではなかったな
今更、遅いか
すまないリリア、どうか無事で
微かに声がする
夜明けの騎士、な気がする
妖精族の城へ送れと誰かに命じている
....俺はまだ生きているのか
いっそ殺してくれれば良いのに
目を覚ました時、牢の中にいた
黒鱗城ではない
マレフィシア様の気配が無いから確実だ
人間の気配が多くする
....捕らえられたか
そういえば髪が切られている
レラと揃いの髪が
首元の風通しが良い、違和感しかない
仕方ないか、妖精族の部位は儀式などの魔力確保に最適だろうから
「....魔法が」
魔法が使えない
無茶をしすぎたか?溜まっている感じもしない
器が傷付いた....あの音の正体はこれか
剣も無い、魔法の使用も不可能
筋力も握力もそこまである訳では無い、せいぜい林檎を潰せる程度
格子も妖精族にとって嫌なもので作られている
脱出は不可能、か
あれから何日経っただろうか
いつの間にか眠らされ、いつの間にか運ばれている
途中、白衣を着た人間のいる所へ連れられ、拘束され、片目を抉られた
....マレノアとレヴァーンが綺麗と言ってくれたのに
代わりに誰かの目を入れられた
夜の眷属の誰かだ
他者の魔力が入り込んで吐き気がする
視界が回って本当に気持ち悪い
吐き気と争っている内に、また眠らされた
首に何かを刺される感覚で目を覚ました
何かの薬液だろうか
しばらくしたら何故か気分が高揚してきた
これまで生きてきてどん底にいるはずなのだが、おかしいな
全てがどうでも良くなりそうな程、気分が良い
しかし呑まれてはいけないと本能が言っている
こういう時は従った方がいい
抗おう
なにかの効果が切れた後、異常な程身体が重い
そして気分もだ、先程と一転して最悪な気分になった
これはあれか、一部の人間の間で流行っているというよく分からない薬
あれは摂取したらよく分からない中毒症状を起こすと言われていたような気がする
こんな事ならもう少しちゃんと情報を聞いておくんだったな...
最近、よく記憶が無くなる
あの薬のせいだろうか、過剰摂取なんだろうな
でなければ幻覚や幻聴など見ないし聞かない
知り合いの声がする
恥晒しと、役立たずと罵ってくる
.....彼らは、そんな事を言わない
よく俺の持ち主がころころと変わる
その分の時が経っているだけかもしれないが
その度色々されているようだが、生憎俺にはその時の記憶は無い
身体に細工をされればすぐにわかるし、迂闊に妖精族に近寄れば危ないと脳の無い人間共でも分かっているはずだ
一応、人間など殺そうと思えば殺せる
しかし、殺したところでどうなる?魔法も使えない俺が、どこかも分からない場所から茨の国に帰れるとは思えない
そもそも帰ったところでどんな顔をすれば良いのやら
.....そうだ、魔力を切り詰めて隠していた時計
あれを持てば器の傷が良くなるのではないだろうか
あれから随分時が経った、少しは回復しているはず
なぜ今まで思い付かなかったんだ
..........
無い
落とした?まさか、必ず持っていたんだ
リリアからの貰い物だ、レラの一部が入った物だ、俺が無くすわけが無い
.....今の人間に聞いた
らりってる間に見付けたから売ったと
らりってるとは何だ、最近の人間の言葉はよく分からない
それより....売られたのか
高値がついたんだろうな、そうでなければ許さないが
そもそも値段で価値が測れるような代物では無いんだ、それを妥協したくらいの値段でなければ許さない
俺が瓦解して行くのを感じる
レラと同じ髪も
マレノアのレヴァーンが美しいと言った瞳も
リリアが認めてくれた実力も
彼らからの貰い物さえ、俺の手から離れて行った
次に離れるのはなんだろう
命か、自我か?
....出来れば、命であって欲しい
ぼやけた意識がほんの少しだけ覚醒した事があった
下に妖精族の女がいた
ネロ様と聞こえた気がする、城にいた者だろうか
ちゃんと目を覚ましてからは、何故か背中が痛い
筋肉痛か?珍しい
変な体勢で寝ていたんだろうか
長く時が過ぎ、おーくしょんとやらに出された
そこで青髪の男と、緑髪の女に買われた
両方人間だ
これまでの人間とは違い、こいつらは俺を幽閉する事は無く、使用人になってほしいと言った
なぜ頼む?お前達の所有物だろうに
使用人、城で見た事がある
あの程度の事なら可能だ
拒否はしなかった
それからブルームという貴族の家の使用人となった
魔法の使えない出来損ないの妖精族
それに加え薬物の後遺症
こんな欠陥品を貴族の使用人にして世間体はいいのだろうか
.....そう思っていたのだが、青髪の方は魔法士だったようで
俺の治療もしてやると言った
断る理由は無いので受け入れた
あの二人には娘がいる
旦那様に似た綺麗な青髪をしていた
もうじき祝言を挙げるのだと言う
.....マレノア、とまではいかないが、中々お転婆な娘だった
貴族令嬢とは思えない、淑やかさもあまりない
しかし、とても輝いた笑顔を見せる娘
一度見た娘の婚約者も、彼女を見て幸せそうな顔をしていた
.....今の人間社会は、こんなにも平和なものなのか
貴族だというのに、ピリピリした空気も感じない
昔の人間はこんなに和やかな雰囲気ではなかった
こんな人間が、妖精族と言っても恐怖しない人間が、今世の中には大勢いるのだと言う
それどころか、妖精族への差別意識も薄れ、無いに等しいと
......ああ、くそ
こんな世の中がもっと早く来ていれば
誰も死なずに済んだかもしれない
マレノアも、レヴァーンと共に子の顔を見られたかもしれないのに
レラもまだ....
....今更、こんな事を言っても仕方がない
マレウス・ドラコニアが健在している、その事実だけでいくらか救われただろう
無い物ねだりをするな、ネロ
お嬢様が子を産んだ
エインと名付けられたその赤子は、よく泣き笑う子だった
おかげで毎日寝不足だ
昔は二、三日起きていても平気だったのに、緩んだな
ある時、お嬢様から誕生日を尋ねられた
いつだったろう、忘れてしまった
そう言ったら、お嬢様はピアスを俺に渡し、こう言った
「今日がネロの誕生日、そうしましょう、わかった?」
あまりにも優しい声で言うものだから、あっさりと受け入れてしまった
外へ買い出しをしていた時、急に意識が暗転した
目を覚ませば、恐らく人攫いであろう奴らがいた
昔よりも高度な妖精封じの魔道具がはめられている
....表に出なくなっただけで、こんな奴らもまだいるんだな
血を抜かれたり、無理矢理魔力を抜かれたり
色々されている内にまた時が過ぎた
おーくしょんとやらにまた出された
またどこかに売られるのだろう、そう思っていたら、よく知る魔力を感じた
お嬢様だ
お嬢様がいる
しかし、そこにいたのはお嬢様ではない
ああ、エイン、貴方か
お嬢様譲りの緑の瞳が俺を見ている
お嬢様の婿様も一緒だ
いや、もう旦那様だったな
その後彼らに買われ
俺は再び、ブルームに戻ることになった
すっかり俺の背と同じくらいになったエイン様が、俺に時計を渡してきた
見知ったものだ
リリアから、貰った時計
「どうしてこれを.....」
「君と、似た魔力を感じたんだ
君の物だったのかなって思って、父様に言ったら買ってくれてね
凄いよ、それ、妖精族の加護が沢山かかってる
君の友人がかけたの?」
ああ、そうだ、友人だ
俺の友が、作り渡してくれた物
「はい...」
「良かった、やっぱりそうだと思ったんだ」
....お嬢様とそっくりな顔で笑うようになったな
十数年、俺からしたらほんの瞬きの間
本当に、時は早い
お嬢様はもういないのだという
お嬢様の側仕えとしていた俺は、弟君のフランの下に付くこととなった
お嬢様の淑やかさを全て吸ったのかと思う程、礼儀正しい子供だった
それでいて聡明で、朗らか
理想の貴族とはこの子の事だろうな
旦那様が孤児院から女児を連れて来た
ユナという可愛らしい子供
フランとよく似た魔力をしている気がするが...気のせいだろうか
本当の家族かと思う程フランと仲良さそうに話している
うちに来て正解だったらしい
癒えつつあった魔力の器、それは時計の加護により完全とは言えないがほとんど修復された
しかしこれを手放せばまた傷付いてしまう
肌身離さず持っておこう、今度こそは
魔法がそれなりに扱えるようになった俺は、魔法の才能があるフランに魔法を教える事になった
やはり優秀だ、飲み込みが早い上扱いも上手い
あと数年もすれば素晴らしい魔法士になる事だろう、誇らしい
フランが15になった頃、ナイトレイブンカレッジから入学許可証が届いた
懐かしいな、俺もそれを持っていた
確かリリアの物と一緒に送られてきたはずだ、くだらないと二人でゴミ箱に放り込んだ記憶がある
魔法学校、か
基礎から応用まで叩き込んだつもりだが....フランに魔法教育は今更必要なのか?
フラン本人は行く気らしいから止めはしないが
フランが寮に入り約半年
フランの守護役として俺も編入しろとエイン様に言われた
悪いが御免だ、人間の大勢いる所など行きたくは無い
「あそこ、思っていたより治安が悪いらしいんだ
それにほら、マレウス・ドラコニアもいるだろう?無いとは思うけどもし何か癪に障るような事をしてしまったら雷を落とされるかもしれないし....
不安でメッセージを送りすぎてフランにうるさいと言われたばかりなんだ、僕のメンタル維持の為にも頼めないかな、ネロ....」
「いくらエイン様の頼みと言えど私は....」
「君の人間嫌いはよく分かってる、今更それを否定する気もない
君がされてきた事を思えば最もだ
でも....ネロも不安なんだろ?パソコンで何を調べてるのかと思ったらこの前のマジフト大会の中継だったりちょっと監視カメラハックしたり....」
「だ....誰もいない所でやっていたのですが...?」
「ほらやっぱりやってたんじゃないか!
カマかけだよ、中継見るのはいいけど犯罪行為はやめてね、やって欲しければ頼むから」
「.....」
駆け引き上手になったな、この方は
「あと.....匿名で君の入学許可証が届けられたんだけど....」
「は....?あれはもう燃やされているはず...」
「わしゃわしゃになってるけど燃えてはいないかなぁ...」
見てみたら本当にそうだ
あの時の入学許可証
....誰かの手のひらの上、という気はしているが
フランの守護と言われてしまった上こんな物があればな.....
「....仕方ない.....編入、お受け致します」
「本当?!ありがとうネロ!
これでゆっくり寝られる.....」
いつからこんなにぶらこんになったんだ....?
.....マレウス、か
あまり会いたくないな....フランと同じ寮であってくれ
編入式、闇の鏡とかいう魔道具から告げられたのはディアソムニアという言葉
マレウスのいる寮じゃないか、今はいないようだが
寮長をしていたはず、寮長と副寮長、もしくは代表生徒しかいないこの場所に何故居ないんだ....
いや、それよりも
「本当に私はディアソムニアか?」
「嘘偽りは無い」
「イグニハイドの間違いだろう、従者が違う寮に行ってどうする」
「汝はディアソムニア、そこに嘘は無い」
「鏡、いい加減に....」
「いい加減におし!
寮選別で駄々をこねる一年生なんて始めてだよ....
闇の鏡に間違いは無い、君はディアソムニアだ
大人しくマレウス先輩の所へ行くといい」
赤髪の子供が怒鳴ってきた
....背が低いな、あの人間
「マレウス様の手を煩わせるな!早く来ないか、人間!!!」
次は耳がキーンとするような大声が飛んできた
.....覚えのある見た目だな
「.....君、姓はジグボルトか?」
「そうだが.....なぜ知っている....?」
やはりか、バウルの子孫
人間との混ざり物.....ハーフと言うんだったか
バウルも思考が変わったのか、人間の血を入れる事を許すなんて....
「はぁ.....ネロ、僕が心配なのはわかりますが、闇の鏡が言ったことです
従いなさい」
「....ああ、承知した」
「話は纏まりましたかね?ではラティス君はディアソムニアへ、他は各々解散するように!」
「ほれ、新入り、こっちへ来るんじゃ!しっかり着いてくるんじゃぞ?」
..............
リリアだな
リリア?
リリア.....にしては雰囲気が柔らかい....
本当にリリアか....?
リリアの皮を被った誰かだったりしないか....
いや....怒っている....?
もしくはもう他人として扱われているか....
当然だ、人間に敗れただけでなく捕らえられ今まで生きながらえていたなど.....恥晒しにも程がある
リリアは随分魔力が落ちたように見える
この様子では寿命が近いな
....確か、もうすぐリリアは700になる
リリアの種族ならば当然か
歓迎の宴が急ぎ執り行われた
不在だったマレウスも姿を見せた
....マレノアにそっくりだ
レヴァーンの面影もある
本当に、マレノアの忘れ形見が今ここに生きているんだな
....しかし、近くにいる男
なんだ、あいつ
夜明けの騎士と瓜二つだ
奴の血筋か、または薔薇の王国の貴族、本家の方か
「.....俺の顔に、なにか付いているだろうか?」
気まずそうに話しかけてきた
そんなに見ていた覚えは無いが...
「いや」
「...そうか」
....落ち着け
今、人間社会では妖精族と人間との間に遺恨は無いという認識のはずだ
ここで感情を出せば全て台無し
400年ほど時が過ぎた、マレノアと夜明けの騎士のあれこれももう過去の事
子孫にまでそれをぶつける気はない
この怒りは、胸の内に秘めておくべきだ
「のう、ネロとやら」
「....なんだ」
「ちと、話があるんじゃが、付き合ってくれんかのう?」
笑顔でリリアが問うてくる
....うん、怒っているな、これは
「悪いが、私はもう疲れたから寝た」
「付き合えっつってんだよ、ツラ貸せ」
「....最初から建前など作らずそう言えば良いものを」
リリアらしくもない....
「あの時どこにいやがったんだてめぇ!馬鹿野郎が!!
夜明けの騎士に挑んだのか?!あの満身創痍で!馬鹿じゃねぇのか?!」
やはり怒られた
分かってはいたさ
それはともかく、先程のきゃぴきゃぴした感じはどこへ吹っ飛んだんだ、君
情緒がおかしいぞ
「....無謀な事をしたのは謝罪する、しかしそんなに大声を出したら寮の者に....」
「どうでもいいそんな事は!!」
「....」
「マレノアの魔力が消えて、かと思ったらお前の魔力が風を支配してこっちまで飛んできた
そんでまた消えて、お前はそのまま行方不明
翌日には城の傍にお前の剣だけ刺してあった」
「剣は戻っていたんだな....?」
「...なぁ、ネロ
その時俺がどんな気持ちだったかわかるか」
...怒っているのでは、ないな
「...悪い、リリア、心配をかけた
しかしこの通り俺は無事だ、生きているし魔法も使える
だからもう心配する事は....」
「....目、どうした」
「え?」
「あと魔力量も異様に落ちてる
これで無事だ?んなわけあるかよ」
「......」
「...はーっ....ひとまず、いい、終わりにする」
「リリア...」
「....おかえり、ネロ
そしてようこそ、ディアソムニア寮へ
ディアソムニアの副寮長として、わしはお主を歓迎しよう」
「....リリア」
「なんじゃ?」
「そのキャラ付け、気持ち悪いぞ」
「うるせぇ!!!」
名:ネロ・ラティス
歳:リリア曰く738歳
誕生日:リリア曰く8月27日
種族:妖精
好:白ワイン
苦、嫌:氷菓、花火
ユニーク魔法:刹那を生きよ
付き添いの社交の場で口にした際、一瞬でお気に入りへと昇華された白ワイン
近衛兵時代はお偉い方といたせいであまり美味くは感じなかったが、時が経ち技術も進歩し好きな味になっていたようだ
氷菓と花火が苦手な理由は言いたくないのか口にしてくれない
歳や誕生日が記憶の中であやふやになっていたものの、リリアによって思い出された
リリアの誕生日をネロは覚えているが、リリア本人が1月1日と言っているので言わない事にした
得意魔法は木属性
昔ほどでは無いが、恐らく今もナイトレイブン生全員くらいの人数であれば簡単に殺せるであろう実力を持つ
幻聴、幻覚は未だ残っている
しかしその苦しみを表に出そうとはしない












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!